THE STONE WORLD


いろんな意味であつい





「・・・ぴったり441日ぶりだな。名前、テメーとこうして会うのは」

家の前に石神千空が立っている。
盛大に着崩したYシャツとか、今帰国した雰囲気なのに何故か手ぶらなところとか、441日のどこがぴったりなのか、気になるところは色々あるけれど・・・何度瞬きをしても、私の家の前に石神千空が立っている。立ちはだかっている。
これは一体何事だ?私は玄関の扉を少し開けて、その隙間からおそるおそる顔を覗かせた。
「い、いいいつ帰ってきたの?なんでここにいるの?な、なんで?なんで?」
「落ち着け落ち着け。俺を不審者みたく見んじゃねえ。まずは出てこいよ。そんでこれ、開けてくれねーか」
慌てふためく私とは対象的に、彼は落ち着いた様子でそこにいた。玄関の柵の外から手招きをする千空。意味がわからない意味がわからない。どうしてそんなに冷静でいられるの?私は混乱のあまり状況を整理できず、たった2メートル弱しか離れていない千空の元にたどり着くまで、しばらくの時間を必要とした。

一年と三ヶ月ぶりの石神千空。七月の暑さは尋常ではなく、たった今外に出たばかりだというのに、もう汗がじわりと噴き出している。ああ、これは暑い。だからさっきはあんなに私のことを急かしていたのね。事実をそのまま教えてくれたら、私はたぶん一瞬で部屋を飛び出したのに・・・なんて、そんなことを今更口にしてもどうせ適当な返事が帰ってくるだけから、私はあえて何も言わない。
「千空、その・・・」
久しぶりに会うからか、どんな顔をすればいいのか分からなかった。もちろん再会できたことは嬉しい。でも、なんというか、この一瞬で千空との接し方を忘れてしまった。・・・私、さっきまでどんなふうに彼とお話していたっけ?
しかしながら、千空さんはためらうことなく私の方に近づいてきた。そして、突然腕を引いたかと思うと、真正面からガッツリと私の体を抱き締める。あの時と同じ、突然の抱擁。ちなみに玄関前である。
「うえ・・・あの・・・」
真夏の炎天下、全身密着。
つまり汗だらけ。
「あ、あつい・・・」
私がなんとか声を絞り出すと、千空は耳元でクククと喉を鳴らし「我慢しろ」と呟いた。いつまで続くのだろうか、これは。長期戦を覚悟する私。しかし、三秒ほどが過ぎたところで千空はすぐに離れてくれた。
「元気にやってたか?ま元気そうだな、見るからに」
「・・・うん、元気だよ。私は千空がいなくなってからも、健やかな毎日を過ごしておりました」
「そーかよ、ご丁寧にどうも。当方もお陰様で息災に過ごしてたわ。・・・日本語合ってっか?久々に喋るから分かんねえわ」
その口調ではとても正しいとは言えないけれど、まあ間違っている訳ではないので訂正はしないでおいた。
ところで、せっかく家まで来てくれたんだし、前みたいに部屋に上がっていくつもりなのだろう。いつまでも外にいるのも変だし、早く中に入ろうと提案したところ、千空は当たり前のように首を横に振った。
「いや、今日はテメーに預けた鍵を受け取りに来ただけだ。呼び出しといて早々に悪いがな、今日はもう帰って速攻で寝る」
「・・・え?」
なんだって?
私は千空の言葉を頭の中で復唱した。今日はもう帰る?・・・もう帰る?その言葉の意味を脳内で理解した途端、私は軽蔑するような目で眼前の男を睨みつけた。そんな私の反応がまんま予想通りだったようで、千空は面白いものを見たかのように笑いながら、すぐに弁解を始める。
「勘違いすんな、俺は別に嫌がらせしたいわけじゃねえ」
「いやいやいや、どう考えても嫌がらせじゃないですか・・・」
「生憎こっちは長時間のフライトでもう全身くったくたなんだよ。当日会いに来ただけマシだと思うがな?」
「まあ・・・会いに来てくれて嬉しいのは嬉しいですけど・・・そんなに疲れたの?どこから飛行機乗ってきたの?」
「サンパウロだ。ま、途中寄り道したから直通で来たわけじゃねえんだが、出発地点はそこだな」
ぶ、ブラジル・・・。狙ったように地球の真裏じゃないか。そんなに距離が離れているところだと、最短距離でも何ヶ国か経由しないといけないだろうから・・・それは疲れるはずだなあ。
「でも・・・だからって」

私はまたお預けをくらうのか。

「千空のばかやろう」
私は拳を強く握って、目の前のお腹を軽く殴りつけた。私にあと少しの腕力があれば、この軟弱男を殴り飛ばすことができたのに。
「それ、テメーなら言い出しかねないと思ってたぞ。もちろんこのまま一人で帰るつもりはさらさらねえ」
千空は体の向きを変え、そのまま家の敷地から出ていこうとする。その直後、千空は振り返りざまに右手の指で手招きをした。
「これから一緒に家来いよ。それで許してくれねえか」



いろんな意味であつい
backnext
[ toplist ]