THE STONE WORLD


結局441日ってなによ





「千空、どれくらい日本にいれるの?」
「安心しろよ、もうずっと日本だ。今のところ海外に出る予定は無えから」
「そっか。・・・ねえねえ、千空」
「どうした?」
「うふふふふ」
「突然気味悪い声出すんじゃねえ」
この一年とちょっと(この男が言うには441日間)たった一人で通っていた道を、今日は二人で並んで歩いている。この違いがなんだか嬉しい。私は千空とまたこうして再会できたことに、改めて喜びを噛み締めていた。
「あのね、さっき千空から電話がかかってきた時、ちょうど私もかけようと思ってたところだったの」
「そりゃ奇遇だな。なんか用でもあったか?」
「別に大したことじゃないんだけどね。ちょっとひとり暮らししてみたいなーって思って」
「へえ、いいじゃねえか。だが俺からしたら、テメーみたいな体たらくには一生無理なんじゃねえかとは思うわ」
「そうだよね〜。うんうん、私もそう思う」
普段の私なら、千空の嫌味に問答無用で足を踏みつけるところだったが、今は何を言われても平気だった。千空もなんとなくそれを感じ取ったようで、珍しいものを見るかのように私のことを見下ろしている。
「自覚があるのは良いこったな。テメーはまずカップラーメン以上の飯を作れるようになれよ」
「あ!それは大丈夫。一応ね、千空がほんのちょっと日本にいない間に、一個だけちゃんとした料理が作れるようになったんだよ。一応」
「ふぅん?お聞かせ願おうか」
「ふ、袋のラーメン」
「想像通りで爆笑もんだわ」
なんていうことを、真顔でおっしゃる千空さん。その顔を見た途端、私は思わず吹き出してしまった。彼との会話なら、たとえそれがどんなにくだらない内容であっても幸せに思えてくる。やっぱり私はこの男が隣にいないとやってられないようだ。
「あ"〜・・・俺な、今日機内食しか食ってねえんだ。実は今クソ腹減ってる」
「・・・!もしかして千空、私にごはん作って欲しいの?分かった分かった、私がとっておきの特製ラーメン作ってあげるからね。楽しみにして待っててね」
「まだ何も言っちゃいねえぞ」
「私、そこのスーパーで材料とか諸々買ってくるから千空は先にお家帰っていいよ。それじゃあまた!」
「聞いちゃいねえ」
千空が引き留めようとする前に、私はすぐそこにあるスーパーに向かって足早に歩き出した。千空は今日日本に帰ってきたばかりで、さっきも家についたらすぐ寝るとか言ってたし、晩御飯くらいは私が作ってあげてもいいのかもしれない。まあ晩御飯と言うには時間的にまだ早過ぎるけど、この際なんだっていいのだ。とにかく私は千空の為に何かをしてあげたかった。

そんなふうに私が意気込んでいる最中。取り残された千空は、ここにいても仕方がないと三秒後に歩き出した。その時、ふとあることを思いつく。
「あ、そうか・・・その手があったか」
その呟きは、当然だけど既に遠く離れた私に届くことはなかった。





「おかえり」
買い物を終え、千空の家に到着。玄関先で出迎えられたそんな時、千空におかえりを言われた途端私はしばらく固まってしまった。ね、ねえちょっと、おかえりだって。なんだか一緒に住んでるみたいだ。無言でそんなことを考えていると、千空に変な目で見られてしまったので、私は慌てて中に入った。
「俺、先にシャワー浴びてくるから」
「うん、わかった」
玄関にそのまま置いてあるスーツケースに手を置いて、せっせと靴を脱ぐ。それから私は慣れたように台所へ向かい、手洗いうがいをしてからすぐにラーメンを作り始めた。

「なんだ、結構やるじゃねえか。もっとこう・・・麺とスープだけの寂しいラーメンになるかと思ってたわ」
完成したラーメンを目の前にして、千空は感嘆のお言葉をもらした。なんてことはない。適当に刻んだ野菜をたくさんぶち込むだけで、意外とそれっぽくなるのである。ヘルシーで体にもいい。でもやっぱりそれだけだと物足りないから、チャーシューと半熟卵も添えさせてもらった。
「じゃ、早速な」
濡れたままの髪を後ろにかきあげて、千空はいただきますと手を合わせた。こうして見ると、やっぱり百夜さんに似てるよなあ・・・本当に血が繋がってないのか疑ってしまう。
千空が「美味い」と言うので、これがたとえ即興で作ったインスタントラーメンだとしても、喜ばずにはいられない。
「へへー、凄いでしょわたし。千空が日本を出てからどれくらい経ってると思ってるの?」
「441日」
で・た。そのぴったり441日とかいう千空の謎理論。
「ねえそれ、ずっと思ってたけど・・・その441って結局なんなの?どこがぴったりなの?」
「21の二乗な」
思ってたよりだいぶどうでもよかった。
「千空らしいね、そういうところ」
「別に普通だろ。1は1の二乗、100は10の二乗、そんで441は21の二乗だ」
「100までは分かるけど一般人はそうはならないと思います。そもそも日数なんて数えないし」
「ちなみに秒数に換算するとだな。あの日の離陸時刻が10:39で、さっきの電話終了時刻が14:28だから・・・」
「あーーー。いいですいいです。聞いてもどうせ実感湧かないから。そんなさ、自ら一般人じゃないアピールなんてしなくていいの」
「んなアピールしてねえよ」
「してる!!!」
私は千空に向かってビシッと大袈裟に指を差した。すると彼は微妙な顔をして無言でラーメンをすすり続ける。わざわざ否定するのが面倒臭いようだ。
「まだあるぞ。ぴったり441日の訳」
「そうなの?またくだらないこと言うんじゃないよね?」
「くだらなくなんかねえ。いや、まあ考え方はこじつけまくりでくだらないかもしれねえが」
一体どっちなんだろう。でも千空がそんなに自信ありげに言うのなら、とりあえず信じられなくはない。とにかくお聞かせ願おうか。

「テメーの誕生日な」

私は首をひねった。



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