THE STONE WORLD


01


「スタンリー・スナイダー、私一回あなたを打ち負かしてみたいのだけれど」

元アメリカの軍人で、現ボスの右腕兼総司令官で、そのボスことゼノの幼馴染で、そしてまあ一応付け足しておくと私の恋人。
色々な肩書きを持つスタンリーだが……ところで、彼はこれまで勝負事で私に負けたことがない。つまり、逆に言えば私はこれまで一度として彼に勝ったことがない。
元々負けず嫌いな性格だ。ふと彼の肩書きについて考えた時、私は猛烈に『スタンリーを負かしたことがある』という肩書きが欲しくなった。我ながら馬鹿らしい思考回路をしていると思う。でも欲しいものは欲しいのだ。

「だから勝負をしましょう。まあ勝負するまでもなく、あなたがズタボロに完敗する未来は視えているけどね」

朝一番、彼が起きてくるであろう時間に部屋を訪れ、ようやくドアが開いたところで宣戦布告をしたら、それはそれはおかしなものでも目撃したかのように首を傾げられた。

「あー、え?よく分かんねぇけど今度な。それよりさっさと朝飯……」
「ちょっと、聞き流さないでよ!私本気なんだから」
「腹減ったんよ、こっちは……」

気の抜けた声で「おはよ」と頭に手を置かれた。その流れで額に口付けされる。目が開かないのか、ギリギリまで伏せられた瞼が一度上下に揺れ動いた。
相変わらず綺麗な顔。朝の彼は一段と色気があって、このまま額縁に閉じ込めてしまいたくなる。そして無防備だから、魔が差してついつい仕掛けてしまったデコピンが彼の額のど真ん中に命中した。あ。

「ってー、……なにすんよ」
「えっ、ごめんなさい、その、てっきり避けてくれると思って」
「寝起きで避けられっかよ。……野蛮な仔猫ちゃんだな」

そんな、可愛がっているんだか貶しているんだか分からない呼び方をしながら、自分の額をさする彼。仕返しとばかりに頬をつままれた。
だって手が勝手に動いて……という言い訳は喉の奥に隠して、もう一度ごめんなさいと謝ったらすぐに許しを得ることができた。優しい彼だ。

「あ〜……、ねっみ……」

さっそくスタンリーは朝食のために食堂へ歩き出した。当たり前のように手を引かれたので私も慌ててついて行くと、続けざまに眠そうな顔であくびをする彼。さっきのでも目が覚めないらしい。

「寝起きだからって、無防備すぎるの。軍の隊長さんがそんなのでいいの?」
「恋人の前じゃ、警戒心とかどっかいくタイプの人間なんでね」
「ますますダメじゃない。まあ私が言えることじゃないけど、こうやって今みたいにアクシデントに巻き込まれたら、」
「……んー」

繋がれた手が離れて、肩に手を回された。のしかかる体重と共に彼の頭がおりてきて、狙い通り唇と唇が触れ合う。
前から思っていたが、スタンリーはキス魔なところがある。会話が面倒な時はすぐにこうして物理的に塞いでしまうのだ。目論見通り口を閉じた私に、彼は斜め上から微笑んだ。

「ナマエは俺のガードだかんな。ほら、あんたが守ってくれんだろ?」

それ、あなたが私に言うセリフ?ついさっき額を弾かれたことはもう忘れてしまったのだろうか。……そのニヤニヤと愉しそうに笑う顔を見る限り、冗談のつもりらしい。
もう一発おでこを撫でてあげようか?待て、私はスタンを負かすために朝一番に彼の元を訪れたのだ。ここはむしろ真っ直ぐ頷くべきところだ。

「そうそう。私はあなたより強いの。だからそれを証明するために、一回ガチバトルをしましょう」
「なに、さっきからなに企んでんよ」
「スタンを負かしたいの。それだけ」
「自己顕示欲が溢れた的な?ああ、なんとなく分かる。俺もそういう欲求たまにあんな」
「欲求かどうか分かんないけど」

今度は私が彼の正面に回り込んだ。高い場所にある首に腕を回し、理想の距離まで顔同士を近づける。

「あなたが悔しさで涙を流す顔をこの目で拝みたいの。それだけ」

挑発するように笑ったら、彼もまた同じように口角を上げた。そろそろ覚醒した頃だろうか。

「いい趣味してんじゃん。楽しみなこった。何しでかすつもりだ?」
「特にまだ考えていないけど、どうせならあなたが得意なことで勝ってみたいかも」
「俺が得意なことっつったら射撃しか」
「それはだめ!勝ち目が無さすぎる!」

そう、問題なのは勝負事の内容。私はこれでも格闘技に触れたことがあるから、ある程度なら体を動かすことができる。この世界にはレクリエーション施設なんてものは無いし、勝負を持ちかけるとしたら体ひとつで完結するものが手っ取り早い。
だから何も考えずに格闘技で勝負してみたいところなのだが。いくら力に自信がある私でも、この軍で鍛えられた巨体をどうこうすることが出来るだろうか。なにも私はプロだったわけじゃないし……だめだめ、私はこの人に勝つんだから。何事も強気で行かなきゃ。

「ナマエ、もう食った?」
「まだ。でも先に食べてていいよ。私これから外走ってくるから」
「そう?じゃ窓から応援してんぜ」
「ありがとう。じゃあスケジュール立ったらヒマな日教えてね。負かしに行くから」
「本気かよ?」

本気だよ。私は一度決めたことは、基本的にそれを完遂するまで諦められない性格でもあるから。これも負けず嫌いの一環だ。
それに、スタンリーって単純に涙がお似合いだと思うの。さっきも言った通り彼は負けを知らないから、悔し涙を流すところは全く想像できないけど。単純に、あの綺麗な顔には涙がよく映えると思う。ここだけの話、私はたまにSっ気がある言われる。



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