THE STONE WORLD


01

スタンの恋人で元米軍(not海兵隊)。
ふとしたケンカが一因となり、ヒロインが重大な怪我を負う話。流血表現あり。
そうはならんやろな展開かもしれません。温かい目で・・・!

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「あー・・・、そ。なら、好きにしな」

12月18日
石化から目覚めて二度目の冬。

私はスタンを怒らせた。

この世界になってから、彼は私の上官にも似た立ち位置になった。スタンは海兵隊で私は違うけれども、それでも階級について言えば彼の方が上だ。元々少人数なのに一人で行動するわけにもいかないし、私は必然的に彼のチームに加わることになった。

「なかったことにしてやんよ」
「スタン、待っ」
「今の会話、今までの全て。だから・・・あとは好きにしな。俺はもう関知しねぇ」

些細なことだ。いいや、違う。些細なことなんかじゃない。
私が立場をわきまえず、彼の恋人だからというただそれだけの理由で、スタンの部下や彼自身についてあることないこと物申してしまった。私が元いたチームはこうしていた、だなんてどの口がそれを言うんだ、ただの一端の雑兵が!
私が浅はかだっただけ。私が舐め腐っていただけ。
もし私の過去の上官に同じようなことをしたら、問答無用でぶん殴られていたことだろう。それを考えたらスタンはどうしようもなく優しい。あれから数日間、口を聞かないだけで済ませてくれているのだ。
・・・数日間、目を合わせないだけ。

数日間、彼の姿を見ないだけでこんなに心が痛むだなんて思いもしなかった。



12月22日
あれから早くも4日が経過。

熱っぽい体を無理やり動かし、森の奥をどんどん進んでいく。・・・ああもう!なんでこうなるんだろう。冷たい空気が喉を焼いて、さらに気分を悪くする。
丁度、彼を怒らせた翌日に発熱した。なんとも分かりやすい体だ。彼と諍いを起こしたことに、私の体は即座に拒絶反応を起こしたらしい。唯一気づかれたチームメイトには脅しを入れたから大丈夫。あとはこのまま熱を下げて、体調不良を『なかったことにする』だけ。
そしてスタンに謝罪するだけ。
それなのに、寝れる時にきちんと寝ているはずが・・・数日経った今でも一向に収まることはなく。歩くだけでも辛い。しかし私は甘えているわけにはいかないのだ。これは私があんな発言をした報い。それだけのこと。

しかし、私は自分が思うより重症らしい。体調に気を取られてばかりで、森のど真ん中に来るまで銃の整備不良に全く気づかなかった。さっき無意味にライフルを構えた時に、違和感を覚えてすぐに察したのだ。ああ、しくった。
自分で自分が信じられない。何年軍人をやっているんだよ。
けれど、銃は今のところほとんど護身目的だ。自己管理で、自己責任。これで怪我を負ってもただの自業自得。ここまできてそんなことを考えてしまう私は、やっぱり甘い。
大きくて立派な木を通り過ぎたその瞬間、オオカミとご対面。は・・・ハロー。状況を理解できないまま一秒経過。

「っ!」

直後すぐに非常事態だということを認識した。普段は群れで動くはずだが、ここにいるのは幸い一匹だけ。彼と目を合わせたまま臨戦態勢を取り、左の肩に手を飛ばす。
が、その手が目的のものを掴んだ瞬間、すぐに思い出した。目だけで肩を見下ろし、またオオカミに目を向ける。

そうだ、これ、今、ぶっ壊れて、

「あっははぁ、だめだめ・・・君、そこから動いちゃだめ」

刺激しないよう、ゆっくりとライフルを地面に落として身軽になった。そして、少しずつ背後に動きながら、太ももに仕込んでいたサバイバルナイフを手に取る。鏡面仕上げではないので、キラリとも光らない。ので、オオカミくんにはただの棒切れに見えることだろう。
ああ、なんてツイてない。
お腹が空いているのだろうか。さっきからグルルと不穏な声が耳に届く。オオカミは普通人を襲わない。けれどもそれは何千年も前の常識で、私が石化している間に彼らの性格が信じられないほど獰猛になっていても、何もおかしいことはない。

「はぁ、はあ・・・っ」

熱のせいで全身が痛む。大きく肩を上下させながらぼやけた視界を瞬かせると、ついにオオカミが突撃してきた。後ろ足で思い切り地面を蹴り、私の首めがけて大きく口を開ける。とっさに左腕を前に掲げた。その口は、私の腕に容赦なく噛み付いた。そのまま後ろに倒れ込む私の体。

深く咬まれた。

やばい、これはさすがにやばい。感染症、狂犬病・・・それらが第一に浮かぶけれど、そもそも!そもそも深手だこれは!
そのまま咬み付いてくれているおかげで、急所には簡単に手が届いた。上半身を爪で引っ掻かれながら、オオカミの首を真横からナイフで貫き、必死にぐりぐりと中をかき混ぜる。絶命したのを確認してから、上顎を掴んで無理やり歯を抜いた。
ゴト。オオカミの体が地面に転がり落ちると同時に、ぶしゅ、と数箇所から血が吹き出る。痛い。とても痛い。
でもそんなことは関係ない。とにかく一刻も早く傷口を洗わないと。城に戻るより川に向かった方が断然早い。起き上がってすぐに走り出した。

「はぁ、はっ、・・・あ゛ぁ!」

川の水は氷のように冷たかった。当たり前だ、もうすぐで年が明ける真冬の季節。けれど、私の体はそれを気持ちよく感じさせるくらい高熱に蝕まれていた。
水で腕を洗い流し終わると、今以上に熱くなって服を脱ぎ捨てた。

「あぁ、」

その時になって、私はようやくトランシーバーの存在に気づく。・・・ああ、もう!なんて私は馬鹿なの。ありえない、ありえないありえない、本当に・・・!まずは、まずは応援を呼ぶのが普通だろう!?
それくらい正常な判断が出来ていないということだ。私はいつから腐れ脳味噌になっていた。これじゃあスタンに見捨てられても無理はない。
自暴自棄になりながら、既に周波数の合っているそれに呼びかけた。

「やあナマエか。どうかしたかい?」

すぐにスピーカーから聞こえてきた、いつも通りのゼノの声。彼にとっては単に事務的な言葉でしかないそれが、今の私には酷く温かかった。
的確な情報の伝達は我々軍人にとっては基礎中の基礎。だけれども、ちゃんと順序立てて一から話そうと思っていた全てが、その声を聞いた途端に一気に頭から抜けていき、頭の中が空っぽになってしまった。何を言おうとしていたんだっけ。

「ナマエ?」

混乱というよりは、呆然。その間にも、今朝とは比べ物にならないほどの頭痛と吐き気に襲われる。何も言えないまましばらく黙っていると、ゼノは不思議そうに私の名前を呼ぶ。

「・・・わ、たし、」

咬まれた。
私は、頭の中にぽつんと浮かんだその単語のみを告げた。



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