光の王都へ

 夜が明けて、ようやっと辿り着いたバチカル、キムラスカの首都。何度か来た事はあるが、将軍をこの目で見たのは初めてだ。

「お初にお目にかかります。キムラスカ・ランバルディア王国軍第一師団師団長のゴールドバーグです。この度は無事のご帰国おめでとうございます」
「ご苦労」
「アルマンダイン伯爵より鳩が届いております。マルクト帝国から和平の使者がきておられるとか」

 ああ、この人も生え際が危ないなぁ。軍人だし、やっぱりストレスが多いのだろうか。ん? じゃあアルマンダイン伯は何にストレスを感じているのだろうか。人間関係が妥当か。まあ彼は言うほど頭髪が危ないと言うわけではないのだが。
 何て事無い不毛な考察をしている間に皆が自己紹介を終わらせていた。ふむ、最後に私が残ったらしい。

「ケセドニアを拠点に置いている護送屋のセトと申します」
「ああ、貴殿があの」

 あの、ってなんですか。

「お噂は予々聞いておりますぞ。キムラスカ、マルクトの双方から声がかかったにも関わらず何処にも属さない“中立の護送屋”だと。この機会に如何かな? 我が軍に入るというのは」

 おいおい、マルクトの懐刀を目の前にしてその提案はどうなんだ。ちょっとだけジェイドに対しての挑発も入っている気がするのは否めないと思う。

「私では力不足です。それに私は今の生活が気に入ってます故」
「そうか、それは残念だ」

 うーん、不敬罪にはならないよね? イヤだよ? 断っただけで打ち首なんて。などと思っていたが、彼もそこまで心の狭い人ではなく普通に通された。私としてはこのままケセドニアにとんぼ返りしようと思っていたが、あえなくルークとイオンに捕まってバチカル入りを果たした。ああ、シンク達に怒られる。


 ◆ ◆ ◆


 見上げればずっと上に続く街並み。いつもバチカルには港までしか来た事が無かったから、この目で見るのは初めてとなる。それにしても、天空客車に乗っていた時から思っていたが、上にうず高く続く街並みだがが下にも深い。底が暗くて見えないくらいだ。



底が、見えないなぁ。



「っとぉおお!? 何やってんだよセト!」
「え?」

 いつの間にか何故かルークの胸板に後頭部が当たっていた。腕を引っ張られたようだ。

「え?」

 もう一度疑問符を口にする。だって、何故私はルークに抱き止められてるんだ?

「危ねーだろ! どんだけ身ぃ乗り出すんだよ!?」
「は?」
「は? じゃねーよ! 落ちるとこだったっての!」
「……え?」

 漸く自分の体勢を省みる事ができた。目の前には柵、私は尻餅をつき、ルークも同じ。そして私は彼に抱き止められる形だ。柵のあちら側には、先程見た奈落の底があるに違いない。

「……」

 ああ、やってしまった。まさかこんな所で気を抜くとは思わなかった。
 落ちるところだったのだ、あの暗闇に。

「久しぶりだなぁ……」
「え?」

 私の呟きが聞こえなかったのか、ルークが聞き返してきた。私はそれを無視して、するりとルークの腕から抜け出した。

「驚きました?」

 ニヤリとした笑みを浮かべて座っているルークを見下ろす。彼はポカンとした表情をして、それから顔を真っ赤にしながら立ち上がった。

「う、嘘かよ!?」
「嘘なんて人聞きの悪いこと仰らないで下さい。ただ、故郷に帰ってきたのに元気が無いルークに対するお茶目な冗談です」
「質の悪い冗談だなオイ! 二度とすんなよ馬鹿!」





『次は助けないぞ、この大馬鹿野郎』
『今度やったら絶対許さないからね』





 シンクとフローリアンの声がフラッシュバックした。

「心得ておきます」

 あの時と同じ受け答えをしたのは、ただの偶然だ。