THE STONE WORLD


乗り物は光よりも遅いのに





まるで電車が踏切を通り過ぎるような早さで、あっという間に高校生活を終えた私たち。それぞれが別の進路に進んで一喜一憂する最中、今度は新幹線が通過駅を走り抜けるような早さで私は大学二年の夏を迎えた。え、はやくない?
これまで大きなトラブルもなく、毎日をただいつも通りに過ごしてきたはずなのに・・・何故こんなにも虚無感に襲われるのだろう。私の人生はこんなものだったか?扇風機の前に座って、無心に風を浴び続ける私。この鬱蒼とした気持ちを、あわよくば暑さと共に吹き飛ばしてくれないだろうか・・・と思ってのことだったが、ただ涼しいだけであまり効果はなかった。
今のままでいると、例えば打ち上げロケットが大気圏を突き抜けるような早さで大学生活が終わってしまうんじゃないだろうか。それどころか、ロケットが大気圏に突入する前に終わってしまうかもしれない。
「やばい・・・」
これじゃあいけない。そう思い立った私は、即座にその場で立ち上がって、誰に言うでもなく大口をたたいた。

「私、一人暮らしする!」

毎日を尽く忙しくすればいい。一日が長く感じるように、多くのタスクを背負うのだ。一人暮らしは大変な重労働。掃除に洗濯、料理など、その他諸々の家事を全て自分一人だけでこなさなければならない。加えて、生活費や年金の支払いもある。アルバイトは今もしているが、今以上の稼ぎが必須だろう。
・・・かと言って、毎日バイト三昧なのもなかなか辛いなあ。ここにきて、面倒臭がりの性格が邪魔をしに来てしまった。一人暮らしなんて、こんな自堕落な生活を送っているようじゃいつまで経ってもできる気がしない。気持ちを切り替えるには良い案だと思ったけど・・・せめて余裕が持てるくらいの大きなお金を溜めてからの方がいいのかな。

「あ」
そういえば、と顔を上げた。今、千空も世界のどこかで一人暮らしをしているんだっけ。東京大学に在学しているはずなのに、初年度の春から突然休学するとか言って、日本を出て行ってしまったあの男。石神千空大先生である。
何をしに行くのか、私の頭では説明を聞いてもよく分からなかったが・・・というか説明を聞いてすらいなかったが、とにかく彼は世界のどこかで科学を楽しんでいるらしい。
目的地はアメリカだと言っていたのに、出発した日の一ヶ月後にはオーストラリアのエアーズロック(南半球・・・)の写真が送り付けられてきたので、正直彼が今どこにいるのかは見当もつかない。大樹くんの予想した通り、しっかり観光もしているらしい。
千空がいつ日本に帰ってくるのか、気にならなくもないけれど、気にしたってどうにもならないしなあ・・・。話が逸れてしまった。なんだっけ、一人暮らしの話をしていたんだっけ。
・・・・・・・・・。
「電話しよ」
そろそろ彼の声を聞きたくなってきた。ので、電話をかけてみることにする。今現在、向こうが昼なのか夜なのか、私には知る術がないけれど・・・まあ一か八かで掛けてみよう。そう判断して早速スマートフォンを手に取った、ちょうどその時。
不気味な程に絶妙なタイミングで、誰かから電話がかかってきた。
「ひえっ」
さすがに驚いてしまった。危うくスマホを落としかけたのをなんとか堪えて、光る画面をちらりと覗き見る。

発信元、石神千空。

あらまあ、なんて運命的なの。私が電話をかけようと思った瞬間に、向こうからかかってくるなんて。綺麗なフラグ回収だ。・・・同時過ぎて逆に怖いなあ。あまりの驚きに指が滑って、うっかり着拒しそうになってしまった。わざとじゃないよ。まあいい、とにかく電話に出よう。待たせてしまっては悪いから。



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