THE STONE WORLD


答えはずっと決まっていた


「ということは、僕はスタンを殺すためにfirst nameを仕向けた魔女ということになるな」

事情を聞いたゼノは、得意そうな顔をしてこう言った。・・・え、そうなるの?確かに、あの時私とスタンリーを引き合わせたのはゼノだけど。果たしてこれはそういうことになるのだろうか。

「いや、スタンは『パラレルワールドだから死なない毒林檎』と言ったのか。それならば『スタンを堕とすために』が正しいな」
「私はまず、ゼノが魔女っていうところにツッコミたいけど」
「性別はあまり関係ないだろう。魔法使いとでも言っておけばいいのかい?」

真面目に訂正するゼノに、ただ笑うしかない。こんなんだから私は自重しない癖がついてしまったのだ。
いくら変なことを言っても、どんなに人の道を外れたことを言っても、ゼノが当たり前のように受け答えするから。小さい頃はそれが普通だと思い込んでいたくらいだ。



実は私の食欲は以前より断然マシになっている。今となってはもう、実際に『それ』を食べてみようとは全く思わなくなった。美味しそうなものをみて、美味しそうだと思うだけ。
私がそうなり始めたのは、やはりスタンリーが原因だ。それは彼と出会って比較的すぐに自覚した。彼は無理だ。私には食べられない。だって、彼がいなくなったら悲しいもの。そんな信じられないくらい極々当たり前のことを、その時初めて自覚した。

「first name、どこ行くんよ」
「・・・スタン。どこでもないよ、ちょっと喉乾いちゃって」
「そ。すぐ帰ってきな」

深夜、もう日付はとっくに越している。スタンはとっくに寝ていたと思ったのに、私がベッドを下りた瞬間にいきなり話しかけてくるものだから、びっくりしてしまった。
簡単にそれだけ言って、あまり音を立てないように部屋の外へ出る。廊下を進んで、角を曲がって、突き当たりの方を目指す。
そして、調理場の前を通り過ぎた。
階段をおりて建物の外に出ると、私はまっすぐ森の方へ向かう。目的の場所は森に入ってすぐの場所。頼りになるのは月明かりだけ。密かに持ってきていた懐中電灯がなければ、何も見えなかっただろう。

その植物はまだそこに生えていた。面白い姿をしているので、すぐに見つけることができた。あの時のようにしゃがみ込んで、「こんにちは」と声をかけてみる。さて、これまでの人生の中で私が尋ねたすべての人と物たちに、今ここで自問自答の答えを出そう。

私は君を食べられるだろうか?
いいえ、私には食べられない。

あなたがいなくなると、少なくとも私は悲しくなってしまうから。その面白い姿をもっと見ていたいの。今日はそれだけを言いに来た。あの時質問をするだけして、困らてしまってごめんね。
立ち上がってそのまま森を出ると、なんとそこにはスタンリーが立っていた。驚いて懐中電灯を落としそうになるのを、もう片方の手でカバーする。

「おかえり。あと十秒戻んなかったら、速攻追いかけてたかんな」
「・・・なんでここいるの?」
「こっちの台詞だ。わざわざ森ん中抜けて川の水飲みに行くのかと思った」

途中、何度も振り返りながらここまで来たのに、全然気配に気づかなかった。軍人さんってみんなそうなの?凄いなあ、としか言いようがない。
立ち止まってその場に突っ立ったままでいると、スタンはこちらに近づいてきて私の手を取った。そして、有無を言わさず建物の方へ歩き出す。

「んで、水は飲めた?」
「べつに、水飲みに来たんじゃないの」
「そんなん分かってっから。目的は果たせたのかって聞いてんだ」
「そっか。・・・うん、大丈夫。それは果たせたよ。すっきりした」
「こんな遅くに、俺に嘘ついてまで来ようってんだから、もうこの際何やってたのかは聞かねぇけど」

歩きながら、スタンは優しい声で話しかけてくる。深夜の森にたった一人で入ったこと・・・怒ってもいいのに、彼はそんな様子を見せない。怒ってもいいのに。

「心配はさせてくんね。俺が言いたいのはそれだけ」

部屋に戻ると、スタンリーはすぐさま私のことを抱きしめてきた。これまでの人生の中で一番強いんじゃないかっていうくらい、強い強い力で私の体を腕に閉じ込めた。
息が出来なくなる前に、私は彼の背中を叩いてある程度の抵抗をしてみせた。スタンはすぐに離れてくれたが、そのまま私の体を軽〜く持ち上げてベッドまで運ぶと、またぎゅううと私のことを抱きしめる。そして耳元で「心配だから朝までぜってぇ離してやんねぇ」と言う。
ここまでくると最早こんな私を叱ってくれとさえ思う。心配かけてごめんなさい。本当にごめんね。口に出して言うと、スタンは頭をごりごり擦り付けてきた。痛かった。

このまま黙っているのも申し訳ない、でも直接言うのは恥ずかしい。完全に目が覚めてしまって寝られないのを利用して、小一時間ほど待つことにした。そのくらいが経過して、スタンが眠った頃を見計らう。私は「自戒してきたの」と小さな声で呟いた。
起きていても起きていなくてもどちらでもいい。そんなことを心のどこかで思っていたが、彼が何も言わないので私は安心して続ける。

「色々悩んでたけど、それを誰彼構わず尋ねて回るのはもうやめる・・・って、自戒してきたの。急に思い立って、今すぐ行かなきゃって思って」

それだけ打ち明けたら私はもう満足してしまって、そのまま目を閉じた。スタンの腕に包まれながら、結局眠れないまま朝を迎える。
いつもと変わらない朝に、いつもと変わらない私。強いて言うのなら、徹夜に慣れていない私の目には呆気なくクマがついてしまったけれど・・・それだけだ。私は何も変わらない。だって答えはずっと決まっていた。私は『それ』を鑑賞するだけで満足していたのだ。
そんな中でもスタンリーは特別。彼は私を抱きしめてくれるから。愛してくれているから。それだけで私は満足できた。それだけ簡単なことだった。
・・・それだけの欲だったのだ。

fin.



答えはずっと決まっていた
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