THE STONE WORLD


千空となら





あっという間に放課後。
帰り道、千空は相変わらずの様子だったけど、私は正直めちゃくちゃ気まずかった。だって、だってなんだもん。
そんなこんなで家に到着した私たち。私はまず千空をリビングのソファーに座らせてから、コホンと咳払いした。

「見せたいものがあるの」

私は自室から、とある小さな箱を持って来た。もちろん指輪を入れるようなサイズのものではなく、それよりももっと大きく平たい箱だ。いくら察しの良い千空でも、この時ばかりはまだ展開が読めていないらしい。小首を傾げている。
私は少し得意になりながら、千空にその箱を手渡した。その箱に記されたロゴを見て、彼はぶったまげた。

「!?」

あ、千空が驚いた顔、珍しくて好き。

「これね、ネックレスなの。とっても綺麗で可愛いんだよ」
「クソ高ぇとこじゃねえか。どうした、こんなのどこから湧いて出やがった?」
「お母さんのやつ。出稼ぎの時、調子に乗って買ったんだって」
「へえ。たしか今、親父さんと一緒にヨーロッパにいるんだったっけか」
「そうそう、共演してるの」

実は私の両親は、どちらもプロの劇団員として活躍している結構凄い人たちなのだ。そのお陰で彼らは長期間日本を離れることも多く、私は今絶賛一人暮らし中である。
ちなみに千空の父親である百夜さんは、私の両親とは元同級生で、昔から仲が良かったらしい。私が石神家と付き合いが長いのはその為だ。

「んで、そんな大事そうなお高いネックレスを俺なんかに見せて、一体何をするつもりだ?」
「これ、千空が預かっといて」
「ちょっと待て。さっそく意味が分からねえ」

驚くだけでなく、頭を抱える千空。面白いからずっと見ていたいけど、そんなことをしても仕方がないので私はすぐに補足した。

「これ、お母さんの形見なの」
「待て待て待て。死んでねえだろ」
「日本を出る時に、私が一人でも寂しくないように私にくれたの」
「初めからそう言え!ってか、だったら尚更受け取れねえよ。値段以上に価値あるもんじゃねえか」

千空がそう言うのも無理はない。たしかに、このネックレスはとても大事なものだ。でも、だからこそ、千空に預ける代換品はこれしかないと思った。

指輪の代わりに・・・・・・・

私はハッキリとした口調で言った。

「指輪の代わりに、持ってて欲しいの。私が自分のお金で、ちゃんとしたやつを買えるようになるまで」
「・・・それ」
「千空は器用だから、自分であんなに凄い指輪も作れちゃうけど、私はそんなことできないから。自分で稼いだお金で買いたいの」

私の発言。上手く説明できているか分からないが、さすがは千空、この時点で全てを理解したようだった。私はなんだか恥ずかしいので、少し違う方向を向いて話を続ける。

「私、今まで結婚なんて全然考えたこともなかったけど・・・今日朝から一日中考えてみたの。もし私が将来、誰かと結婚するとしたら・・・」

私は制服のポケットから、今朝千空が私にくれた指輪の箱を取り出した。その箱を開けて、中の指輪に目線を落とす。それはとってもシンプルな物だったけれど、とっても綺麗に輝いていた。

「もし結婚するなら。そう考えた時、千空のことしか思いつかなかったよ。まあそうだよね、一緒にいて楽しいのは千空だもん。だから、千空が私と結婚したいなら、それもまあ良いかなって・・・思って・・・」

あれ?私、今とてつもなく恥ずかしいこと言ってない?今更ながら、全身が熱くなってくる。膝の上で指輪の箱を握り、言葉の続きを一生懸命考えた。すると、千空は見兼ねたように口を開いた。

「もういい、充分伝わった。テメーが考えてること全部。そこでナマエ、ちょっと頼みがあるんだが」
「頼み?」
「こっち向け。ほら、早く」

右手で小さく手招きをする千空。不思議に思いながら彼の方に顔を向けると、突然ぎゅうと真正面から抱き締められた。

だっ。だきしめられた!

「せ、千空・・・!?」
「ククク、いきなり何を言い出すかと思ったぜ。ったく、テメーが考えそうなことだなァ」
「そ、そうかな?」
「ありがたく、預からせて貰うわ。そういうことならな」

千空の顔は見えないが、どんな顔をしているのか容易に想像することができた。
私はそのまましばらくの間、千空の腕に閉じ込められていた。うわあ、なんかドラマとかの展開のやつ!まさか私がヒロインみたいな扱いをされちゃうなんて!やばい、大感動!ていうか千空、なんだか変な薬品みたいな香りがするね!相変わらずだ!
この状況では、そんなバカみたいなことしか考えられない。

「なんだよ、別に指輪の代わりなんて必要ねえのに。テメーがそうしたいなら勿論そうすればいいんだが」
「うん、私がそうしたいと思ったの」
「だいたい、指輪自体そもそも要らねえよな。その今テメーが持ってる指輪も思いつきで用意しただけだし」
「そうなの?」
「所詮はただの気分的な問題だろ?儀式の一環として持つくらいだったら、俺はロケットの材料にしてえ」
「あはは。それ、私じゃなかったら幻滅されてるよ」
「テメーだから言ったんだよ。それに、ナマエ一人いてくれれば、指輪なんて必要ねえ」
「うえ!?」

今なんかすごいこと言った!?
私が驚いている隙に、彼はいつの間にか私の手から指輪の箱を奪い去っていた。やけに真剣な顔をするので、私は思わず目を瞬かせる。

「ナマエ、改めて聞く」


その日のことは、何千年経った今でもずっと忘れられない。特別な想いが一気に膨れ上がって、より一層千空のことが大好きになった。
この原始の世界で、たとえ恋愛云々が二の次になったとしてもだ。




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