スタンリーが可哀想な回。※彼女攻め有り
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「……スタン?」
昼時。長期休暇の真っ最中、せっかくなら外に出てデートでもしたいところだが、昨日から続く大荒れの天気で俺たちは自宅待機を余儀なくされている。今は窓を閉め切っていても雨音がうるさいくらいだが、まあ二、三日すれば晴れてくれるだろう。天気予報を見るまでもなく適当なことを考たりして、ゆっくりソファーでくつろいでいた。
そんな中、タバコの煙をその辺で遊ばせながらスマホの液晶画面に指を滑らせていると、さっきまで寝室で寝ていたはずのハニーがいつの間にかリビングに顔を出している。目を擦りながら近づいてきたお寝坊さんは、引き寄せられるように俺の太腿の上に股がって早速キスを要求してきた。
「……あーん」
髪はボサボサ、目はほとんど閉じたままで、キャミソールの肩紐が片方ずり落ちている。この休日感がたまらなく居心地がいい。普段の基地での忙しない暮らしとのギャップに笑いながら、俺はスマホとタバコをそれぞれ両手に携えたまま、彼女の両肩に手を置いた。
「おはよナマエ。つっても昼だけど」
「ん……」
要望通り、その桃色の唇を捕まえて何度か口付けを繰り返す。まだ眠そうに目蓋を伏せている彼女を覚醒させようと早々に舌を伸ばしたら、たった今起きてきたばかりだというのに彼女は電池を切らしたかのように俺の肩に頭をぶつけた。
「……おい?」
「ごめん、まだ眠い……おやすみ」
空振りした可哀想な唇はとりあえず空中で音を鳴らしておいて、でも不服なことに変わりはないからすっかり二度寝に入ろうとしている頭を軽く小突く。
「ったく、どんだけ寝るつもりだ?ガキじゃねぇんだから……今何時だと思ってんよ」
「うーん……十時とか?」
「残念、プラス三時間は余裕で経ってる。腹減ってねぇの?」
「あんまり……」
朝が弱いってレベルじゃねぇなこれは。夜更かししたのはお互いさまだが、俺は八時には目が覚めていた。幸せそうな寝顔を見たら起こす気力も起きず、放置していたらこのザマだ。そういや……夜食にしては重たそうなの食ってたっけか。泥棒みたいに深夜に冷蔵庫開けて。危うく警察を呼ぶか共犯になるところだった。
「ほら起きな。朝メシ……じゃなくて昼メシ用意してやっから栄養取れ。水分も」
「ぐぅ」
「寝てんのか腹減ってんのかどっちだ?その反応はよ」
髪を手ぐしで気持ち程度に整えて、伸びかけの肩紐を元の位置に正してやった。ほんと手間のかかるやつ。俺はいつからあんたのママになったんだよ。軽く呆れながら「ほらどいて」と肩を叩くが、いつまで経っても微動だにしない。
しょうがないから彼女ごと立ち上がろうとしたら、「やだあ」と駄々をこね始めたので思わず大きなため息をついた。俺のハニーは寝起きに幼児化することがある。
「……もう少しだけ」
こうなったらもう放っておこう。本人が食べたくなったら自分で動き始めるだろう。抱っこちゃんを抱き締めながらタバコを咥え直して、最強の暇潰しであるネットサーフィンを再開する。
と、手の中にあるスマホを邪魔そうにつつきながら「ねーね」と不満そうな声を上げる恋人。目線を下ろすと肩に頭を乗せたままじっと俺を見上げている。なんだよ寝るんじゃねぇのかよ。
「なに?」
「かまって」
「あァ?」
「せっかく可愛いハニーが起きてきたのに」
だから、寝るんじゃねぇのかよ。ていうか、俺のハニーは朝からダル絡みしてくるような面倒臭い女じゃなかったと思うんだが?まあこいつに限っては、どんな振る舞いをされても『可愛い』に結びついてしまうんだが。俺はそれくらい単純な男なので、彼女の甘えを素直に聞き入れてやってもいいんだが。
無視してみるのも面白そうだ。そう思って無言を貫く俺に対して、負けじと甘えた声で擦り寄ってくる。
「スタン、あいしてる。どうしたの?スタンは違うの?」
「……」
「私はこ〜んなにスタンのことが好きなのになあ。ふ〜ん、スタンはそうじゃないんだ」
「……」
「ねえそんなに無視すると泣いちゃうよ。可愛いハニーが」
ますます面倒なことを……。酒でも入っているのか?それとも、とびっきり可愛い猫にでも乗っ取られてしまったか?泣くぞと脅しながらも、にこにこと笑って俺を見つめてくるから、釣られて口角が上がってしまう。
ああもう、しゃあねぇな。俺ってつくづく甘い男。彼女の甘えに簡単に倒された俺はスマホをソファーに投げ捨て、ほぼ吸い切っていたタバコを彼女越しにテーブルの灰皿に押し付けた。
「んだよ、おいでほら。どうした?あんたでもこんなに甘えてくんの珍しいじゃん」
「べつに、ふつう」
「普通じゃねぇから言ってんだ」
抱き寄せながらさっき躱されたキスをお見舞いしてやると、今度は嬉しそうに首に腕をまわして応えてくれる。タイミングというものがあるのだろうが、寝起きは特にバラバラだから俺でも未だに掴み辛い。……と思ったら今朝の彼女の行動原理は至極分かりやすいものだった。
「ねぇスタン?」
「ん?」
「あのね、スタンに一つお願いしたいことがあるの」
突然じっと目を合わせてくるから何かと思えば。はーん、それが目的なんじゃん。わっかりやすいやつ。
「それならそうと最初から言えっての」
「だって」
「なに?言い辛ぇことか?」
「そうなの。言いづらいっていうか……恥ずかしいことっていうか……」
「言ってみ、なんでも聞いてやんよ」
何か買ってほしいものでもあるのだろう。それともどこか行きたい場所ができたとか。お願いと聞いて思い浮かべたのは、そんな安直なものだった。
「いい?……いいの?お願い聞いてくれる?本当?嬉しいなあ、スタンならそう言ってくれると思った」
「おい、まずは内容聞かせろ。それからだ」
俺は彼女のためならなんでもしてやるし、そのために毎日軍で汗を流しているのだ。いいよ、なんでも聞いてやる。
でも願いを叶えるにも話を聞かなきゃどうにもならないんだし、背中をポンポン叩いて促したら、彼女は言いにくそうにしながらもすぐに話してくれた。
その予想外過ぎる言葉の羅列が、俺を煽るには充分だった。
「今日、全部私にやらせて?」
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「はぁ?」
思わず漏れ出た声に構わず、意気揚々とペットボトルの水を飲み干す彼女はもうさすがに目が覚めたようだった。キッチンで俺が朝適当に野菜をぶち込んで味を付けたスープを美味しそうに立ち食いすると、ようやく腹を満たした様子で俺のところに帰ってきた。
「驚いた?ちゃんと用意してきたから安心して」
「いや、あんなぁ……」
違う、俺は決して彼女のお願いを非難したわけではない。ていうか俺はほぼ即答で了承してやった。だって、ハニーからの誘いを断るわけがないだろ。
俺が驚いたのは、彼女がどこからか持ち出してきたトートバッグから次々にオトナのオモチャが出てきたことについてだ。当然俺に使うんだから男用だ。幼い子供がままごとをするようなノリで「はいこれ」と俺に手渡してくるもんだから、俺もついつい受け取ってしまったが、よくよく見るとかなりマニアックな形をしていて一秒くらい固まった。
そんなことはいい。俺はどんな性癖でも割と寛大な方で、固まってしまったのは単に彼女のセレクトが珍しいと思ったというだけのこと。俺が心の底から『はぁ?』となったのは次の会話があったから。
「これどっから持ってきた」
「ゼノさんから貰った」
こんな返事が返ってきたら、思いっきり顔をしかめて「はぁ?」と言いたくもなる。せめてネットで買ったとか、アダルトショップで買ったとか、それならまあ分かる。最初はそういうことにからっきしだった彼女が、自分から興味を持ってくれたことは大変喜ばしいことだ。
それがなんだ、人から譲り受けた?しかもそいつが俺の幼馴染ときた。なんだこれ。
「ゼノのを俺に使うつもりか?」
「新品だって言ってたから平気!」
「そりゃそうだろうがよ。てか、俺はまずゼノとそういう話になった経緯が死ぬほど気になんだけど」
最早、ゼノが俺らのことを考えてこれらを用意した事実についてはもうどうでもいい。あのゼノならこういうおせっかいも有り得るからだ。俺の外見から俺のナカの大きさを予測している可能性だってなくはない。
ていうか、ある。あるかないかで言ったら、圧倒的にある。それは普通に考えたらかなり最悪だが、ゼノはそういうやつだから仕方がない。
「どこかで落ち合ったのか?俺の知らねぇ間によ」
「会ってないよ。電話で話しただけ。これは私の家に送ってくれたの」
「電話ぁ?」
連絡先なんて交換してたか?二人は俺の紹介で知り合ったようなもんだから、会う時や話す時はいつだって俺の目が届く範囲でやっていると思っていた。ほぼ初対面に近いこいつらがいつ、どこで、なんでいきなりそういう話になったのか……俺にはとても想像がつかない。
「この前スタンがシャワー浴びてる時に、ゼノさんから電話がかかってきたことがあってね。三秒くらい悩んで出たんだけど」
「んな簡単に出んなよ。あいつと話すネタなんてそうそうねぇだろ」
「その時に、スタンを一度あっと言わせてみたいなあってこぼしたら」
「なんでそんな話になった」
「『スタンを下に敷いてみるといい』って」
「いやだから、なんで」
話を聞いてみると、まあよく分からない経緯だったということがよく分かった。ゼノ、あいつは相変わらず突飛なことを言うやつだ。こんなのあんま仲良くないうちにする話じゃない、絶対。
ていうか……なんだ、今回の件はこいつが自分の頭で思いついたわけじゃねぇんだ。ゼノの入れ知恵。そのことに対して少し残念な気分になってしまう俺は何か間違っているだろうか。これじゃあゼノにやらされてる感が出てしまう。
そもそも電話の履歴なんて残ってたか?そう思ってスマホを取り出すと、アプリを開くより前に教えてくれた。
「履歴は消したよ。ゼノさんがそうしてって言うから」
「……」
「こう言ってた」
スタンなら見覚えのない履歴にすぐに気がついて、僕と何を話したのかを速攻で問いただしてくるだろう。そうなれば君は呆気なく口を割らされて、ドッキリの要素が損なわれてしまうじゃあないか。
「『それはとてもつまらないから、実行する当日までは是非ともこの件についてはひた隠しにしておいてほしい』って」
「……」
あいつが電話口にそんなことを吹き込んでいる様子が簡単に想像できる。そして、それに素直に従ってしまったと。
たいしたことはされてないが、なんだか純粋な俺のハニーを寝盗られてしまったかのような気分だ。歳下だからって俺の恋人に遠慮はしない、そういうことか。
……まあいいけど。
ゼノから話を聞いたところで、彼女が魅力的に思わなければ実行に移されることはなかった。そういうプレイを少しでも良さそうだと思ったから、俺たちは今こんな話をしているのだ。
それに俺はもう彼女のお願いに「いいぜ」と自信満々に返事をしてしまったので、後には引けないし引く気もない。
「ちなみに、スタンってこいうの使ったことあるの?」
「さあな」
「え?どっち?」
「ヒミツ」
一番最初に手渡されたままだった細長い棒を指でくるくると回しながら、どちらともとれるような言葉を返した。ゼノのやつ、マジでコアなものまで送り付けやがって。
「ええー、教えてよ。じゃないと私、使い方よく分かんないんだから」
「使い方よく分かんねぇままぶっつけ本番すんじゃねぇ」
例えば、そういう隠していることを言いたくなっちまうくらいドロドロにすんのもお楽しみの範疇だろ?まだそういう考えに至らないとこを見る限り、純粋な彼女はいつまで経っても純粋なままだろう。
可愛い彼女。真っ白な天使。まだこの時は余裕でしかなかった俺は、この後その認識を改め直す事態に陥ることをまだ知らない。