温もりの中で目が覚める。
なんて幸せなことだろう。
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翌日。寝坊しがちな私にしては、珍しく早い時間に目が覚めた。シーツに直接肌が触れる感覚。昨晩の私はそれだけの気力が残っていたらしく、最低限下着だけを身につけている。
上体を起こして窓の外を見ると、カーテンの隙間から早朝独特の淡い空の色が見えた。太陽が出てきてまだ間もない。驚いて時計を見ると、いつもより二時間も早起きをしてしまったようだ。
「・・・スタン?」
隣に目をやると、彼はしっかりと目を閉じて寝息を立てている。私とは逆で、彼の方は珍しく眠りこけているらしい。真上から顔を覗き込んでみる。私はとりあえず寝顔が綺麗で羨ましいと思った。
そういえば、彼は朝早くから仕事がない日はいつもこのくらいに起きていたような。・・・いや、もう少し遅いくらいだったっけ。どちらにせよ朝を知らせようと思い声をかけた。
「スタン、朝・・・」
肩を揺らすが反応がない。頬をつついたり鼻をつまんだり、目蓋にキスをしてみるが、返ってくるのは寝息だけ。本当に起きる気配がない。彼の職業柄、大音量で起床ラッパでも鳴らしてやれば一発で起きるだろうけど・・・それはあまりにも可哀想だ。
まあ、普段から彼はその役柄のせいで寝不足な節があるから(ゼノほどじゃないけど)、昨日たくさん運動して余計に体が疲れているのだろう。かくいう私こそ人のことは言えないが、目覚めたものは仕方がない。スタンが寒くならないように布団の端の方だけをめくって、静かにベッドからおりた。
寝返りをうつスタンリーの横で、眠い目をこすりながら朝の支度を進める。すると突然ノックの音が聞こえてきた。
朝早くに誰だろうか。今日はたまたま起きていたからいいけど、普段なら余裕で爆睡中だ。不思議に思いながらドアを開けると、相手も同じことを思っていたらしい。驚いた様子で名前を呼ばれた。
「first name!起きてたのね。返事が返ってくるなんて思わなかったわ」
そこにはルーナが立っていた。一応朝なので声を小さく抑えながらも、口を開けて私を見上げている。
何の用事だろうか。それよりも、返事がないと思っていたなら、どうしてわざわざこんな時間に私を訪ねてきたの?ルーナの顔を覗き見ると、何かを言いたげな表情。右を見て、左を見て、伏し目がちに床を見て。両手の指を擦り合わせている。なんとも分かりやすい。廊下に出てドアを閉めると、そのドアに背をつけた。
「おはようルーナ、何かあったの?」
「・・・うーんと、その・・・ちょっとだけfirst nameに会いたくなっちゃって。そう!だから、別に何かあるってわけじゃないのよ」
「何も無いって言うときは、だいたい何かあるって決まってる」
「・・・first nameってば、そういうとこホントにまっすぐよね」
ルーナは笑って私の隣に寄りかかった。数秒ほどの沈黙のあと、ぽつりぽつりと話し始める。
「なんとなく・・・目が覚めちゃって。どうしてか分からないけど、無性に寂しくなっちゃったの。だから誰かとお話をしたくて」
胸の前で人差し指同士をつんつんと突き合わせるルーナ。いつも明るく振舞っている彼女とは程遠い、なんて弱々しいのだろう。
私は迷うことなく「少し待って」と声をかけて、一度部屋の中に戻った。スタンはまだ寝ている。声をかけようか三秒ほど考えて、やっぱりやめた。彼なら自分が起きるべき時間にきちんと起きれるだろうから。
上着だけ羽織って外に出ると、私はドアの前で待つ彼女の手を取った。
「ルーナ、私とデートしよう」
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不安。それは唐突に心の中を支配する。ルーナだけじゃない。私だってこの世界で目覚めてから、何度も何度も経験している。理由なんて分からない。ただただ終わりのない不安に襲われる。誰だってそんな時がある。
その度にスタンリーは私の体を抱きしめて、優しく頭を撫でてくれる。たったそれだけのことで、不安はどこかへ消えてしまうのだ。だから私はルーナにも同じことをしてあげた。
「ありがと、first nameってやっぱり大人なのね。もう安心しちゃった」
「そんなことないよ。中身はルーナとぜんぜん変わらない」
「そんなことあるわよ!昨日だって、公共の場でスタンリーと、その、き、キスしちゃって!」
それはその、スタンが迫ってきたから私のせいじゃない。
コーン畑の周りを歩きながら、ルーナとは色々な話をした。時間もそれなりに経過して、向こうの方に起きてきたらしいカルロスたちを見つけた私たち。ルーナがとびきりの笑顔で「ありがとう」と言って彼らの元へ走っていくのを、私は手を振りながら見送った。
いつの間に見つけていたのだろう、別れ際に握らされた小さな一輪の花。どこまでも可愛いらしい女の子だ。