+マフィアパロ。
!微黒スタン、ゼノ・流血・グロ注意!
白昼堂々と屋敷の門をくぐる一人の男。監視カメラなど意に介さず、玄関まで敷かれた石畳を迷いなく進んでいく。全身黒一色に揃えた衣裳。服の上からでも分かる、しつこく鍛え抜かれた体。まるで隠す様子もなく腰に携えた拳銃。それを柔らかな手つきで撫でながら、もう片方の手で小さな箱を懐から取り出した。
玄関の前に立ち、煙草に火をつける。表情は柔らかい。しかし、その両目はどこか一点を淡々と見つめている。
男は、明らかにその道を行く身なりをしていた。
警備室でその様子を見ていた使用人は、たった一人で真正面から歩いて突撃する銀髪の男を内心面白そうに笑いながら、屋敷のガードに情報を伝える。
ああ、またか。いつものことだ。この屋敷の主人はある一組織の重役と関係を持っているらしく、少なからず命を狙われているという。ただの雇われなので詳しい話は知らないが、こうして危ない誰かが訪ねてくるのは日常茶飯事。自分は監視カメラの映像を眺めているだけ、あとは屈強なガードたちがなんとかしてくれる。
その使用人が飲みかけのコーヒーに口つけた丁度その時、真後ろから扉の開く音が聞こえた。煙草の香りが漂う。
彼の命はあと一秒も残されてはいなかった。
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「使用人は・・・これで全部か?」
玄関から一番奥の場所に位置する廊下の隅で、執事と思われる男が真後ろに倒れた。スタンリーはそう独りごちて、周囲に転がる人間たちの息の根が全て途絶えたことを感覚で察知する。それから、すぐ近くに大きく存在感を放つ扉に目をやりドアノブに手をかけた。
屋敷中、鬱陶しいほど装飾品や美術品の数々が散りばめられていたが、この部屋は格段に度を逸していた。ああ、一目で分かる。ここがこの屋敷の主人の部屋だろう。ぐるりと見渡すが中には誰もいない。さほど驚きもせず、スタンリーは部屋に足を踏み入れる。
弾を幾度も装填しながらあれだけ銃声を轟かせていたのだ、もうとっくに逃げ出して部屋はもぬけの殻か・・・と思いきや、真後ろから一つの気配。ドアの後ろに隠れていたらしい。そんなことは既に想定済みだ。真上から振りかざされた花瓶を軽く避け、後ろを振り返りながら相手の足を払う。と、同時に拳銃を構える。金持ちに似つかわしい肥えた体型をした主人は、床に倒れうめき声を上げながら叫んだ。
「誰だお前は、こんな山奥に・・・!ガードは!?その銃を下ろせ、大人しく捕まれば見逃してや」
交渉の余地もなく、スタンリーは真上から彼の両手首、両足首を瞬時に撃ち抜く。大男なだけある、本日一番の大絶叫。しかしそれが聞こえているのかいないのか、スタンリーは顔色一つ変えずに尋ねた。
「この屋敷のどこかにあるっていう隠し部屋、行くにはなんか手順があんだろ?それ今すぐ吐きな」
返事が返ってくるわけがなかった。何かを叫びながらもがき苦しむだけの男を見下げて、今度は右足の膝関節を撃つ。絶叫。あんたが答えるまで、心臓に遠いところから順番に壊していくぞと暗に伝えていた。
「隠し部屋に行く方法は?」
調子の変わらない声色。鋭い目線。先程までの威勢とは一転、主人は心の底から恐怖を覚えた。そうこうしている間に左足膝関節にまた激痛。主人はとうとう観念して拙い言葉で喋り出す。
煙草の煙を吐き出しながら、親切に最後まで話を聞いていたスタンリーの次の言葉に、主人は再び凍りついた。
「ふうん。話に聞いてたまんまか」
わざわざ教えてくれてどうも。そう礼を言いながらホルスターに拳銃を差し込む。話に聞いていた通り?思えばこの男は隠し部屋について最初から知っていた。この屋敷の情報がどこからか流れているということか。いいや、そんなことよりもこの男は、情報を知っていながらわざわざ拷問まがいのことをして話を聞き出そうとしたのだ。なんて残酷。流れていく血液と共に薄れゆく視界の中で、銀髪の男は耳の辺りを抑えながら何かを呟いた。
「やあ。あんたの予想した通りだったよ。ところでゼノ、一つ頼み事があるんだが」
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教えられた手順で本棚を動かし、隠し部屋に続く秘密の扉を解除する。開かれた先には長い長い階段があった。ここは三階だが、地下にまで続いているんじゃないかと思うほど。スタンリーは一歩足を踏み出す前に、思い出したように部屋の入口まで戻り、扉を大きく開いておいた。これで見つけやすいだろう。スタンリーはまた踵を返し、今度こそ地下へ向かった。
暗い。階段を降りてゆくにつれ血なまぐさい臭いが強くなっていく。
「・・・・・・」
スタンリーは一番下まで辿り着くと、口に咥えていた煙草を勢いよく壁に擦り付けた。その部屋には――いや、これはもはや監獄と言っても差し支えない、この悪意の溢れた監禁部屋には、まるで死体のような彼女が横たわっていた。・・・ああ、死体という表現はよそう。そこには人形のような彼女が横たわっていた。
一丁前にぶら下がっている大きな錠前を破壊し、まずは檻の扉を開ける。保険のためか、はたまたごっこのつもりなのか。あの男の意図は心底どうでもいいが、彼女の体、首と名の付く五箇所には金属の枷が嵌められていた。それに、離れたところからでも分かる、全身に真新しい傷がある。スタンリーはピクリとも動かない彼女に近づいて、その首と首枷の隙間に手を突っ込んだ。金属が驚くほど冷たい。だが脈は確かに感じられる。ひとまず安堵した。
銃を取り出し床に向けて、一切体を傷つけないよう枷を順に破壊する。この至近距離でも彼女は目覚めない。肌の白さも相まって、本当に人形のようだ。枷で擦れて薄皮の向けた細い手首に手を当てる。脈があった。二度目だが、スタンリーはまた安堵した。
彼女を横抱きにして、階段を登り先程の部屋に戻ると、そこではゼノが忙しそうに大男の怪我の処置をしていた。声をかけるまでもなく気配に気づき、こちらを振り向く。
「おおスタン、それは死体か?」
あまりに直球過ぎて言葉に困るな。いくら大切な幼なじみでも失礼にも程がある。しかし、自分自身彼女のことを同じように表現してしまっているので、そもそも文句の付けようがない。ゼノも冗談のつもりだろうが、一応「ちゃんと息してっから」と言っておいた。
「そうか生きていたか!よかったな」
「ゼノ、そいつの容態は?」
「いいわけあるか。見て分かれ。そもそもスタンがこうしたんじゃないか」
「ああ、今にも死にそうだ。もしゼノが近くで待機してなければ一撃目で脳天ぶち抜いてたよ」
仕返しのつもりは無いが、からかうような小言にゼノは薄ら笑う。
「はは。せっかく車の中でウトウトしていたところだったのに、スタンの声で起こされた僕の身にもなれ。まあ君の頼みならなんでも聞いてやるけどね」
「悪いね。この場でとっとと仕留めるつもりが、やっぱり気が変わったんよ」
「こうなるとは思ってた。スタン、君は愛しのプリンセスにゾッコンだから」
「その通りだ」
「そして嫉妬深い」
「その通り」
自信満々に頷くと、今のは肯定するところか?という顔をされた。否定するところでもない。
「医療は専門外だが、これだけ処置しておけば、まあおそらく死ぬことはない。この男は君のせいでもう歩けはしないだろうが」
「意識が戻りさえすればそれで充分だ。お楽しみはこれからだかんね」
スタンリーは腕に抱きかかえるプリンセスに視線を落とした。
柄にもなく迎えが遅れてしまったことに申し訳なく思う。・・・まあ、どう謝ってもこの愛しい子猫はすぐに許してしまうのだろうけど。前髪で見え隠れする額にそっと口付けをすると、ゼノが思い出したように声を上げた。
「ああそうだ。さっきも言った通り、こうなることを見越して僕らの屋敷の地下に空き部屋を作っておいた。そこなら1デシベルだって彼女の部屋には届かないだろう」
「さすがはゼノ、分かってるな」
幼なじみの配慮に感動しながら、まずは王道に爪からかな、と考えた。