THE STONE WORLD




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石の世界での二度目の冬が過ぎ去って、ようやく温かいそよ風が吹き始めた頃。このゼノ城でとある小さな事件が起きた。

「へぇー、事件って?」
「事件は事件だ。これは正真正銘紛うことなき事件だよ!!おお!この形容し難い感情をどう表現すれば良いものか!」
「だから事件って何」

今日は非番の日ということで遅く起きてきた俺には、ゼノの普段よりもテンションが高い様子から『なにやら事件が起きたらしい』ということしか分からず、ただ困惑するのみだった。
ていうか、俺からしたらゼノが奇声にも近い大声を上げながらラボの中を右へ左へずかずか歩き回っていることの方が事件だ。いつもなら小言をぶつぶつと喋りながら歩き回っているだけなのに。この昂りようは一体なんだ。
片手にタバコを携えながら、まるでここがマイホームかのようにソファーでふんぞり返る俺に、いつものように苦言を呈することもない。やっぱり何かゼノの想像を絶するようなことが起きているということだ。

「さて、もうじきシャワーを終える頃だ。おそらくここに戻ってくるだろう、迎え入れる準備をしなければな」
「シャワー?」
「ああ。君があまりにも起きてこないから、君の部下のシャーロットが真っ先に世話を名乗り出てくれたよ」
「……世話?」

何の世話?

と、聞き返す前にその答えは自分から俺の目の前に姿を現した。

「あ?」

今、目の前を、何かが横切った。目の前……と言っても厳密には目の前ではなく、斜め下というか、ソファーに座る俺のちょうど腹の位置。そこを何かが疾風の如く横切った。
それが一体何なのか、何故すぐに判断出来なかったかというと、それがこの世界では見慣れないものだったからだ。いや実際にはすぐに正体を察することは出来ていたのだが、脳みそが驚いてただ瞬きを繰り返している間に、それはゼノの元へと一直線に駆け寄って、こう叫んだ。

「パパ!」

パパ?papa?

「おお、よしよし。いい子に体を洗えたようだね。エレガント!先程の泥まみれの姿からは想像も出来ないほどの綺麗さだ」
「うん。あのね、あのね、ろってぃがきれいにしてくれたの。ふわふわごしごしって」
「石鹸は身を清めると同時に細菌などの悪い物質を撃退する力もある。体を洗うことはとても大事な作業だ」
「」


「パパぁ!?」



つまり、今日起きた事件というのは。

「ここにまた一人、石化からの復活者が誕生したということだ!実にエレガント!素晴らしい!齢3つの幼い少女が……!長い年月を起きて起きて起き伸びたのだ!さあ祝杯をあげよう」



「今日最も暇な人間が面倒を見るべきだろう。うむ、実に合理的だ」
「あんなあ……。俺ガキとたいして関わったことねぇんだけど」
「では今回が関わる記念すべき第一歩目じゃあないか」



「ああ、ついうっかりその子が触らないように銃には近づかせないことだ」
「誰に言ってんよ。ったりめーじゃん」
「それから、その子が副流煙の影響を受けないように今日一日煙草は吸わないことだ」
「……。んなの……ったりめーじゃん」

クソが。この一瞬で何故こんなにも苛立ってしまったのか理由はあえて言わないが、このゼノの一言でどうしようもなくむしゃくしゃする未来が視えたので、誰に向けるでもなく内心悪態を吐いた。あー今日はタバコはお預けか。クソが。



「ナマエ、何して遊ぶ?」


「……ママ?」
「ママじゃねぇ」
「じゃあグランマ?」
「一旦ママから離れろ!なあおい、せめてパパにしとこうぜ。な?」

「でも、パパはもういるもん。おでこにばってんついてる」
「ゼノは別にあんたのパパじゃねぇけどな」
「……え?……ぱぱじゃ、ない、の?」

やべ、三歳児の夢壊した。

「……じゃあ、わたしのぱぱ、どこ?ままもいないの。わたしひとりぼっち」

三歳児の地雷も踏んだ。

「独りなんかじゃねぇよ、だってここには俺がいんじゃん」




まさか俺がどこの誰とも知らない他人の子を寝かしつける時が来るなんて、夢にも思わなかった。自分の子すら想像したことないのに。一緒にブランケットをかぶって

目がぱっちりと開いていた。

「どうした?」
「……おやすみのちゅーは?」

ああ。眠る時はいつもママやパパがそうしてくれていたのだろう。

額にそっと触れて頭を撫でると、心底安心したように笑って目を閉じた。

「……おにいちゃん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

いい夢を見れますように。
明日もまた怒涛の一日を迎えることになるだろう。起きている間は俺が安心させてやる。けれど、せめて夢の中だけは愛する家族と幸せに過ごしてくれ。




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