「スタン、だめ!!!」
彼がスーツの見返しに手を突っ込んで拳銃を取り出そうとしたのを見て、私は慌てて千空の前に立ちはだかった。
「あ?ナマエ?何やってんよ、そこをどきな」
「いやだ!」
「は?」
「だめ!千空撃っちゃだめ!」
「なんで」
「だめなものはだめなの!」
だって千空はルーナが好きな男の子なんだもの!!!だから殺しちゃだめ。千空はルーナと仲良くなるんだから!殺すなんて絶対にだめ!
しかしスタンは手を止めることなく拳銃を構え、こちらに銃口を向けた。煙草を外して息を吐くと、余裕そうに私を説得し始める。
「この一瞬で絆されたか?」
「べつに、そういうのじゃないけど!」
「何されたか知らねぇが、いいからどきな。それか理由言え」
「理由?」
「あぁ俺が納得する理由。そしたら考えなくもねぇ。まあ、そんなん百に一つもねぇだろうが」
「理由なんて、言える訳ないじゃん!スタンったら本当にデリカシー無いんだから!」
「はあ?」
私が大親友のルーナの好きな人を本人の目の前でバラすような最低最悪人間だと思いますか!?
理由は言えないけれど、絶対にどかないんだから。
「いいからどけ」
スタンは私の足元ギリギリに銃弾を放った。思わず飛び上がって、肩をきゅうと縮こませる。
もちろん彼には私を撃つつもりなんて微塵もないのだろうが、そのスーパーコントロールのせいで脅しの威力が言葉だけの時よりぜんぜん違う。
瞬きをして固まっていると、スタンは顎をくいっと動かして睨みをきかせてくる。
「ほら、早く」
「君はナマエのことになると、彼女にすら何をするか分からないからね」
「ゼノ。あんたなんで出てきた」
「いい加減お腹が空いてしまって」
「マジ?そんな理由?」
「いいよスタン。銃を下げて」
「いや、撃つ。千空、あいつナマエに手ぇ出した」
「銃を、下げて」
ゼノは同じ抑揚で同じことを言った。簡潔に。それ以上は何も言わずに、スタンに目配せをする。
「・・・Shit!」
舌打ちの直後、また発砲音。今度は私たちの体の真横を銃弾が通り抜けていき、後ろの壁に着弾した。牽制を終えると、スタンはゼノの言葉に従って拳銃をしまった。
「あ、テメーもう帰っていいぞ」
ぽんと背中を押され送り出された。結局彼らは何をしたいのか分からなかったな・・・私とお話するためだけにあれだけ手の込んだ誘拐をしたというの?
小走りでスタンの元に駆け寄ると、突然ガシッと片手で首を掴まれた。ぐぐ、と手の平で気道を押さえ、大きな手で容赦なく首を締めてくる。
「ナマエ?言ったよな俺。またやったら殺すってさ」
「ごめ、なさ・・・!」
「あーあ、俺がやったプレゼントも失くしちまったの?ひでぇな」
彼の手首を掴んで必死に抗う。息をしようと口を大きく開けたら、スタンはそこに指を入れて舌を奥に追いやるように押さえつけた。
息ができない。冗談抜きで、息ができない。目に涙が溢れて頬に筋を描く。スタンはそんな私の反応をじっくりと愉しみながら、耳元で囁いた。
「覚悟しな。今夜はたっぷりお仕置だ」
「スタン、ごめんね」
腕をぎゅうと抱きしめて俯いていると、彼は反対の手で頭を撫でてきた。
「いいよ」
「でも私・・・ごめんね、ごめんなさい」
「いいから。離れな、危ねぇから」
「ごめんなさい」
「ナマエ」
「ごめんなさ」
軽い力でほっぺをつねられた。
「うるせぇ口。こうしてやんよ」
いひゃい。
+
「やあ。さんざんなお出迎えじゃあないか。君をそんな風に躾けたのは僕だったかな?いやいや、君の父親か」
ゼノは千空の方に一歩近づくと、淡々とそんなことを話し出す。
「これでも楽しみにしていたんだよ。」
「美味しい食べ物なら『廃墟』でも味わえるんだな、これが。この洋館、元々ホテルだから」
「その通り!わざわざ食べに出なくても、どのレストランにも及ばない豪華な料理ならもう既に用意が済んでいる!フランソワ!」
「承知しました、龍水様。お客様を奥までご案内致します」
「わあ〜!すてき!美味しそう!」
目の前に並べられた料理。さっそくナイフとフォークを手に取って隣のスタンに手首を掴まれた。
「待て待て。早まんな」
スタンは顔だけ後ろを振り返って、背後で待機していた部下を片手で雑に呼び寄せた。「あんた、毒味」そう言って彼にスプーンを渡す。
「心配せずとも何も入ってねーよ」
「どうだか」
「ほら、テメーらんとこのボス、ピンピンしてんだろ」
千空が指をさす先、つまり私の左隣の彼を見ると、ゼノは既に料理に手をつけていた。スタンはあんぐり口を開けて名前を呼ぶ。
「おいゼノ!」
「ん?まあ、少しくらいの毒なら喰らってもいいさ。そんなことより僕は本当にお腹が空いていて」
「あんたヤバすぎんだろマジで」