THE STONE WORLD


02

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「ナマエ!こっちも頼む!」
「はーい、そこ置いといて」

この城が完成してから約二年ほどが経つ。そんなに時間が経過すれば、どこもかしこも埃が溜まってくるのも仕方がない。もちろん掃除はいつもしているが、今日は部屋の入れ替えも兼ねているから一日かけて全員参戦の大掃除が行われることになった。

「だ、大丈夫か?一人で持つつもりか?」
「心配はご無用!なんでもまかせて。なんでも運んであげるから」
「そりゃ頼もしいな、じゃあ頼むよ。はあ、もっと人がいれば楽なんだが」
「それはね、誰もが思ってる」

今は物置を整理するために一旦外に全部運んでいるところ。力には自信があるし、周囲の皆もそれを汲んでくれている。屈強な男たちに混ざって力仕事をしていたら、いつのまにか前からやって来ていた長身の男に荷物を奪われてしまった。

「おっも。見た目以上じゃん」
「あれスタン、手伝ってくれるの?」

荷物で視界が遮られていて、彼の登場に気づかなかった。しかしスタンリー、彼はゼノの元で主に武器関連の調整をしていたはず。
そのことを思い出していると、ふわりと煙草の香りが漂ってくる。もうとっくに嗅ぎなれた匂い。ちょっとした安心感を抱いているうちに、彼は先程重いと表現したはずの荷物を目的の場所まで軽々と運んでしまった。

「ったく、ナマエ。なにしてんよ、こんなんレディの仕事じゃないぜ」
「気遣いは嬉しいけど、これは私が頼まれたことなの。スタンはスタンでやることがあるでしょう?そっち行きなよ」
「いや、もう片してきた。だからこっちに派遣されて来てみたら、ちっせぇ体でクソでかい荷物抱えてるあんたがいたから」
「ちっさいは余計」
「見事にナマエの体が隠れててさ、ひとりでに動いてんのかと思って焦ったわ」
「もーばか!」

彼の大きな背中をはたいた。思った通りの反応だったのか、頭を撫でながら楽しそうに笑う彼。今頭に手を置かれると、小さいのを強調しているように思えてさらにムッとしてしまう。

「怒んなよ。で、俺は何すりゃいい?代わってやっからあんたはそこで休んでな」
「それは気遣いを通り越して余計なお世話。私は別に無理をしているわけじゃないの」
「そうか?」
「スタン、あなたこそ普段忙しそうにしているんだし、今日くらいは休んだら?」
「んなことでくたばっちまうような鍛え方はしてねぇよ。分かった、一緒にやっから仕事くれ。さっさと終わらそうぜ」

そうそう、初めからそう言っておけばよかったの。私だって分かってる。彼は別に私を弱い者扱いしているんじゃない。大切に思ってくれているからこそ、力仕事をさせたがらないのだ。
格闘技をやっていたおかげで小さな頃からケンカに強かったから、女扱いされた試しがなかった。体が小さいクセにね。だからこそスタンリーのそういうところに惚れてしまったのだ。彼は小さいのはイジるけど。
でも私はあなたが思っているほどやわじゃない。そりゃあ体格の差はあれど、毎日走っているし筋トレも欠かさない。

「そんなのも持てんの?ヘェ、頼もし」

今更驚くようなことじゃないのに。そろそろ頼ってくれてもいいのに。だからこそ彼を負かして、私がデキる女だということを知らしめたい(ルーナじゃないけど)。

物置はこの大きな城の中でも特にやっかいな場所だ。備品の管理は怠っていないが、部屋の隅々まで掃除をすることは滅多に無いから埃の巣窟なのだ。まあ一番やっかいなのはゼノのラボだ。それは確信できる。
物置は物置らしく多くの物が積まれていた。一旦全てを外に出すだけでも一苦労。そんな中で彼が来てくれたのなら百人力だ。思っていたよりも早く終わらせることができるかもしれない。これは私も負けていられない。そうやってすぐに張り切るのが私という人間。

「ナマエ。無理すんなよ」
「大丈夫だから、大丈夫」

それは盛大なフラグだった。
空の木箱の上に立ち、積み重ねられた中身入りの木箱を一つずつ床に下ろしていた時だ。気づかないうちに壊れかけていたのかもしれない。右足に重心をかけた途端バキッと嫌な音がして、あ、これは穴が開いたやつ……と思う間もなく体が傾いた。

「や、ば」

足はすぐに引き抜くことができたが、なにぶんその瞬間背伸びをしながら重い荷物を手前に動かしていたから、支えをなくしたそれが真っ逆さまに落ちてきた。うわお、これが直撃したら頭蓋骨粉砕は免れないぞ……と驚いている隙に誰かの腕が腹に巻き付けられ、後ろに引っ張られる私の体。
着地した瞬間に足首に感じた鋭い痛みに思わず顔を歪めていると、次の瞬間ドッカーンとバカみたいに大きな音がした。なんだか大変なことが起きている。そんなことしか考えられず、体の力が抜けて地面にへたりこんだ。

「っぶな、大丈夫か?」

座り込んだまま上を向くと、私に覆い被さる彼の姿。雰囲気で察した、彼は私を庇ってくれたのだ。おそらく木箱が私の上に降ってくる瞬間に、腕を伸ばして、……。部屋にいた皆が駆け寄ってきて大丈夫かと心配そうな声を投げかけてくれるのに、それに対する返事もままならず放心するばかり。
大変、やっちゃった。しかも彼が続けてこんなことを言うから、全身が冷えるような感覚に襲われる。

「いってぇ……これ絶対腕折れた」
「嘘でしょ!?見せて」
「いや、今の違う、折れてねぇから真に受けんな。それよりケガは?」

ケガなんてない。あなたが体を張って守ってくれたから。床を見れば、落ちてきた木箱が見事に大破している。中の道具類も盛大に撒き散らされていて、彼の痛みを視界から体感してしまった。
絶対痛いやつだ、これ。もしもこれが危ない薬品とかだったら今頃どうなっていただろうか。泣きそうになりながら彼の問いに首を横に振ると、顔を覗き込まれた。

「ナマエ、隠さなくていい。あんたさっきおもっくそ足捻ってたろ?」
「そんなことより、ごめんなさいスタン……それ痛かったでしょう……?赤くなってる、すぐ冷やさなきゃ」
「こんなん見た目だけだ。ほらこの通り」

袖をまくった腕の赤みを指摘したら、何も無いことを示すようにぶらぶらと腕を振る彼。確かに折れてたらこんな動きはできない。だとしても、相応の痛みがあるはずだ。

「てかナマエ、足切れてんじゃん。さっき穴開けた時か?」
「そうかも……でもちょっとかすっただけ」
「小さな傷でもナメたら死ぬぜ。とりま洗って消毒だ」

それはその通りだ。文句のつけようがない。差し出された手を掴んで立ち上がる。すると先程の足首の痛みがぶり返して、大きくよろけてしまった。
これは、切り傷の痛みじゃない……やっぱり捻挫している。

「痛むか?」
「少し……」

とっさに支えてくれた彼のおかげで、再び座り込んでしまうようなことはなかった。これしきのことで捻挫なんて。認めたくないけど歳だろうか……。
こうなったらしばらく走るのは無理そうだ。そしたら当然、歩くのも。己のやらかしと足の痛みに深いため息をついていると、スタンは断りもなく私の片腕を背負い込んだ。

「お前ら、悪いがそれ片しとけ。すぐ戻れっか分かんねぇ」

部屋にいた部下にそう伝えたかと思えば、次の瞬間に感じる浮遊感。

「え、ちょっと、スタン……?」
「捕まっときな。落ちねぇように」

いつの間にか横抱きにされていた。流れるような動作で膝の裏をすくわれ、いつの間にか横抱きに。
手際が良すぎて抵抗する暇もなかった。部下の元気のいい返事を背後に、さっさと部屋を出ていこうとする彼。すぐに我に返った。

「待って、いくらあなたでも腕を打ったばかりなんだから……!」
「俺のはもう治った」
「そんなわけない!おろして」
「いいんよ。あんた、鍛えてるにしちゃ軽いしな。デカめのぬいぐるみみたいなもんよ。抱き枕にしてはちっせぇが」
「だからもう、ちっさいは余計!いいからおろして!自分で歩けるから!」

必死に抗議を続けていたら、「ん〜」と口を塞がれて声を食べられてしまった。歩きながら器用な人。それはともかく、彼にはちっとも下ろす気がないようだ。
納得がいかなくて彼に視線を送ったら、思っていたよりも随分と優しげな表情を見せていて。ぱちっと瞬きをすると、これまた優しい声色で言い聞かせてきた。

「いいから。余計な心配すんな。あんたは大人しく運ばれときゃいーの」
「……」
「な?」

スタン、あなたって人は筋肉質な体をしていながら時折聖母みたいな顔するのをやめてほしい。ああ、やっぱり勝てないや、私。今朝宣戦布告をしたばかりなのに、心の中でもう負けを認めてしまった。
やっぱりわざわざ勝負しなくても、勝ち目がないのは明白だった。だってこうして優しく抱きかかえられるだけで、ドキドキして思うように体が動かせなくなってしまうから。

「スタン、やっぱり朝のなし」
「ん?ああ、なんだっけそれ。俺を負かすってやつ?」
「うん、それ」

大人しく身を預ければ、不思議そうな顔をしながらもさらに優しく抱きしめてくる。そういう行動にいちいちときめいてしまう限り、私はきっと彼には勝てない。

「まだ修行が足りなかった」
「修行?んなことしなくていいのに」
「……だって」
「だいたい今の状態じゃしばらく運動は無理だろ。あーあ、こうなりゃ夜もお預けか」
「スタン、今日余計なひとこと多い」

でも、わざわざ本気になって勝つ必要なんてどこにもないんだった。守られる立場も温かくて心地いいから嫌じゃない。むしろ好き。そうは言っても、守られてばかりでは格好がつかないというか。たまには私も彼のことを守ってあげたいし頼られたいと思うのは本心だ。
この足が治ったら軍人さんたちと同じ負荷の筋トレでも始めてみようかな……彼には止められそうだけど。



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