結界術極めたら呪いの王の領域に触れちゃった人の話
「きーよーたーかーーーーー」「ぐえっ」
後ろから肩を組むようにほぼラリアットをかます。仕方が無いだろう、同じ高専に所属しているはずなのに会うのは久しぶりの同級生なのだ。
「久しぶりじゃーん! まぁた頬こけたんじゃない? ちゃんと食べてるか? 筋トレしろ筋トレ」
「雨流、雨流、しぬ、し……」
「あっごめん、勢い余って」
パッと離して解放してやる。ゴホゴホと数度咳込む伊地知潔高。すぐに姿勢を正してスーツを整える。
「これから仕事なんです、用があるなら手短にしてください」
「俺も仕事ー、久しぶりに同級生見かけたから絡んだだけー」
潔高の眉尻がピクリと動いたのを見てケラケラと笑ってしまった。
「ごめんごめん、今度ご飯行こってお誘い。潔高プライベート用の携帯全然見ないから」
「忙しかったんですよ、後で見ておきます」
「そうしてくれ、じゃあまた」
「ええ、また」
また、が本当に来るかも分からない職業で、俺たちは時々こうして約束をする。願掛けみたいなものだ。フラグを立てているような気がしないでも無いが、今のところ全部折っている。
仕事終わって次の日、潔高を探しに高専に行く。結局プライベート用の方に既読が付かなかったので直接。とは言えどこにいるのか知らないのでちょっと裏技を使う。
一瞬だけ高専の一部を結界で囲いすぐ解除を何度か繰り返す。潔高の呪力が引っかかった結界のところに行って後は残穢を辿れば会える。なんか五条先輩も家入先輩もいるから俺が行くのバレてるなあ。
◆ ◆ ◆
「「「あっ」」」
一瞬結界が張られた気配に、雨流が誰か探していると分かった。硝子と伊地知も気付いたらしい。
「多分雨流ここに来ますね」
「何? 約束でもしてたの?」
「いえ、連絡貰ってたのですがまだ既読も付けてなかったので直接来ようとしているんだと思います」
「そっかぁ、まあでもここに来るなら丁度いいし、悠仁の死体に結界術的な解析をしてもらうか」
「じゃあ解剖するのもうちょっと待つ? 雨流の解析後が良いよね?」
「そうだね、そう、しよう、か……」
硝子の言葉に同意しながらそちらを向くと、上体を起こした悠仁がいた。死んだと思った教え子が生き返ったのだ。
その瞬間、心臓を治すのにどんな縛りを課されたのかなど色々考えが巡ったが「おわっ!フルチンじゃん!」という彼の言葉に考えが霧散した。とりあえず、教え子が生き返った事を喜ぼう。
「悠仁! おかえり!」
「オッス! ただいま!」
今し方生き返った虎杖悠仁とハイタッチ。当たった手が温もりがあった事に酷く安堵した。
「あれー? 一人増えてる?」
そこにひょっこり現れた伊地知の同期の宮古場雨流。先程まで死んでいたから悠仁については結界の探知に引っかからなかったのだろう。いつの間に人一人増えていたのかと首を傾げている。ちょっと先輩としての悪戯心の芽が生えたので「見〜た〜な〜?」とニヤリと笑ってやると、雨流は口元を痙攣らせて半歩下がる。ここに来る事が分かっていた時点で巻き込む気満々だったのでそのまま部屋に引き摺り込む。その後事情説明をした、伊地知が。
◆ ◆ ◆
「なんて事に巻き込んでくれちゃってるんですか!」
「アッハッハッハッ!」
「もう、ホント、この、クソ野郎……!」
潔高の話を聞いたが最後、上と対立する側に入ってしまっていたのは目に見えていた。別に呪術界の上層部と仲良しこよししようとは露程も思ってなかったが真っ向から対立しようとも思ってなかったのに。
「はー笑った、思った通りの反応してくれちゃってもー」
笑いすぎて涙目にすらなってそうな(実際は見えないが)クソ野郎先輩、基五条先輩を睨む。が、何かできるわけではないので大きなため息をついて、件の少年を見る。両面宿儺の器、虎杖悠仁。初めて対面するが、めちゃくちゃ筋肉質の体に人懐っこそうな少年然とした顔立ち。取り急ぎで用意された服を着ながらきょとんとした表情でこちらを見ている。
「初めまして虎杖悠仁くん、俺は後ろで笑ってる五条悟の後輩で宮古場雨流。現役呪術師でそこにいる伊地知潔高の同期でもある。何か質問は?」
「あ、えーと、初めまして虎杖悠仁です。質問は今は特に……伊地知さんと同期?」
「そうだよ、伊地知サンも高専卒業生」
「へぇそうだったんだ」
「ちゃんと敬えよ? 戦闘センスはからっきしだったから補助監督に回ったけど状況把握と帳に関しちゃ君たち学生よりも遥かに経験積んでるぞ」
後ろでまた五条先輩が「戦闘センスからっきしって!逆に追い討ちかけてる!」と言いながら笑い始めた。事実だ。潔高がちょっとイラッとしてる気がする。すまん。
「悠仁をしばらくの間匿うから雨流には結界を張ってほしい。僕たち以外には宿儺の器は死んだ事にしておきたい」
「ここまで来たら拒否権なんてないんでしょ、やりますよ。どこに張れば良いですか」
「自分に張ってる結界を悠仁にも張れない?」
「無理ですよ何言ってるんですか!?」
「じゃあ訓練する部屋幾つかで良いか、稽古場とー地下室とーあとはー」
どーしよっかなーと悩んでる五条先輩にもう一度ため息を吐く。俺が自分に張ってる結界というのは、体表を覆うように張っている膜の事だ。これのおかげで呪力のロスを極力無くしたりちょっとやそっとの物理攻撃や呪力攻撃を防いでいる。細かい呪力コントロールが必要なため自分には出来ても他人には無理だ。
恐らく五条先輩は虎杖悠仁に呪力操作を指南するためのガイドラインを俺の結界で引かせたいのだろう。あとは彼の呪力を外に漏らさないようにして欲しいと言ったところか。そうすれば余程目の良い人でなければ残穢は気取られない。前者は無理だが後者なら彼が過ごす場所を結界で囲えば可能だ。
改めて虎杖悠仁を見る。さっきまで死んでいたというこの少年、今はもう既にじわりじわりと呪力が染み出している。つい先日まで一般人だったと聞いている。なるほど呪力コントロールはまだまだという事か。
流石にまだ誰にも気付かれていないだろうが、確かに他とは違うこの呪力はすぐに宿儺の器の物と感づかれるだろう。一応この解剖室にも移動するまでは結界を張っておこう。
◆ ◆ ◆
自身の生得領域から外の様子を伺っていた両面宿儺。領域の外側、体の持ち主の虎杖悠仁よりも外に位置するところに結界が張られた気配に「ほう」と感心する。手印も結ばず独自の簡易領域を生成したその手腕に対してである。
千年前ならいざ知らず、現代の呪術師で結界術をここまで洗練させる術師は珍しい筈だ。しかも結界を張った事によってこちらの生得領域を感知したようで、目を見開きこちらを見ている。そう、虎杖悠仁の奥にあるここの生得領域をだ。息を詰まらせ脂汗が滲み出ている様子は中々に愉快だったためニンマリと笑ってやった。
「良い、赦す。貴様の簡易領域は俺を不快にさせる物ではない。但し、もし俺に干渉しよう物ならその限りではない事を肝に銘じておけ」
まるで手に取るように相手の考えている事が分かる。畏れ敬い、赦しを得てしても緊張が解けない様にまたクツクツと笑ってしまった。
◆ ◆ ◆
「そうだ雨流、私はもう解剖出来ないけど結界術側の解析は対象が生きててもできるでしょ? 一回ここでやっとく?」
「お願いします勘弁してください俺はまだ死にたくない」
「は?」
家入先輩の言葉を聞いて思わずその場で土下座をした。違います両面宿儺様、先輩に命令されたとしても絶対やらないので今の先輩の言葉はノーカンにしてください。
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