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回想続き。
「あ、ちなみになんだが、俺四月の頭からアメリカ行くことになった」
「なにーーー!なんだと千空!それは本当か!」
「嘘ー!どうしてどうして?寂しくなっちゃうね!」
「・・・」
・・・・・・・・・?
いや分からない分からない。さっきまでの話の流れは、一体どこに行ってしまったの?
年が明け、三月中旬。私の合格発表を最後に無事全員の進路が確定したので、私たち四人はお互いのお祝いと激励を兼ねてファミレスでお食事会をしていた。卒業式はもう既に終了しており、今は高校生と大学生の狭間にいる私たち。来月からは完全に別の学校に通うことになるから、ほとんどお別れ会と同義である。もちろん彼らとはこれからも遊び倒すつもりだけど。そんな時だった。
千空が別れを告げたのは。
「ねえ千空、私の記憶だと広末高校出身の石神千空18歳は、四月から東大生になる予定だと思うんだけども」
「ああ。よく知ってんな、俺のこと」
「学校はどうするの?まさかアメリカから通うつもりじゃないよね?」
「何言ってんだ、100億%無理ゲーだろそんなん。もちろん休学するんだよ」
もちろんってなんだよ。そっちが何を言っているんだ。
「四月に入学するのに、四月から休学するんだ・・・。千空くん、当たり前みたくさらっととんでもないこと言ってる・・・」
そうだそうだ。去年の春頃、アメリカには行かないって言ってたじゃないか。千空が理由を言わないからそれ以上問い詰めなかったけれど、それが何故今になってそんなこと。千空が何を考えているのか本当に分からない。
「しかし千空、どうして今なんだ!俺たち、今日は新しい学校でも頑張ろう的なことを話し合う為に集まったんじゃないのかーー!!」
「うるせえデカブツ、声抑えろ!さすがに店内でそれはご近所迷惑だ!」
千空、君もな。いつもなら間髪入れずにそんなツッコミを入れるところだが、今の私はまっっっっったくそんなことを言える気分じゃなかった。驚きでもう何も考えられない。隣に座る杠ちゃんは、そんな私の異変にいち早く気がついたようで、慌てたように話を続けた。
「でも、大樹くんの言う通りだよ。どうしてもっと早く教えてくれなかったの?四月ってもう二週間もないし、いくらなんでも急すぎないかな・・・?」
「いや、今言うのが一番良いんだよ。精神状態荒れ荒れの受験生に突然サプライズかましてどうすんだ。俺はそこまで非道な性格してねえよ」
「あ、そっか・・・私と大樹くんは早いうちに進路が決まっちゃってたけど、名前ちゃんはついこないだまで試験だったもんね」
「そ〜だその通り。名前は俺と同じ一般組で長期戦だったから、冗談じゃなく病んでたしな。そんな状態で打ち明けてみろ。もし俺の一言が原因で落ちられたら絶望もんだろ」
千空は、まるで自動ドアをすり抜けるような気軽さで、易々と東京大学に合格した。そんな彼とは違って、私の受験は一か八かの大博打である。同じく一般受験組である筈の千空先生による地獄のような勉強を重ね、なんとか滑り込みで第一志望の国立大に合格することができたのだ。死に物狂いも甚だしい。
つまりだ。私はあともう少しで精神安定剤に手を出さなければやってられないほど、合格へのプレッシャーに押し潰されそうになっていた。どうやら千空は、そんな私に気を遣ってくれたらしい。だから今、打ち明けたと。
・・・それにしたって、私にももう少し心の準備というものが。
「ちなみに千空はアメリカで何をするんだ?もしや旅行かー!!」
「たかだか旅行で休学するバカがどこにいんだこのバカ。ただの科学の話だよ」
「科学の話?なんだいね、それ」
「百夜の紹介でな、お偉い科学者がたくさん集まる国際的な研究チームにお呼ばれしたんで、ありがた〜く参加させていただくことになったんだ」
いつだかのエボラ調査みたいな感じらしい。しかしあの時は夏休みの短い期間だけだった。お偉い人たちが絡んでくるのなら、今回は果たしてどのくらいの期間日本にいないことになるのだろう。私は意を決して尋ねてみた。
「・・・どのくらいアメリカにいるの?」
「まだはっきりとは分からねえが、三年はかかるんじゃねえか?」
「・・・」思ったより長かったー・・・。
だったらどうしてわざわざ東大に入ったのだろうこの男は。非合理にも程がある。いや、もしかしてそれを差し置いても優先すべき理由が千空にはあるということなのかな・・・。いやもう何も分からない。考えるのをやめた。
「三年もそこで何をするんだ?旅行じゃないなら観光か!」
「もうつっこむのもメンドイわ・・・旅行と観光の何が違うってんだよ。いっぺん辞書引いてみろよクソ・・・。あ"〜、説明いるか?」
「あはは、千空くんのことだから、またすっごく難しい話なんでしょ?私はたぶん、聞いてもあんまり分かんない気がするな・・・」
「別に難しくはねーよ。俺が参加するのは※※っつー主に※※の可逆性やら有限性やらを研究してる団体なんだが、例えば※※がどんな状況下で※※・・・」
「あ、なんだかさっそく別の言語が聞こえる気がする・・・!今回はまた長くなりそうだね・・・!」
聞いてもまったく分からない解説を始めた石神千空大先生。私は少しも耳を傾けることなく無心で食事を続けた。やっとの思いで合格を勝ち取って、まさに喜んでいる最中だったのに。そんなことを聞かされるなんて思いもしなかった。
その後、私たちがどんな会話をしていたのかはあまり覚えてないけれど、自分が白々しい顔をして千空を見ていたことだけは覚えている。
だって。
日本にいるって言ってたのに。