THE STONE WORLD


それはキズものじゃないから


銃の件でゼノが捕まったと聞いた時、私は思わず笑ってしまった。だって、まさかゼノが私より先に法を犯すだなんて夢にも思わなかったから。それと同時に、この世の狭さに愕然とする。
彼はそういうところは上手くやっていそうなのに。いつ衝動に駆られるか分からない私なんかより、ずっと上手くやっているはずなのに。
法律がゼノを否定した瞬間だった。好きの度が過ぎていることも、彼の中の黒い部分も、どちらも大好きな彼の一部だ。邪魔する奴は構わないでどっかに行け、当時の私は子供ながらにそう思った。

ゼノにとっては窮屈な星。知り尽くしたからこそNASAで外を研究してきたのだろう。色々な事件を起こしながらも、そうやって彼は彼らしく生きている。
・・・私はどう?



「スタン、感触は?違和感はないか?」

この世界で、ゼノは少なくとも前の世界よりかはのびのびと生きているように思える。そう言う私も、実は彼と同じなのかもしれない。
ゼノや私が常日頃から抱いている、常軌を逸した『思考』と『嗜好』。それを非難する人なんて、ここには誰もいないから。そもそも人がいないのだし。

「ここまで来ればもう、まさに以前の君がよく使っていたものと遜色はないだろう。この世界における現時点での最高傑作だ!」

・・・ああ、なんだか難しいことを考えてしまった。スタンに最新型の銃をプレゼンするゼノの顔が、これでもかというほど活き活きとしているからだろう。
スタンなら心配はないけれど、万が一にも流れ弾が当たらないようにと少し離れたところに座らされた私は、ただぼんやりと二人の楽しげな会話を聞いていた。

「ああ、良い。これだこれ。・・・やっぱりあんた尊敬すんよ」
「おおスタン!まさかこれで終わりだと思ってはいないだろうな。試し撃ちが済んだなら、さっそく次のところに」
「あー、もうちょい撃たせて。弾道確かめっから」
「それは構わないが、なるべく早く切り上げてくれよ?あまりもたもたしていると、今日は寝られるか分からないよ」
「へぇ、また何か楽しそうなことでも企んでんの?ゼノ先生」
「それは後のお楽しみだ」

ゼノはスタンリーの問いかけにそう返して、一足先に城の中に戻って行く。私はそれに手を振って、さっそく銃を構えるスタンに目をやった。楽しそうに足で近くの邪魔な小石を蹴飛ばしているのを見る限り、もうしばらくはかかりそうだ。

木の枝に吊り下げられた簡易的な的に向かって、スタンは色々な銃を取っかえ引っかえ射撃を繰り返す。その全てが命中するので、的なんてものはとっくに『的だったもの』に姿を変えていた。
その斜め後ろで、呑気にうつらうつら頭を揺らし始める私。太陽の下で暇をしていると、だんだんと眠気に襲われてしまうのだ。あー、もう限界。たたんでいた膝を伸ばして重力に従うように地面にぱたりと倒れ込むと、さすがにスタンは何事かと両手の銃をおろした。

「この騒音の中よく眠れんね」
「・・・スタンの音は聞き慣れてるから」
「それにしてもだろ。・・・first name、続けていい?」

いいよと返事は返したが、私が両目を閉じて完全に寝る体勢に入ってしまったためか、スタンは「これだから眠り姫は」と言いながらこちらに歩み寄ってくる。
その音に再び目を開けると、彼はしゃがんで私の顔を覗いた。

「んなとこで寝たら汚れんだろ。それに体も傷めちまうよ。明日腰痛で困んのはfirst name自身だ」
「それなら、スタンが私の足になればいいと思うの。一日くらい余裕でしょ?」
Hey,プリンセス!それはギリギリ頷いてやれねぇお願いだな。明日はやっと完成した飛行機の試運転に呼ばれてんだよ」
「そっか。スタンならきっと楽々動かせるんだろうな。私、そんな素敵な人が操縦する飛行機に一度くらい乗ってみたいかも」
「あからさまに持ち上げてくんじゃん」

スタンに小突かれるのを境に、眠気はいつの間にかどこかへ行ってしまったようで。もう目が覚めた。
地面に手をついて上体を起こすと、スタンは髪や服についた砂ぼこりをやや乱暴に手で払う。

「キリ悪ぃからもう今からゼノんとこ行くけど、first nameはどうする?」
「調理場を手伝っていこうかな。もうそろそろお昼だから」
「じゃそこまでエスコートしてやんよ」

差し出される手。大きくて私の手なんかすっかり覆われてしまう。スタンは今日もまた夢の国のプリンスのように輝きを振りまいているなあと思った。



ぶっちゃけて言うと、私には友達が少ない。スタンを恋人とするなら、友達と呼べるまでに親密な関係を築いていたのはゼノだけ。もちろん今はルーナや他のみんなと仲良くさせてもらっているけれど、前の世界での私は壊滅的に人との接し方が分からず、ただ一方的に人を不快にさせていた。

小さな頃はスノーホワイトの毒林檎を食べてみたいと言って、友達がいなくなった。少し成長すると、真正面から人を美味しそうと言い始める。そんな人間とわざわざ関わろうとする人なんて極々限られているに決まっている。それでも、私はそんな自分を否定することなんでできなかった。
そんなだから、子供の時はしょっちゅう自己嫌悪に苛まれていた。スタンリーが私を愛してくれるようになったことも、ふとした時に心の中で疑いをかける自分がいた。
どうして彼は私のことを気持ち悪いと言わないの?だから本人に直接聞いたことがある。その日は色々なことが重なってブルーな気分になっていたのだ。


「スタンはどうして私のことを気持ち悪いって言わないの?」

その時の彼の表情を今でも覚えている。さして仲良くない時に私が自分からその性癖を披露したくらいだから、彼には私がそんなことで悩んじゃいないと映っていたのかもしれない。
言葉だけじゃない、私はその時泣いていた。涙を流して震える声でそんなことを言った時、スタンはいつもより強い力で抱きしめてくれた。私の頬を両手で包んで、額を擦り付けながら「泣かないで」と笑う。

「俺は実は白雪姫なのかもしんねぇ。パラレルワールドの」

そして、彼は変なことを言い出した。私はなんのことか分からなくて、思わず真面目に返答してしまう。

「じゃあ私が白馬に乗ってスタンを助けに行く側なの?」
「それもいいけど、違うな」
「なら・・・小人たち?私、どちらかと言えば小さいし」
「いや違うって。俺が言いてぇのは・・・first nameは中毒性のある毒林檎」

人じゃなかった。しかも毒持ち。

「パラレルワールドだから、死なねぇ毒だ」

でもその毒は欠陥じゃないから。
と、スタンリーは言う。

「俺を虜にする為に存在してんだろ、first nameは。俺をこんなに惑わせてんだ、その毒林檎がキズものなわけねぇじゃん」

完璧な毒林檎。俺だけの毒林檎。
これまでにそんなおかしなことを言って慰めてくれた人は、幼い頃から達観していたゼノくらいで。あとは遠ざかるばかりだったのに。
私を認めてくれる人がこんなに近くにいたなんて知らなかった。嬉しくて嬉しくて、際限なく溢れる涙に彼はひたすら背中を撫で続けてくれた。



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