呪いの王に笑われながら映画を眺める話

 今俺は何故か分からないが悠仁少年と一緒に映画鑑賞をしている。本当に何故か分からない。


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 テレビがある地下室に大量のDVDに学長特製の呪骸を見て懐かしい気持ちになったのも束の間、地下室全体を囲う結界を張るよう五条先輩に指示された。俺は自然な振りをしながら「じゃあ上の階から結界張りますねー」と階段を上がろうとした所を襟首辺りの服を掴まれて引き止められたのだ。勿論引き止めたのは五条先輩。

 俺が頑なに結界を外から張ろうとしていたのには理由がある。悠仁少年の中にいる両面宿儺とその生得領域のせいだ。
 結界の外から悠仁を囲うように結界を張れば『なんか俺が張った結界の中に知らない空間がある』くらいの認識になる。今回の場合その『知らない空間』と言うのが宿儺の生得領域。
 元々俺の結界の特性上、結界内の情報は全て俺に筒抜けになる。が、俺の結界内で領域展開や簡易領域をされるとその部分だけポッカリと情報が抜け落ちる。生得領域もその範疇なのだろう。
 ここからが問題なのだが、自分も結界内にいた際『知らない空間』の認識がガラリと変わる。自陣の中に敵陣があるかの様な、まるですぐ隣に宿儺の生得領域が存在しているような感覚になる。遥か遠くにあるようにも感じるし、触れるか触れないかの距離に両面宿儺がいるような気がしてくるのだ。前述した領域展開や簡易領域の場合はキッチリ線引きされた区切りが分かるだけだったのに何故両面宿儺の生得領域となるとこうなるのか不明である。

 正直ちびりそうなくらい恐ろしい。呪いの王の前では1級呪術師の肩書も全力疾走で逃げ惑う。
 齢26にしてマジ泣きしそうな気持ちのまま"内側で"結界を張る。途端に耳元まで迫る両面宿儺の生得領域の気配。両面宿儺がすぐ隣でニヤニヤと、俺の畏れ慄く様子を見ている。
 落ち着け宮古場雨流。虎杖悠仁は完全に体の主導権を握っていると言うではないか。それこそ縛り無しで体を明け渡さない限り安全なはずだ。
 五条先輩が悠仁に何かしらを教えている事は分かっている。なんて言ったってここは俺の結界内だ。誰が何をしているのかは全て把握できる。すぐ隣にいる呪いの王の気配が無ければ一緒になって悠仁に呪力コントロールの手ほどきをした筈だ。恐らくそれをさせるために五条先輩は俺をここに連れてきたのだから。

 大きく深呼吸をする。額に滲む冷や汗を拭い、俯いていた顔を上げる。大丈夫、干渉しなければ問題ない筈。すぐ隣にあるような気配がするだけで、宿儺の生得領域は悠仁の内にある。干渉しようとも思わないしできるとも思わない。
 ちょうど今、呪骸にまた殴られた悠仁。「も"ぉーーーー!!」と呪骸を床に叩き付けたところで跳ね返った呪骸をキャッチする。暴れる呪骸に規定値ぴったりの呪力込めれば途端に大人しくなった。

「うわすげぇ! そんな簡単にできるもんなの!?」

 素直に称賛してくれる悠仁少年。こんな素直な少年の中にこんな恐ろしい領域が存在しているなんてと、そのギャップで風邪を引きそうである。

「これくらい瞬時にできてかつ一定に保てれば映画一本くらい余裕だよ、頑張ってね悠仁」

 そのまま悠仁に呪骸を手渡す。その様子を見ていた五条先輩がDVDデッキにセット完了したのち立ち上がった。

「じゃ、僕用事あるから、その調子で頑張ってね」
「あんま潔高虐めないでくださいね」

 言っても無駄だとは思うが、この後五条先輩を車で送るので外で待機しているであろう、心労絶えない同期のために五条先輩に提言。しかし「さあどうかな」と言われてしまえば心の中で潔高に合掌するしかない。すまん俺には止められない。

「じゃあ俺は上で待機してるから悠仁はここで映画見てな」
「え!? 一緒に見ないんすか!?」
「勘弁してくれ……」

 悠仁はともかく、呪いの王と同席で映画鑑賞できるほど俺の精神は図太くない。そう思っていたのに。

「何言ってんの。雨流は悠仁に呪力コントロールの極意を教えるさせるために連れてきたんだから。あとついでに宿儺の気配に慣れときな。いつか役立つかもよぉ」

 「頼んだよ」と肩をポンと叩かれ念押しをされる。死刑宣告された気分だった。
 その後五条先輩は悠仁に何事かを質問してから本当に出て行ってしまった。そして冒頭に戻る。


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 今俺は何故か分からないが悠仁少年と一緒に映画鑑賞をしている。本当に何故か分からない。
いや、理由は分かっている。全部五条悟のせいだ。
 すぐ隣で、または遥か遠くでニタニタと笑う両面宿儺の気配を感じながら映画に集中できるはずもなく、悠仁が呪骸に殴られるたびに呪力コントロールのアドバイスをするbotに成り果てた。