THE STONE WORLD


動けるボディ(1)

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「それ、着心地どう?」

翌日の夜、超普通に話しかけられたから度肝を抜かした。午前中にいくら探しても姿が見えなかったから、今までずっと部屋に閉じこもっていたらしいが。今日は会えないつもりでいたから驚いた。
いつもと同じツンとした表情。ああ可愛い。惚れた。まあ、昨日あれだけ泣き腫らしてたから……冷やしてはいたんだろうけど、今でもまだ若干目元が赤い気がする。でもわざわざつっこむのはうぜぇよな、じゃあ俺も普通に接する。

「いい感じ。あんた天才だと思う」
「そういうのいいから」



「ねえ、今から私が言うことに何か反応したら許さないから」
「え?ああ、うん。言ってみ」


「今までごめんなさい」

思わず大声を出しそうになった。モールスで伝えんのが精一杯じゃねぇの!?まさか本人の口からその言葉を貰えるとは……ていうか俺はもう許してんのに。だめだめ、反応しちゃいけねーんだった。

「私はこれからも嘘をついてしまうと思うから、嫌いになりたくなったらいつでも嫌いになっていい」

なるかよ。

「あとこれだけ。今まで私を嫌いにならないでくれて、ありがとう」

それを直接俺に伝えられるようになっただけで、充分前進してんじゃん。本当だったら抱きしめてやりたいところだけど……プリンセスのお願いだから、ひとりごとを呟くだけにした。

「ナマエ、だいすき」
「許さない」
「ちげぇ、今のひとりごとだかんな」
「うるさい」

耳を塞がない。それだけで死ぬほど嬉しい。

「ナマエ、こっちこそ言いたいことあんだけど」
「なに?」
「俺のキス、嫌だった?」
「は?いきなり何?」
「先週のは謝ったつもりだけど、昨日の分はちゃんと謝ってねぇから。嫌だった?」
「……聞いてどうすんの」
「嫌だったら謝る。嫌じゃなかったらもう一回する」
「は?」


「謝んなくていい」

「」






「ねぇ、それもしかして俺のと同じ?」
「…………スタンの余り布使っただけ」
「オソロじゃん!ペアルック、とまではいかねぇけど。なんか雰囲気お揃いじゃん」
「お揃いじゃない」
「ねえ、さりげなくそういうことすんのさ、ホント可愛いあんた」
「うるさい、もう脱ぐ。作り直す」


「いいじゃん、可愛い。似合ってる」
「私の好みってだけだから」
「あー、そういや俺のこれもあんたが提案してこうなったんよな。ナマエの好きなもんで全身包まれてんの・・・気分いいね」
「なにそれ」
「だってあんたに抱きしめられてる感じすんじゃん?想像するだけでもう満足」

そう言った途端、黙り込む。眉をひそめて顔を逸らす。露骨にひしゃげる表情を隠そうともしない。ついでに横目に睨まれた。
あーこれこれ。これは棘を食らうやつ。やっぱり呪いが解けるまでまだしばらくは時間がかかるらしい。

「やめて勝手な妄想、きもちわるい」

痛いな。

彼女の前では平然としてるけど、痛いんだよこれ。たとえこれが嘘だとしても、マジな顔してマジのトーンで言われるからまっすぐ心をぶち破られる。
痛くないなんて嘘に決まってる。超痛いに決まってんじゃん。俺の体はもはや彼女の棘だらけ。ほらウニみたいな。なんか違ぇな、そしたらこっちが尖ってるみたいだ。俺は穴を開けられる側だ。だからほら、何個も何個も穴が開いてる。

「やめて、そういうの」

それでも俺は聞かないといけねえの。彼女の口から出る言葉はみんな記憶の中に取っておきたいっていうか、ひとつ残らず聞いてあげたいっていうか。いやマゾじゃねぇから。
だって、ふとした時に可愛いこと言われた時に聞き逃したくないし。まあ全然言ってくれる気配ないけど。

「・・・勝手に想像の私を作り出さないで。自分で言ってて寂しくな」

彼女が、突然自分で自分の口を塞いだ。
なに・・・なにごと?

「今の違う」



「喋ったらあなたを傷つける」

今更何言ってんの?

「いいよ、俺なんでも聞くから」
「・・・・・・」
「なんか言いかけたの気になんじゃん。教えてくんね」
「・・・・・・」
「昨日みてぇにモールス使えば?それならある程度伝えやすいんじゃねぇの」

ふるふる、首を横に振る。

「それじゃだめ」
「だめ?」
「それじゃなんも変わんない」

なんか変えようとしてんの?

「・・・ゼノが言ってた」
「ゼノ?」
「自分の思考を箇条書きみたいに頭の中に並べてみろって。ひとつひとつ簡潔に切り詰めるの。そしたら余計な言葉が省かれるから」

ああ、昨日あのあとなんか言われたのか。

「本物の私がここにいるの」


「想像の私がいるときもちわるい」
「・・・・・・」
「でもきもちわるいのはあなたじゃない」
「・・・・・・」
「だから、勘違いしないで」

「偽物より本物を抱きしめて」

え、なにこれ。素直すぎて怖い。ゼノ、あいつヤバすぎ、あいつ心理学者だったっけか?また石になったかと思った。え、待てなにその顔。なんでそんな真っ赤なの。可愛いが。

「ねえ、俺抱きしめてもいいの?マジ?抱きしめてもいいの?」
「そんなこと言ってない」
「言ったじゃねぇかよ!」

耐えきれなくてその場で全力でぎゅうぎゅうに抱きしめた。うっわ、なんだこいつ。マジで好きなんだけど。大好き。

「はな、はなして!やだ!あっち行って!」
「離すわけねーじゃん!んもぉ、俺むり、もう一生離してやんねぇ・・・・・・」

なんでだ、あんたの棘は鋭いはずなのに、死ぬほど柔らかくて死ぬほど温かくていつまでもこうしてたくなる。調子に乗ってそのままキスしようとしたら、顔を真っ赤にした彼女に顔面をぐーで殴られた。

あー、痛くない。

そのまま懲りずに抱きしめ続ける俺。やべぇ泣きそう。嬉しい。泣きそう。
本っ当にしょうがねぇやつ。だって自分でぶすぶす針ぶっ刺して穴開けておきながら、自分で塞いで治しちまうんだもん。抱きしめるだけで元通りだ、そうだわ、昔一回くらい穴開いた服直してもらったことあるわ・・・それまで全く思い入れなかった服なのに丁寧にタンスの奥に仕舞ってたわそれ・・・もう全部消えたけど。でもそんなことはいい、あんたが消えずにここにいてくれてんだから。

「はぁぁ、ナマエ・・・超可愛い。変わろうとしてくれてんの?俺のために?大好き、愛してる」
「・・・・・・」
「素直なナマエとかぜってぇ可愛い!いやいつでも可愛いけど。だから俺あんたのこと全部ひっくるめて好きなんだよね」

「俺ナマエが言いたいこと言えるようになるまでいつまでも待ってっからさ、待つのは別に苦じゃねぇから」
「・・・・・・」
「んーでもさ、んな言葉並べるだけの会話つまんねーとこあるよな、だからたまには棘くらわしてもいいんだぜ」

さんざん手伝わされたから知ってっけど、服作る人にはボディってのが必需品でさ。ほらあれだ、マネキンの頭と手足が無いバージョンみたいな。
ドレーピングっつー作業で、そのトルソーにぶすぶすデカい針刺しながら、それ用の布で服を形作ってくの、何回もやったから知ってる。想像つかなきゃゼノにでも聞いてこい。懇切丁寧に教えてくれっから。
あー、俺とりあえずそれになってやるわ。胴体だけになるのは勘弁だけど、全身丸ごとくれてやるから。ああもう決めた。だって必需品じゃん、一緒にいれんじゃん、なにそれサイコーかよ。これからもぶすぶす刺していいから、一緒にいさせて。それだけでいい、それだけでいいから。

檻ん中に一人で閉じこもってなんかないで、俺も一緒に入れさせて。



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