THE STONE WORLD


やり返すには程遠い part2

20巻の内容です。ネタバレ注意。
ちょっぴり原作捏造。銃や尋問のにわか知識すみません。

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回し蹴りは片手で受け止められた。カウンター攻撃を避けるため即座に距離を取ると、彼は膝立ちのままグルンと体を回転させた。その時彼が腰に携えた拳銃に手を伸ばすのを見て、本能的に、反射的に体を右に逸らした。運良く・・・なんとか体を逸らすことができた!
その銃弾はギリギリ、本当にギリギリ私の肩の皮膚と服だけをえぐって背後に消えた。チリ、と一筋の痛みが走る。すぐにそこから血が垂れる感覚がする。私が胴体被弾を回避したことに驚いていない様子をみると、彼は・・・元々外すつもりで撃ったらしいな。化け物だ、この一瞬で狙いを定めるなんて。

「なんだ、あんたか」

私の顔を認識すると、スタンリーは銃口を空に向けた。そして撃ったばかりの拳銃を元の位置に戻す。何故かこれ以上は撃たないでくれるらしい。
いいね、最高だ!その好意を無下にしてやる。私は服の中に隠し持っていた拳銃を構えて、彼に向かって乱射した。今のうちだ撃て撃て撃て!・・・ただ、素人が狙うには少々距離が遠かった。私の実力不足のせいで(あと千空には言っちゃ悪いけど旧世界の物より断然性能の悪いそれは)、一発も当てることなく弾切れを起こす。
装填、装填。即座に弾を補充して構え直すが、スタンリーは私の射撃をものともしない。一切無駄のない動きで真横に移動すると、拳銃を握る私の右手首を真下から蹴り上げた。
「っあ゛!」
いったあ!絶対に骨折れた!私の手から離れて床に落ちかけた拳銃は、彼によって拾われた。ひるんだ私は片腕だけで簡単に押し倒され、あっという間に彼の下敷きになる。
背中を打ち付けたせいで息が止まった。蹴られたばかりの手首がまだ痛いのに、スタンリーはわざわざ同じ場所を足で踏みつけた。そして、さっき私から奪い取った拳銃を構える。
トリガーにしっかりと指を添えて。
眉間に銃口が突きつけられた。

「ダメじゃん。んなちっせぇ手のガキが扱うもんじゃねぇよ、これは」

だってそれは陽さんのために設計されたやつだもの。なんていう言い訳は彼に通じないので、心の中で呟くだけ。
踏んづけられた手首がキリキリと痛む。

「懲りないね。これで二度目だ」

だって、だって!マシンガンの借りをまだあなたに返せていない!
・・・それなのにまたやられてしまった。千空、ごめんなさい。せっかくのお許しを、せっかくのチャンスを無駄にするなんて。
成人男性(元軍人)による凄まじい捕縛は、圧倒的な力の差を見せつけられるかのようで。何も出来なかった。抗うべく少し浮かせていた頭を地面に置き、全身の力を抜く。スタンリーはしばらくしてから銃口を離した。

「てか、なんでここいんよ」
「忍び込みました・・・」
「わざわざ死にに来たってか?度胸あんじゃん。気に入ったよ」

気に入られた。
私はそのまま連行されて物置部屋に放り込まれると、今度は腕だけではなく足まで縛り上げられた。しかも椅子に。



千空たちを追うために、アメリカ勢は私たちのペルセウスをこのままいただくつもりらしい。私が城に潜入している間に空母となっていたそれは、間もなくして出発した。
私はというと、物置部屋の端の方でただひたすら椅子と仲良くしていた。蹴られた上に踏まれた右手、今度は縛られてしまって地味に痛い。内出血くらいはしていそうだ・・・。

「どう?元気してる?」
「そう見えますか」
「ガキは元気な生きもんだろ」

それは人によって違うだろう。
空母が動き始めてから比較的すぐに姿を現した彼。さっき私をメタメタにしたその男は、部屋の中央の柱に寄りかかってさっそく要件を口にした。

「千空の行き先、バラしな」
「嫌ですが」
「そう?まんま予想通りの答え」

彼の手には私から奪った拳銃があった。確か、最後に銃弾を装填してから一発も撃っていない。つまり弾が中に残っている状態で・・・彼は弄ぶように空中に投げてはキャッチ、投げてはキャッチを繰り返す。
私の手には似合わないそれも、彼が持つとしっくりくる。さすがに安全装置はかかっているようだ。そうでなければ神経を疑う。

「どうしたら教えてくれんの?」
「何があっても私は話さないので、何もしない方が余計な労力かかりませんよ」
「そりゃあ親切な忠告どーも。やっぱりあんた度胸えぐいね」

私はメンタルがすごく強いから。挑発する意図はないけれど、褒めてくれてありがとう。そんな気持ちを込めてにこにこと笑っていると、彼はその辺に拳銃を置いてゆっくりと近づいてきた。

そして口から煙草を外した。

「じゃ、こうだ」

立ったまま片手で頭を押さえつけたかと思えば、無理やり上を向かされる。すると火がついたままの煙草の先が、目玉すれすれまで近づいてきた。

「あんた、自分から捕虜に立候補するほどのお人好しじゃん?・・・ん?ほら、教えてくれんだろ?」

灰が落ちそう。あつあつの灰が。
私の右目に。
彼がひとたび煙草を叩けば、簡単に落ちてきそうだ。なんてことを!

・・・極悪非道な人ですね
「なに?日本語?」
・・・冷酷で、非情で、無慈悲で
「ああ、遠かった?しゃあねぇな」
「ちが」

彼が聞き取れない日本語でぶつぶつと悪口を言っていたら、さらに煙草を近づけられた。もはや瞬きもできない。
こ、この人やばいって。大人げない上にサイコパスですね?慌てて「言います、言いますから」と言えば、すぐに煙草をどけてくれた。いや、案外優しいところもあるのかも。
・・・それとも単純に、吸いたくなっただけなのかもしれない。スタンリーは再び煙草を咥えた。

「言う気になった?」

少し目を開けていた隙にすっかり乾いてしまった私の右目。ぎゅっとまぶたを下ろすと、彼はさっそく別の椅子を床に引きずらせて至近距離に腰掛ける。

「だったら吐きな。今すぐ」

あ、さっきは白々しく「言います」なんて言ったけれど。
話す筈がなかった。何があっても話さないは本当だ。私は絶対に千空たちの目的地を話すことはない。だって話したら彼らに危険が及んでしまう。私がこうして捕虜になるかもしれないのを見越してまで、千空は私のわがままを聞いてくれたのだ。
たとえ爪を剥がされても、たとえ内臓を抉られても『絶対に話さない』。これは決定事項だ。

「やっぱり言いません」
「右か左か。好きな方教えろよ」

彼は片手でピースをして、目の下それぞれに指を押し当ててきた。どっちの目に熱々の煙草をプレゼントされたいか聞いているらしい。

「どっちも嫌ですけど」
OK!じゃあ両方だ」
「・・・やっぱりどっちもお願いします」
「ハナから正直に言え。・・・あぁ、分かった分かった、そんなに欲しいなら目は最後にしてやんよ」

もう、なんなの。じっと口を閉じたままでいると、彼の右手がするりと私の首に移動した。その大きな手は簡単に半周以上を覆い隠してしまう。

「お楽しみは後にとっとくもんだ。そうだねぇ・・・まずは息でも止めてみる?」

親指で、喉仏をこすられる。
スタンリーは完全に尋問モードに入っているようだ。足も腕も椅子に縛られてしまった私の体は、当たり前だけど自由がきかない。ついでに上から頭も押さえつけられちゃって。
逃げられない。でも私は絶対に話す気はない。これは長期戦になるかもな。彼が子供相手にどこまで残虐なことができるのか見ものだ。と、子供ながらに意地を張ってみる。

「それは・・・なに考えてる顔だ?気ィ張ってっと早々にくたばんぜ」

スタンリーは至近距離から私を見下ろして、やけに優しい声色で忠告してきた。愉快そうに目を細めて、ふぅ・・・と煙を吹きかけてくる。顔面に。
煙たいなあ、私本当はタバコの煙苦手なの。そんなことを悟られたら絶対に意地悪されるだろうから、顔には出さないけれど。目線を下げ、彼の胸板を見つめながらあくまで生理的な反応として軽く咳き込んだ。すると、耳元でいやらしい声が囁く。

「気楽に行こうじゃん・・・、な?」

気楽に行かせてくれるかどうかは、あなた次第ですから〜・・・。



「スタ〜ンリぃ!こいつどこやる?」

その時、急に部屋に顔を出したのは、男性に負けないたくましい体をした米軍の女性。彼女は負傷した松風の監禁場所を聞いているらしい。
・・・大丈夫だろうか。彼もまた目の前の男によって肩を撃ち抜かれ、怪我をさせられたのだった。
その軍人さんは部屋の様子を見るなり、元々笑っていた顔をさらに楽しそうに変えて微笑みかけてくる。

「あらぁ、お楽しみ中?あたしも混ぜてほしいわぁ〜!」
「用が済んだらな。そいつは・・・ここは狭くて定員オーバーだ。どこでもいい、テキトーな部屋ぶち込んどけ」
「はいは〜い!あ、そだ。部下があなたのこと探してたわよぉ。キリ良くなったら行ってあげてね〜!じゃ!」

それだけ告げて彼女はどこかに去っていく。煙草を持つために首からは手を離してくれたが、未だにスタンリーの左手はがっしりと頭を押さえ付けていた。なんとも言えない空気感の中、彼が煙を吐き出す音だけが響く。
ふと、スタンリーは頭から手を離して立ち上がった。どうやら今こそ『キリが良い』と判断したらしい。当然私を解放することなくどこかに去ろうとする。
ああ、ひとまずは命拾いした。心の中で安堵する私のことを、彼は見透かすように振り返った。

「命拾いした、なんて思わねぇほうがいいぜ」

エスパーか何か?

「・・・どういう意味ですか?」
「言ったろ?お楽しみは後にとっとくもんだ。次俺が来るまで大人しくしてな」

あなたが言うと、ただの捨て台詞に聞こえない。そうですか、尋問はまだまだ続くと。彼はそう言いたいらしい。
まあ、実際には松風のもとに隠れていた銀狼があっという間に千空たちの行き先をバラしてしまうのだが。

それにしても・・・だめだ、私はやられてばっか。やり返す隙もない。大人というだけで、彼はとても遠いところにいる。ああ悔しい。悔しいはずなのに・・・さっきの米軍女性の笑顔に引きずられてか、無意識に口角があがった。

「お楽しみはあとで・・・か」

確かにそうだ。彼の言うとおり、お楽しみはこれからじゃないか。
だってほら、考えてみて。やられてばかりということは、彼にはこれからやり返すことがいっぱいだ!
今のうちに『やられ貯金』を沢山しておけば、あとでいっぱい楽しめる。・・・なんて、千空にはこんな阿呆みたいな発想笑われてしまうだろうな。

「はは」

それより前に、窓に写る自分に笑われてしまった。



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スッキリ完結とまではいきませんでしたが、書くのとっても楽しかったです!
リクエストありがとうございました!




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