おまけ話。
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「ウィングフィールド様。よろしければ」
「だーめ」
急に右肩を引っ張られて無理やり後ろを向かされたかと思えば、いつの間にかこの部屋にいた私の元ボディガードに唇を奪われた。触れるだけでは留まらず、何度も何度もついばむように、優しく唇を甘噛みしてくる。お腹が空いているようだ。今日の朝食はいつにも増して気合いを入れたから、さぞお気に召してくれることだろう。
要望に応えて背中に腕をまわしたら、スタンリーはとっても幸せそうな顔をして鼻の先と眉間に続けてキスを落とした。
「おはよ、ナマエ。今日も可愛いね。いい夢見れた?」
「おはようござ……ぅ、くるしいです」
スタンリーは貧弱な私と比べるまでもなく体が大きくて筋肉質だから、そんなに強く抱き締められてしまうとちゃんと立っていられなくなる。毎朝同じことを言っているのに、一度寝たら忘れてしまうのか翌朝も必ずこうされてしまうのだ。
「ナマエが可愛すぎんのがいけねぇんじゃん。俺はなんも悪くねぇ」
飽きないのだろうか。と思わなくもないが、そんなことを尋ねてしまったらまたいつものように気を悪くさせてしまうだろうから、空気を読んで喉の奥にしまい込んだ。
きっと飽きないからスタンリーは私にこうして触れ合いを求めてくるのだ。彼のことを勘違いしていたせいで、決して短くはない期間ずっとあしらい続けてきたから、その反動が来たのだと思う。
「君たち、突然現れて突然何を始めているんだい。ホテルじゃああるまいし、部屋を間違えるのは勘弁してほしいところだね」
「ああ、誰かと思えばゼノじゃん。ナマエしか視界に入ってなかったぜ」
「そうかい、そんなにも視野が狭いとなれば軍の指揮どころか日常生活でも支障をきたしているんじゃあないか?」
「ナマエが見えればそれで充分」
「口説き落とそうと躍起になっていた時期も辟易していたが、君がこんなに夢中になっているのも考えものだね」
「ちゃんと仕事とプライベートで線引きはしてっから」
「そのプライベートの時間がかなり多い気がするのだが……これはただの僕の思い込みだろうか?」
そ、あんたの思い込み。スタンリーは強調しながら返事をした。それに対して苦笑いを浮かべた彼を見て、密かに私も同じ気持ちであることを心の中で唱えた。
「んで、一ヶ月経ったわけだけど」
ボディガードを請け負うといっても、それはほとんど名ばかりのものだった。今この世界には少人数しかいないから、そもそも悪さをするような人が存在しないのだ。この二年ほど共同生活をする中で、名前や性格などは完全に覚えてしまったし……それは一方的な知識だから、彼らは私のことを何も知らないかもしれないが。
ライト家の御三方を除けば、スタンリーだけが異常に私のことを知っている。で、その名ばかりのボディガードの仕事というのは、毎朝、毎晩、おはようとおやすみの時に、欠かさずキスをしにくるというものだった。しかも毎回かなりの時間をかけて。
「どう?お試し期間やってみて。なんか気ぃ変わったりした?」
「……よく分かりません」
「ええ、どうして?」
「だって、私たちはただキスをしていただけではないですか」
「ただのキスじゃねぇ。愛のあるキス」
スタンリーは右手の二本の指を自身の唇に押し当てて、んぱっとこちらにキスを投げ飛ばしてきた。確かにこの一ヶ月間彼のそばで過ごしてみて、彼の好意が本物だということは身に染みて理解していた。
ボディガードというか……最早私たちは恋人の真似事をしていた。全てスタンリーが行動していて私は受け身の状態だったけれど、でも私は最後まで拒絶することはなく、拒絶する気も起きなかった。
スタンリーに好意を抱いている自分が心の中に住んでいることは、もうとっくに分かっている。彼女とは既に顔見知りだ。
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一日の仕事を終えて部屋に戻ると、何故か鍵が開いていた。私は普段抜けている分確認を怠らないから、閉め忘れではない。つまり、中に人がいるということだ。
自分の部屋だから変な気分だけど、一応ノックをすると案の定スタンリーの声が聞こえてきた。ドアを開けて中に入ると、当たり前のようにベッドのヘリに座ってタバコに火をつける彼の姿が。
「おつかれ。待ってたぜ」
私の部屋がタバコ臭くなってしまう。タンスの中にある服に臭いが移ったらルーナ様に嫌われてしまうかも。そのことが顔に出ていたのか、スタンリーはタバコを咥えながら立ち上がり、ドアの入口で突っ立っていた私の手を取った。廊下に出ると、何故か懐から私の部屋の鍵を取り出して、ガシャンと閉めてしまう。
「どうしてそれを?スペアが存在していたのですか?」
「拾った」
え。驚いて自分のポケットにそれぞれ両手を入れると、そこにあるはずの金属がどこにもない。どこかで落としてしまったらしい。そしてそれを彼が拾ったと。
「届けてくださってありがとうございます」
「こういう系のうっかりはさすがに見逃してやれねぇな。部屋にいたのが俺じゃなかったらどうしてた?」
「……同じように、鍵を拾ってくれたお礼を申し上げると思います」
「ったくよー、そんなんだから変な輩に目ェつけられんだ」
「あの、どこへ……?」
「俺の部屋」
「あ、の」
「ん?」
「その、私……かなり時間が空いていて」
いわゆるセカンドバージンというやつだ。何千年も時が経ってしまったら、もうほとんど処女と変わらない。しかも私は元々気持ち的にあまり積極的ではなくて……それは過去に色々あったからなのだけれど。学生時代にお付き合いしていた彼と別れてからは、一度も
ある種のトラウマ。そのことをかいつまんでスタンリーに話したら、彼は何を今更という顔をして私の体を引き寄せた。
「そんなんお互いさまじゃん。何千年も経ってんのは、俺も同じ」
「それはそうなんですけど」
「怖くなった?大丈夫、大丈夫。痛くしねぇから安心しな。なんなら俺とのセックスが楽しくてたまんねぇって思えるようにしてやんよ」
気遣ってくれるのはとても有難いことだ。でもやけに自信満々だな。彼は見た目からして恋愛経験が豊富そうに見えるけど、実際はどうだったのだろうか。こうして親密な関係になろうとしている今、なんとなく気になってしまう自分がいる。
スタンリーは案外簡単に教えてくれそうだ。けれどそのことを尋ねるには、まだこの関係値では少々ハードルが高い。もう少し仲良くなってからかな……その時にまだこの関係が続いているかは分からないけど。
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「ぁ、あ、……っん、ぅう」
「」