初対面。スタンリーに奇襲をしかけたが反撃されて拘束される。
※原作151話でゲンたちと一緒に狙撃手を追跡。海外で格闘技・拳銃に触れたことのあるご都合ヒロインです。
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ゲンさんが新手の敵にボディーチェックを受けている瞬間、そこを狙って後頭部飛び蹴りを仕掛けた私だったが。相手が年上かつ、男性かつ、元軍人というアドバンテージ盛り沢山の状況で、たとえ大会で一位を取っていたとしても、三千年ものブランクを持つただの小娘が彼を出し抜くことなどできなかった。
いや、ほんの一瞬だけ。彼の驚く表情が見れただけ、成果はあったのかもしれない。スタンリー・スナイダー。彼は私の飛び蹴りをすんでのところで避けたあと、その動きにくそうな格好とは裏腹に即座に私を背後から捕まえて、うつ伏せになるように地面に押し倒した。
「うあ゛ッ」
思わず喉からうめき声が飛び出る。胸と腹を思いっきり打ち付けたので、ついでに中のものも一緒に出てきそうだ。彼は容赦なく体重をかけてくる。いつまで経っても息ができない。さすがアメリカ、日本より野蛮だ。
「ん?思ってたより小さいね」
ふと、上から英語でそんな呟きが聞こえてきたと思ったら、彼は意外にも早いうちに私から退いてくれた。そればかりか「立ちな」と言って、こちらに手を差し出してくる。
捕まえないでおいていいのか?そう思いながらも、差し出されたものは仕方がない、明らかに相手の立場が上なのだ。私は咳き込みながらもなんとかして息を整え、その手を掴んで立ち上がる。そして流れるようにボディーチェック。打ち付けた上半身が未だに痛むが、彼はそんなことは気にせずさっさと手を動かしている。
「あんた彼の仲間か?」
私が何も隠し持っていないとわかれば、銀髪のアメリカ人はそう聞きながらさっそく新たな煙草を取り出した。しかし、私が答えを言う前に、ゲンさんが「ちちちちょっとナマエちゃん!なにやってんのいきなり!」と焦った様子で近寄って来たので、男はそれだけで納得したようだ。
私はゲンさんの方にだけ返事をした。ただし男にも伝わるように英語で。
「先程船の上での銃撃を受けて、反撃したくなってしまって。せめて私の力でやれるだけやってみようと思ったのですが・・・ダメでした」
あからさまに「焦ったあ〜!」という顔をするゲンさんに、申し訳ない風を装ってごめんなさいと謝る。たしかに今回はゲンさんの危ない真似はしないように、という指示を守らなかった私が悪い。でも後悔はしていない。みんなを危ない目に合わせたのはこの男なのだから。
ちらりと男の方を見やると、彼はどういうわけか薄らと笑みを浮かべている。思えば彼は最初から今もずっと、終始余裕綽々の表情だ。成人になったばかりのゲンさんはともかく、私は年齢的にギリギリまだ高校生。年端のいかない子供相手に緊張する必要もないというわけだ。
「そっちの彼はいい。ただ、あんたはまたいつ暴れ出すか分からねぇから拘束させてもらうぜ。両手出しな」
遅かれ早かれどうせ敵陣に向かうことになるんだし、奇襲した以上こうなることは予想していた。二対一なのにこの状況で私たちは抗うことなどできない。私は素直に両手を差し出した。
その時、男が私の手を見て「ふうん」と頷いたのを私は聞き逃さなかった。私の手。おそらく彼の目に入ったのは、銃を扱い慣れている独特な手の跡だ。たとえば体操選手が手にタコをつくるように、私の手にもそのような跡がある。何故ならつい先程、空を飛ぶ飛行機なんかに当たらないと分かっていながら、陽さんの拳銃を奪って、握り締めて、何発か打ってきたところだったのだから。
そりゃあ、本職だから見逃すはずがないよな。日本の女子高生が銃を持ち慣れているなんて珍しいから、より一層印象に残ったはずだ。
あとから振り返れば、この時には既にスタンリーに目をつけられていたのだろうか。
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その後銀髪男に連れられて敵の本拠地に到着した私たち。ゲンさんがなにやら壮大な装置にかけられている間、私はやることがなくただ突っ立っていた。
実は私は個人的に誰よりも強メンタルであると自負しているほど、何があっても動揺しない自信がある。Dr.ゼノの面前に立っても顔色一つ変えない私に、まずはオドオドしている(演技をする)ゲンさんから情報を聞き出そうと考えたのだろう。ゲンさんなら大丈夫。そんなことよりも、私はこの敵の本拠地に興味津々で、手首を縛られながら遠慮なく周囲を見渡していた。
その視界の中で、私たちをここまで案内した銀髪男の横顔を発見。Dr.ゼノがスタンリーと呼んでいたっけ。目に入ればいつも煙草を咥えている。出会って間もないが、超ド級のヘビースモーカーなのだと雰囲気で分かってしまう。
「俺が気になんの?」
じいっと視線を送り続けていたためか、当然話しかけられた。私の方がだいぶ身長が小さいので、相手は若干(本当に微妙に)身を屈ませて、少し離れた場所から私の顔を覗いてくる。
「はい、まあ。気にならないと言ったら嘘になります。ただ、『あなたが』じゃなくて『この本拠地そのもの』の方が正しいです」
「気持ちは分かんよ。でもあんたはこっちからしたら敵なんだ、あんまりジロジロ観察されても困る」
「はは、そうですよね。気をつけます」
そう言いながら、私はスタンリーの両手を凝視した。私たちの船をマシンガンで狙撃したスナイパーは十中八九この男性だと思っていたが、至近距離で見ると改めて確信できる。手の感じ、体つきも含めてもう全身がプロのそれだ。もちろん私は渡米した際にほんの少し経験しただけなので、何を偉そうに分析しているんだと自分でも思っているけれど。
これまでのように、もし千空率いる科学王国が彼らと和解することができたのなら、是非とも彼のような射撃のプロに一度指南していただきたいな、と悠長にそんなことを考えた。
まあ当たり前だけど、いつまでも拘束を解いてくれる様子はない。これのお陰でここに来るまでの道中、何度もコケているので、両手が使えないのはもう懲り懲りなのだが。
早くこれを解けというオーラが出ていたのか、それとも指摘されてなお凝視し続けた私に観念したのか、スタンリーはおもむろにこちらに近づいてきて、手首の拘束を解いてくれた。もう私には敵意がないと判断してくれたらしい。
ありがとうの意味を込めて小さく会釈すると、「そっかあんた日本人か」と言われた。文化の違いか。私たちが初めての客人ということは本当で、少なくともここに他の日本人はいないらしい。
そうやって頭の中で考察していると、スタンリーは縄を解いたそのままの流れで私の右手を持ち上げ、堂々と観察し始めた。先程の仕返しのつもりだろうか。不思議に思って彼を見上げると聞こえてきたのは「ちっさ」という呟き。それはそうだ。さっきあなたが仰った通り、私は生粋の日本人なのですから。しかし同じようなことをさっきも聞いたな。馬鹿にしているのか。
「さっきの蹴り、余裕で俺の頭んとこまで届いてたけど。この身長差でどうやって跳んだ?」
やっぱり馬鹿にしているようだ。
特に返事をせず笑いながらじいと瞳を見つめると、同じように視線を返される。今度はやや目を細めて控えめに睨みつけてみた。何故かいきなり見つめ合い合戦が始まった。すると、スタンリーは不敵に笑う。少し顔を逸らして煙たい息を吐き出し、こんなことを口にした。
「へえ。少し、あんたに興味湧いてきた」
「・・・?」
・・・何をもってそうなったのか、私には分からないけれども・・・興味を持たれることは嫌いではない。今は立場が違っていても、いつしか仲良くなれそうだ。