+おまけ
「実にエレガント!ようやく心を通わせられたようで、友人の僕としても一安心だ」
実は物陰からずっと様子を見守られていたことには気づいていた。気づいていたが、いつまでも気づかないフリをしていたら、あろうことか邪魔された。
彼女が俺のキスを嫌がらないことに心の底から幸せを噛み締めていたのに。もっとずっと抱きしめていたかったのに、ゼノが現れた瞬間に彼女に突き飛ばされた。くそったれ。
「やあ、邪魔をしてすまないね」
「すまないねで済むかよ」
デコピンした。
「い、痛いじゃあないか!なにもそこまでしなくても!」
「いや、あんたにデコピンすんのは前々から決めてたことだかんな」
「なに?僕に何か恨みが……?」
「ねぇよそんなん」
額を押さえる幼なじみと、そのままどこかへ退散しようとする彼女。恋人……になれたのかは分からねぇが、少なくとも俺はもうほとんど恋人だと思っている彼女の肩を掴んで連れ戻した。
「ゼノ、昨日は助かった。昨日ってか今日だけど」
「……僕の額を痛めつけておいて、なにをそんなにも白々しく」
「わりって。んな顔すんなよ」
今の心情じゃ何もかもが笑いのタネになる。緩みきった顔で笑っていたら、逆に移されてしまったようでゼノも笑い始めた。
「君のその顔を見る限り、ナマエからも伝えたいことは伝えられたようだね。二人は晴れて恋人同士というわけだ!」
「…………え、恋人?」
ゼノの言葉に、一歩身を引く彼女。その行動は割と傷つくけど、満更でもない顔をしているから心臓を撃ち抜かれた。
「そうそう、もう俺らくっついたから」
「えっ」
「ふふ、彼女は驚いているようだが?」
「知らねぇよ、くっついたもんはくっついたんだよ。城が完成したら是非同じ部屋にしてくんね」
「えっ、誰があなたと同じ部屋になるの」
あんたしかいねぇじゃん。口で言う代わり、肩に手を回して再びキスを迫る俺。だが手で押しのけられてしまいそれは叶わなかった。でも彼女の手の平にキスすることはできた。
「離れて!」
「やだ。一生離してやんねぇ」
「ははは。仲が良さそうでなによりだ。それより、ナマエ」
「な、なに?」
「思いのほか時間がかかってしまったが……ご所望の品にようやく手をつけることができた。完成したから取りに来て欲しい」
「う、うん、わかった。その前にこの人を私から剥がしてくれると嬉しい」
ゼノはいい笑顔で「それは不可能だ」と言い切った。よく言った!俺のことはなんでも分かってんだろうな。
「今度は何作ったんよ」
「ドレーピング用のトルソーだ」
「へぇ、ああ、昔そんなことやったっけ」
「スタンも覚えているかい?そうそう、ナマエから話を聞いた時、君を代わりのボディにしようかという話をしたよ」
「それ!ゼノが勝手に言ったことじゃない。そんなの私は全く賛同してないから」
ドレーピング。俺の記憶違いじゃなきゃ、トルソーにデカめの針をぶすぶす刺して、仮の布を固定するやつ。それに俺が?
「べつにいいけど?」
「は?」
「あんたの棘、嫌いじゃねぇから。遠慮なく刺していい」
「……いつまでそんなこと言ってるの」
真剣な顔で睨まれた。だから、俺は別にマゾなんかじゃなくて、あんたの苦労は一緒に背負っていきたいって話。
「割と必需品だろ?それ、服作る人にとっては。だからずっとそばに置いといて。それが目的」
「……」
「せっかくこの世界になって、一緒にいれる時間が段違いに増えてんだ。俺は朝から晩までナマエのそばにいたい」
そばにいるだけじゃなくて、抱き締めたいしキスもしたいし、正直に言ってめちゃくちゃに抱きたい。
そうそう、俺は一個企んでることがあんだけど。もしかしたらの話だが、めちゃくちゃに抱いてる時はさすがの彼女でも本性をさらけ出してくれるんじゃないかってこと。
俺はいつも想像で抜いてたが、彼女はどうやら想像を嫌っているみたいだかんな、そろそろ本物を抱きたい。切実に。
「ばかじゃないの」
心を読まれたかと思ったが、そういうわけではなかった。そばにいたいという俺の発言に対する、照れ隠し。
彼女の顔が真っ赤だから、今の棘は全然痛くない。分かりやす過ぎる照れ隠しだ。
「仕事、サボる気?」
「それはちゃんとこなした上でだ。ったり前じゃん」
「……私は、もうほとんど縫えてるから、いいけど」
「……え?」
急に小声で話し始めるから、少し背をかがめて耳を澄ました。
「そんなに私といたいんなら……いてあげなくもない、けど……」
ツンデレの代表みたいなこと言ってる。
「ナマエ、勃った」
「はあ!?ふざけないで!最低!どっか行って!気持ち悪い!」
マシンガントークをぶつけられながら、顔面をぐーで殴られた。全然痛くない。
でも可愛さに悶えていたら、次の瞬間には彼女は俺の前から姿を消していた。一目散に逃げたらしい。俺と共に取り残されたゼノに、超分かりやすく引かれた。
「スタン、さすがに今のは……」
「うっせー、俺が正直者ってだけだ」
それはそうと、ちょっくら抜いてこよ。すこぶる気分がいい。少し前までは考えられないくらい、爽快な気分だ。