THE STONE WORLD


迷子のクロス

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in San Francisco,CA
サクラメント川中流域、どこかの森のど真ん中。私たちは頼りなさすぎる植物だけを身に着けながら、この非現実的すぎる状況について確認しあっていた。

「さて、この鬱蒼とした森の中に突如として放り出されてしまった我々が、まず一番に手に入れるべきものは何かというと」
「服」
「たばこ」
「ああ、ナマエの言う通り、体の保護を目的とする着衣はとても重要だ。この状況下ではたった一つの傷でも命取りだからね」
「ア、俺の発言なかったことにされた?」

当たり前でしょう、タバコなんかより服が大事に決まってる。

「冗談を言いたくなるのは仕方がない。しかしここにいるのは皆、何千年もの間意識を保ち続けた、強い精神力を持つ猛者たちじゃあないか!わざわざ場を和ませようとしなくても」
「いや、冗談でもねぇ、割とマジで欲しい」
「………。人間が生きていくうえで呼吸の次に一番重要なものは水と食糧だ。よって僕らがまず取り掛かるべきことは、」
「だから、服を作る」
「俺はたばこがなきゃ死ぬ」
「………」

少しの沈黙。

「それはさておき、色々と道具が必要になるな。食糧の収集にも、火を灯すにも……いつまでも手ぶらでいる訳にはいかない。そこでまず作るのは」
「道具といったらまずミシンね」
「火ぃつけんなら、そりゃマッチとか――」

ゼノの頭がギュンと回って私たちを睨んだ。

「君たち。人の話を遮るという行為はエレガントではないと僕は思うのだが」

ついにゼノがキレた。
ごめんなさい、少しわざと。でもこっちの男に関してはたぶん絶対わざと。



何千年か前のあの日。

あの日、私は仕事を通してかねてより交流のあったライト家の一人娘・ルーナお嬢と、仲良くお話をしていたところだった。カルロスが彼女の誕生日に用意したというプラチナの指輪に勝手に見とれていたら、いつの間にか体が固まっていたのだ。
意識が途切れる寸前、どこかから誰かの声が聞こえたような気がするが、当時のことを忘れてしまうくらいには長い長い時間が経過して・・・そして今に至る。

暗闇の中で私は好きなことばかりを考えていた。好きなことがなかったから、私はそのまま暗闇の中だっただろう。こんなに服が好きで良かったと思ったことはない。
そして、こんなにアパレルの仕事をしていて良かったと思うことはない。
世界は服と共に全て滅びてしまったらしいので、今の私たちはほぼ裸と言っても差し支えない。こんなの私の出番でしかない!
だから、その場の空気を読まずに張り切ってゼノに提案してみたら、当たり前のように一蹴された。そしたらスタンリーに肩をひじ掛けにされた。

「ゼノが正しいってこたぁ猿でも分かんよ。タバコは論外だってことも」
「……重いからやめて」
「ああわり。……でも、俺も服は早いうちに欲しいね。あいや、俺はいいけど。まずは女たちをどうにかしてやんねぇと」
「う〜ん、あたしは最低限隠れてたらいいけどねぇ。まあ確かにぃ?服はあるに越したことないっていうかぁ」
「だな。ボクらこんな格好慣れてるわけないし、肌寒いし、なんか一枚あるだけで精神的に落ち着けるってもんさ」

ここにいるのはほぼ男性。片手で数える程しかいないけど、私以外にも女性がいてくれてよかったと心から思う。とても心強い。
だって、初対面の男性にほぼ裸を見られるというのは……なかなか恥ずかしいものだ。それを表に出すのは気が引けて、あたかも全く気にしていないふうを装ってはいるけれど。内心は心臓がバクバクだった。
それを見透かしているのかなんなのか知らないが、やめてと言っても肩から手をどけない男が部下に向かって口を開いた。

「分かんよ、服が無ぇと色んな意味で落ち着かねぇよな。俺も。とりまこいつにヤラシイ目ぇ寄越したらぶち抜くぜ」

ざわつく彼ら。いきなり何言ってるの。
あ、あなたそんな感じのキャラじゃなかったでしょ……?

「そうかい、よく分かったよ。君たちの熱意はしかと受けとった」
「ホント?じゃあタバコタバコ」
「もちろん服が欲しいのは僕も同じだ。理由は先述の通り」
「ゼーノー」
「そしてまた同様に、今は服を優先すべきではない理由も僕はきちんと提示した」

ゼノ、今の彼は親友の声が耳に入ってこないらしかった。額になかなか面白いマークが刻まれたNASAの叡智、兼友人。彼はやれやれとでも言うような顔で私を振り返った。

「さて、Ms.ナマエ。服飾を専門とする君がそれを一番に望む理由も気概も僕には理解できるが」
「は、はい」
「我々はまず以前より少しばかり表情を変えたこの地球上で、たくましくも生きていかなければならない。……これ以上は言わずとも分かってくれるね?」

ゼノを論破することができる人なんて、この世にどのくらいいるのだろう。
でも、彼がいたおかげで私たちは比較的順調に生活することができた。文字通り、生きる活動を。それは我が国が誇る軍人さんたちもいたからで……私はたとえば収集された肉や魚を焼くくらいしか仕事がなく、それからしばらくの間待ちぼうけ。
待って待ってたくさん待って、死ぬほど待ちくたびれた頃に、ようやくお裁縫道具一式を揃えることができたのだった。これもゼノの頭とブロディのお力添えがないと、実現できないことだった。彼らさまさまである。



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