THE STONE WORLD


彼は東大を目指すらしい





回想。

「千空、進路決めた?」
「東大の理科一類」
「・・・えっ?」
高校三年生の五月。千空の夢は知っているが、その夢を追う為にどこで何をするつもりなのか、そういえばまだ詳しく聞いていなかったのを思い出した。別に一度気になると眠れなくなる性格という訳ではないが、受験生の話題といえばほとんどが進路に関係する話だろう。
授業間の休み時間、せっかくなので隣の席をお借りして千空さんに直近の予定を尋ねてみると、彼は即答で国内トップの大学名を挙げた。その返答を聞いた途端、私は手に持っていた現代文の教科書を机の上に落とした。
「どんな反応だそれは。テメー、人の進路にケチ付けるつもりか?」
「そんなんじゃないけど・・・いや、あまりにも予想外で・・・千空が、東大?」
「予想外ぃ?なんでだよ、そのまま地元の広末行くと思ったか?石神教授リスペクト過ぎんだろ、それは」
千空、あなたそんなこと言ってツンデレにも程があるぞ。いや明確なデレがあるわけではないが、内心はあの親バカお父さんのことが大好きなんだろ。私には分かるぞ。このツン(デレ)め。
「って違う違う、そうじゃなくて」
「・・・なんか今めっちゃくちゃ気持ちわりぃこと思われてた気がするんだが」
「気のせい」
「そーかよ。テメーがそう言うなら信じるしかねーわな。で、一体どこだと思ってたんだ?」
「そのー、例えばオックスフォードとかケンブリッジとかその辺りの・・・」
私も詳しい訳ではないけれど、ひとまず今思いついたカタカナ大学を二校ほど挙げたら、千空はすぐに「あ"〜」と納得してくれた。
そりゃそうだろう。千空はおそらく世界で一番と言っていいほど、大量の知識と優れた頭脳を持ち合わせたスーパー高校生なのだ。未来ある17歳、時間を無駄にする必要なんてどこにもない。目指すべきは世界一の大学に決まっている。だから、千空は高校卒業と同時に日本を離れるとばかり思っていた。
「ククク、なんでイギリスばっかだよ。どっちかといやアメリカだろ」
「そうなの?知らないけど、とりあえず有名なとこだから言ってみただけ・・・」
「宇宙工学はアメリカのがレベル高えんだ。NASAはアメリカの政府機関だしな、まあ当たり前っちゃあ当たり前なんだが」
「へえー、そうなんだね」
教えてくれた豆知識に、適当に相槌を打つ。科学の話は分からないが、千空さんの宇宙話は嫌いではない。宇宙については私も少なからず好きだし、しかも彼があまりにも嬉しそうに話すから。
「ところで千空、質問の答えは?レベル高いのがアメリカなら、尚更アメリカの大学に行くべきなんじゃ?」
しつこいようだが私が再度そう尋ねると、千空はすこーし目付きを悪くして、問い詰めるように口を開いた。
「なんだテメーはさっきから。そんなに俺を日本から追い出したいのか?」
そんなものは即答である。
「追い出したい」
「・・・お、おう。んな真っ向から毛嫌い発言されるとは思わなかったぞ。別に好きも嫌いも、非合理的っつー点ではそう変わらねえ感情だが」
うわ。千空が弱々しくなった。表情は差ほども変わらないが、強がりながらも地味にショックを受けているようだ。そんな千空は見たくない。
「嫌いだなんて言ってないし思ってもないよ。単に千空は日本にとって宝の持ち腐れで、逆に言えば千空にとって日本は井の中の蛙の『井』ってことを言いたかっただけ」
「わりいちょっと今の早口言葉もう一回言ってくれ」
うん、自分でもすごく分かりにくい例えをしてしまったと思った。
「だから、偉大なる千空大先生をこのまま日本に留めておくのは、ものすごくもったいないんじゃないかっていう話」
「・・・はーん?日本に、ね」
千空が意味深に頷いたところで、次の授業担当が元気よく教室に入ってきた。千空が前を向いたので、当然話は中断されてしまう。
なんだか話を誤魔化された感じが否めないが、千空のことだから何かしら理由があって黙っているのかもしれないし。私は潔く諦めた。そろそろ自分の席に戻ろうか、と机に手をついた時。
千空は独り言のように呟いた。
「まあ、一生ここに留まるつもりは無えな。一ミリもな」
「だったら、今からでもアメリカに_」
「そうじゃねえよ」
言葉を遮られた。

「『日本に』じゃねえ。地球に留まる気は無えって言ってんだ、俺は」

したり顔の千空。
な、なんだその名言は・・・。私もいつかそんなかっこいい台詞を口にしてみたいものだ。



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