あと少し待てば太陽がいなくなりそうな時間。今日はもう手が空いてしまったので、森の中を探検していた時のこと。
ふと、近くの木の根元に物珍しい見た目をした植物を見つけた私は、近くに駆け寄って観察を始めた。普段は、というか石化する以前は森に入る機会があまりなかったから・・・単に私が見たことがないだけで、案外有名だったりするかもしれないけれど。
お肉一筋で生きてきた私は、植物に関する詳しい知識なんて持ち合わせていなかった。これがどんな名前なのかまったく検討がつかない。
でも、なかなか面白い色だ。形もそう。あらゆる方向からじー、と見つめ、ひとりごとのように尋ねてみる。
君は食べられるだろうか?
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「マイハニー、茶々入れて悪いがそんなん食べたいとは思わねえ、ふつう」
私の問いかけに的外れな答えを寄越したのは、愛しい彼の声だった。驚いて振り向く。
「スタン。いつの間にそこにいたの?」
「たった今だ」
「ふーん、もっと遅くなると思ってたのに。おかえりなさい」
そこには藁に身を扮したスタンリーが立っていた。なにやら変なものを目撃したかのように、口の端を引いて苦笑いしている。その表情はともかく・・・今日は森のずっと奥まで偵察に行くと聞いていたから、まさかこんなところで出くわすとは思ってもみなかった。
すぐに立ち上がって彼の元に駆け寄り、そのままの勢いで胸に飛び込む。彼は一旦煙草を外して、唇にそっとキスを落とした。
「おかえりって。何やってんよ、こんな森の入口でたった一人で。もうとっくに夕暮れだ」
「別に、スタンのこと待ってたわけじゃないよ。やることなくなったから探検。美味しそうなものないかなーって」
「森はそんな気軽に入るもんじゃねえ。入るならもっと早くに来な」
頭にコツンと軽い拳骨を落とされた。痛くはないけどなんとなく両手で頭を押さえ、彼の瞳をまっすぐ見つめる。素直に「ごめんね」と謝ると、スタンは微笑みを返して私の手を取り、森の外の方へ歩き出した。
「今日はもう終わりなの?」
「ああ、交代だ。ゼノに日が暮れるまでに帰ってくるよう言われたんでね」
「へえ、どうして?」
「さあ。何かあるのは確かだな」
また何か新しいプロジェクトでも始めるつもりなのだろうか。それとも・・・なんだろう。何も思いつかないや。私は早々に諦めて、今日の夕食のことを考え始めた。
二人でゼノのところを訪ねると、彼は今日も忙しそうに小道具を両手に持って何らかの実験を進めている。スタンが一言声をかけると、ゼノは一度振り返ってからすぐにまた作業に戻った。いつもこんな感じだ。
「なんだ、first nameも一緒か」
「偶然森で会ったからそのまま着いてきたの。ていうか、スタンがこの手を離してくれなくて」
「ゼノに顔を出すだけなのに、わざわざ離れる必要がどこにある?」
「どこまでも仲が良いな、君たちは」
そんなことは今更だ。私たちは人類が石化する前から・・・いやいや、それよりもずっとずっと前から一緒にいたのだから。幼い頃から私のことを知り尽くしているゼノは、ことあるごとに私とスタンの関係を嬉しそうに見守ってくれている。
ゼノはこっちを見ていないけれど、私はゼノの言葉に応えるように、繋いでいただけの手を一旦解いてスタンリーの腕を抱きしめた。
「そんで、話があんだろ?今度は何を作る気だ?」
「それについて少し二人に相談したいことがある。長くなりそうだが構わないか?」
作業が一区切りついたらしく、ゼノはようやく立ち上がって私たちに体を向けた。それから人数分の椅子を用意しようとする彼を、私は慌てて制止させる。
「待って。私もうお腹空いた」
「おいfirst name、だからさっきあんな気味の悪い植物見つめてヨダレ垂らして・・・」
「スタン、あの子は気味悪くないし私はヨダレなんて垂らしてない!ちょっと珍しいから眺めてただけ」
「お前が興味を唆られんのは美味そうなもんだけじゃなかったか?」
「そんなことないよ、好きな物はいっぱいあるもん。たとえばハンバーガーとかミートスパゲティとか、あとコーンスープとか」
「否定になってねえ」
「はは、first nameが空腹なのは充分伝わったよ。夕食にはまだ少し早い時間だが、話は食べながらにしようか」
ゼノの言葉に私は心の中で飛び上がる。結局のところ彼も私に甘いのだ。
そして、甘いものは例外なく美味しいから好き。