復活後IF。同棲千空の留守中、アポなしで突撃訪問してきたアメリカ人とお話する。
一人だけずっと「英語」の人がいます。
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「こんにちは」
インターホンのモニターに映る人物が想定外すぎて目を疑った。緊張の意味でどきどき胸を鳴らしながら返事をすると、スピーカーから聞こえてくるのは以前よりも随分と流暢になった日本語と、今はここにいない彼の名前。なんでもお話があるのだとか。
彼はよく家を空けることが多いけれど、誰か人が来る時は必ず前もって報告してくれる。のに、これはどういうことだろう。
不思議に思いながら、やっぱりどきどきしながらオープンのボタンを押してその足で玄関に駆けつける。
「久しぶりだね。ミスナマエ」
差し出される手。
「ああ、近いうちにミセスになる予定だと聞いたよ。おめでとう」
どこから仕入れたんだろう、その情報・・・ニッキーとかかな。いや今はそんなことはどうでもよくて。
あ、ありがとうございます。この言葉が酷く小さな声になってしまったのは、ドアの前にいたのが一人だけじゃなかったから。
「へぇー、ここがあんたらの」
「あんた、俺のこと恨んだりしてる?」
ゼノ先生の翻訳を聞いて、私はふるふる首を横に振った。すぐに"Why?"と
彼の表情には微塵も後悔やそれと似た感情なんてものはなく、ただ単純に興味があるだけらしい。仕事はすべからく遂行されるものだ。彼は軍人だから、そりゃあ手を汚すことだってあるだろう。
スタンリーはおそらく、一般的な常識にのっとってこんな質問をした。一度でも大切な人の命を脅かした男と普通に会話ができる、その心の中を知りたいということらしい。
答えなくても彼は「そう?」と言って別の話を始めると思う。
「千空が今も生きているから。今も生きて、元気でいてくれてるから。逆にあの時あのまま千空が死んでたら、私はあなたのことを死ぬほど恨んで復讐してると思う」
ていうか、まず相手が違うよね。千空を撃つ命令をしたのは彼ではなく彼の隣にいる人。
「ありえないけど、私がゼノ先生を撃ったとして・・・もちろんそれに足る理由があったうえで撃ったとして・・・そしたらスタンリーさんは私を許すことができるの?」
「撃たれた張本人が恨みを抱いているのならまだしも、千空はぜんぜん気にしてないし。
「体に穴が開いたその瞬間も、先のことを考えてた。千空の頭は」
「だから、むしろ私は感謝したくもなってくるの。・・・スタンリー、あの時千空の頭を撃たないでくれてありがとう」
好き放題に夢と希望が詰め込まれた、彼だけの素敵な宝箱。それをたった一つの銃弾が穴を開けてしまうだけで・・・大変、いちご色のソースと一緒に中身がこぼれてしまうじゃない。
宝箱を好きにしていいのは持ち主だけ。思いの詰まったたからものを他人が壊そうだなんて、非常識にもほどがある。・・・千空は、その仲間に私のこともちょこっと加えてくれた。この幸せを噛み締められるのは、今この世界に千空が生きているからだ。
「」
突然リビングのドアが大きな音を立てながら開かれた。
「テメーら・・・人んちでなにしてんだ」
ひと目でわかった、千空、相当ご立腹・・・。慌ててソファーから立ち上がって彼の元に駆け寄ると、おかえりなさいを言う前に
「ナマエ、テメーもだ。女ひとりでなに家に男あげてんだよ」
「え、その、二人が中に入れてって」
「そう言や誰でも入れんのか。ここは随分と泥棒に優しい家だな」
「いやっ、ちがくて・・・」
いや違くないんだけど、千空の言い分はとてもとても正しいのだけれど・・・。
「メッセージ見なかった・・・?その、二人が来てるって・・・届いてない?」
「見たよ。見たからこうして超速攻で帰ってきたんじゃねーか。なんもされてねぇよな、さすがに、いや文面見た途端に心臓飛び出るかと思ったわ」
顔や体をぺたぺた触りながら、実験物の状態確認をするように目を光らせる千空・現科学者。怒ってるわけじゃなくて、私を心配してくれていたらしい。そんな危険なんて予感させないほど二人は普通に過ごしてたよ、だから大丈夫。
私が大丈夫だと分かると、千空は「テメーへのお説教はあとだ」と言い残してリビング中央のソファーへ向かった。やばい、あとで怒られる。
「よー千空!久しぶり。前にあんたの顔見たのいつぐらいだ?」
「あ゛ー、五ヶ月と十日前。つーかなんだそのクソデカ態度、ソファーを玉座かなんかだと勘違いしちまってんのか。その脚をおろしやがれ」
「わりって。ああ、この家のもん色々使わせて貰ってんぜ。さすがに靴とか煙草とか気ぃつけてっから安心しろよ」
「ったりめぇだ。ここにちいっとでも煙持ち込みやがったら一生出禁だかんな」
「あんた、うちのゼノと同じこと言うね」
「ここさァ、見晴らしとか立地とかなかなかいいよ。俺も住みてぇんだけど。可愛い嫁もいるし」
「中指おっ立てられてーか?・・・おいゼノ、何とか言え、あんたご自慢の側近スナイパー様の教育がなってねーようだが」
英語、英語、英語・・・。私もそこそこ勉強した方だけど、やっぱりネイティブの早口言葉は全然聞き取れない。それと当たり前のように会話するせんくう・・・。すごい。
「いや、なんというか・・・随分と仲良くなったものだね」
「あ?」
「少し前まで犬猿の仲だったじゃあないか。まあ、主にスタンの方が睨みを効かせていたけれど」
「今の仲良くなったように見えっか?てかおい、なに自分一人だけ部外者みてーな面してやがんだ」
「あんたなんでここいんだよ」
「それは君に会いに、だ。そのついでと言ってはなんだが・・・君の未来のワイフにもご挨拶を」
「はーん?で、そのついでの方を先に済ましちまったってか」
「そういうことだ」
「こっちは?あんたの護衛か?」
「おおむねその通りだ・・・と言いたいところだが、正しくはスタンが無理やりついてきた。特に意味は無いさ、あまり気にしないでくれ」
「そーかよ。用件さっさと話せ」
この世界では完全に英雄扱いのこの二人が、家で一同に介してるって・・・なんかすごい。そんな感想しか抱けない私は、二人がする専門的な話を聞いていてもただぼんやりと時間を過ごしてしまうだけだ。とりあえずお茶や茶菓子は用意したことだし、自分の部屋で暇つぶしてよう。
千空は察しがいいから特に声をかける必要はないと判断し、立ち上がるとその足で自室に向かった。
しばらく時間が経って、ノックの音。寝転がっていたベッドから起き上がってドアを開けると、仏頂面の千空が立っていた。もうお話が終わったらしい。
「二人は?」
「帰った」
「・・・なんか声聞こえるけど」
なにやら玄関の方から聞こえる英語。そっちの方向を指さすと、千空は頭の後ろをかいて超面倒くさそうな顔をする。帰るところらしいが、このタイミングで千空がわざわざ私の部屋に来たということは・・・おそるおそる千空の横をすり抜けて玄関が見えるところまで移動すると、既に靴を履いた二人が私を見て手を挙げた。
「今日はいきなり押しかけて悪いことをしたね。後日また改めて伺わせてもらうよ」
「は、はい!こちらこそちゃんとおもてなしできなくてごめんなさい・・・。お待ちしてます」
『バイバイ、千空によろしく』
簡単な英語、聞き取れた。
『あ、そだ。あんたのケーキ美味かったからまた食わして。次はいちごとか乗せてよ』
「え、ストロベリー?」
なんかいきなり食べ物の話になった。不意打ちに驚いていると、後ろから背中に重みが。
『んなら、次はなんかみやげでも持って来やがれ。ナマエの飯はタダじゃねぇ』
『お、千空』
今度は日本語で喋り出す。
「ゼノ先生よ、こいつは女見たら口説いとかねぇと気がすまねぇタイプの人間か?てか守備範囲広めだな、割と歳下だが」
「もちろん気に入った子だけだよ」
「ダメじゃねぇか。フリーとそれ以外見分ける目くらい持ってんだろ。・・・いや、わざとやってんのかこいつに限っては」
「かつて敵対したリーダーにいつまでも対抗心丸出しで困ったものさ。そういえば・・・君が帰ってくるまでは床に両足をついて大人しく座っていた」
「んだそれ、逆に可愛く思えて来たわ」
『なに?二人でこそこそ・・・俺の良いとこ言い合ってんの?照れんぜ』
『あ゛ー、そんな感じそんな感じ』
「んじゃ、飯だ飯」
「千空・・・?」
「あ?どーした?」
「その、お説教は?」
「この時代に自分から説教乞うやつがあるかよ。俺はあの手のかかる大人追い出した後で、お経唱える気力なんてどこにもねぇぞ」
「え、お経?」
「説教の語源だ。後で勝手に調べとけ。あー今再現してる分の広辞苑にこれ載ってっか微妙だが」
「・・・怒ってないの?」
「怒ってねぇよ。100億パーあっちが悪いに決まってんだ」
「もしあの二人じゃなかったら、テメー今頃どうなってたか分かんねぇぞ。旧世界の犯罪者も全部丸ごと、俺らが助けちまったからな」
「ごめんなさい、気をつける・・・」
「野宿してた頃より圧倒的に物理的な防犯はできてんだ。あと必要なのはナマエ、テメーの心構えだけ。せいぜい構えとけ」
「わかった!この家は私が守るからね」
構える、という言葉を聞いてなんとなくウルトラマンポーズをする私。千空は呆れてるんだか馬鹿にしてるんだか分からない笑みを見せながら、私の頭をぽんぽん叩いた。
「いや、家じゃなくて」
床と垂直に立てた方の手首を掴むと、そのまま上半身を屈めて口付ける。離れたかと思ったら舌が伸びてぺろりと唇をなめられた。
私を見下ろす千空は、いつもと変わらずかっこいい。ていうかいきなりちゅーされちゃった。驚いてどきどきする私の胸に、彼は二本くらい指を置いて数回つついた。
「この家は別にどうでもいいわ、世界中に何個か拠点持つ予定だし。テメーどこにでもついてくるってお人好しなこと言ってたよな」
「うん、言った言った」
「つまりだ。こんな一時的な住処より、俺がずっと帰ってくるここを大事にして欲しいんだわ、テメーには」
また胸をつつかれる。
「んだその顔。伝わったか?」
「大事にしてるよ、私の心臓は健康だよ」
「・・・・・・」
露骨にジト目を向けられる。面白くなって千空の触覚を両手でそれぞれ掴んだ。
「分かってる!千空は私を心配してくれてるんだよね!」
「離せコラ。引っこ抜いたら復讐すんぞ」
「復讐ってどんな?」
「脱毛剤ぶっかける」
「割と本気の復讐じゃん!」
「じゃなきゃ意味ねぇだろが」
「あ、そうだ。千空にもう一つ謝んなきゃいけないことが・・・」
「なんだよ」
「今日か明日くらいに千空に食べてもらう予定だったケーキ、ゼノ先生とスタンリーさんにあげちゃったの」
「あーさっき言ってたなそんなこと」
「だがケーキって、最近なんか記念日あったか・・・?・・・あー、はいはい思い出した」
「え?」
「あれだろ?今日、俺がテメーの石化解いた日だろ」
「え?そーなの?」
「は?そうだが。これ知っててケーキ用意したんじゃねぇのか?」
「ちがうよ、なんとなく今日ケーキ作りたくなって・・・」
「そーかよ。確かに記憶力ねぇお前にしてはやけに正確に覚えてんなとは思ったが」
私が記憶力ないのは本当だけど、それより千空、千空はそんなことまで覚えてるの?大丈夫?そんなことばかり覚えてて、頭パンクしないの?・・・嬉しいけど。
「なんでもいいが、腹減った。なんか作んのか?」
「そんな、何も用意してないよ・・・千空飲み会の予定だったでしょ?あ、でも新しいケーキは作る予定」
「晩飯にそれはな・・・。じゃあ俺テキトー自分でにやっとくわ、テメーはケーキ作ってていいからなんかしら手伝え」
「うん、わかった!」