01 写真に

昔話をしよう。



あれは高校生の時だっただろうか。運悪くなにかの事件に巻き込まれ人質となってしまい、最終的に追い込まれた犯人に撃たれたことがあった。どんな事件だったかは何度思い出そうとしても思い出せないのだが、焦る警官達の声や発砲音は今でも思い出せる。鈍い痛みが腕に1回、腹に3回、足に2回。ああそうだ、6で止んだ銃撃にあの拳銃はリボルバーなのかなあなんて呑気に考えていたんだ。


6発の銃弾を受けながらも、生まれながらの"性質"ゆえに平然と立ち続ける私を見て、犯人が腰を抜かした。ガシャンとその手から拳銃が離れ、けれど警官が動く気配はなかった。いやきっと目前に広がるありえない光景のせいで動けないのだろう。そちらを見ていないので本当のところは不明だが。

静かに見下ろした犯人の目には、恐怖と絶望が写っていた。なんで、どうしてとその目は語っていた。そんなの私が知りたい、と呟いた言葉をどう捉えたのかは知らないが突然犯人が叫んだ。バケモノ。その瞬間、唐突に、そうか私はバケモノだったのかと納得した。バケモノ、すなわち、人ならざるもの。

糸が切れたようにどっと押し寄せてきた警官

カタカタと小さく震えながら捕らえられた犯人

その場にいる全員から理解不能という顔で見られる自分

腹に穴は開いた、血も大量に流れ出ている、なのに表情1つ変えない私は、当時の警官達にどう映っただろうか。生まれた時から定められた務めの為長く生きられるようにと、他の人より遥かに死にづらいつくりをした自分は。


病院では困惑顔の医師に治療をしてもらい、入院も必要ないとの診断を受けた。家まで送ると言ってくれた警官達を「こんなバケモノとは一緒に居たくないでしょう」の一言で切り捨て、夕焼けに照らされながら帰路についた。手足に巻かれた包帯が人目につくのを避けるため、大通りから一本入った道を進む。暫く歩いたところで、時間帯的に考えてもあまりに人通りの少ないその道に違和感を覚え、立ち止まった。

何かがある。

いや、


何かがいる。


点いたばかりだというのに今にも事切れそうな街灯の下、広がりつつある闇から溶け出してきたかのように、突如黒スーツの集団が現れた。人数は奇しくも6。全員が白い布で顔を覆っている。

「初めまして」

一番手前の白布は男だった。声質からして年齢は50代。踵を揃え片腕を背に回すその独特な立ち姿からは洗練された雰囲気を感じる、格調高い所での給仕経験があるのだろう。敵意は全く感じられないが、隙もない。今まで会ったことのないタイプだった。背後で犬の唸り声が聞こえるが、襲いかからないところを見るに、男から直接危害を加えられることはないのだろう。

「我々は■■■■■■■■■■、■■■と申します。先代■■の指示のもと、貴女様をお迎えにあがりました」

恭しくお辞儀したその人に倣うよう、後ろの人たちも静かに頭を垂れる。発せられた言の葉達は全くもって聞き覚えがないものばかりで−

いや、違う。

遠い過去、一度だけ、でも、何処で


『おまえは私の後を継ぐ。これは定めなんだよ』


遡った記憶の先で、最近は滅多に聞くことがなくなった声が蘇る。そうだ、曽祖父だ。幼い自分に聞かされた内容を思い出しながら、男の放ったその名を理解していく。

「ある程度は思い出したよ。で、先代様の指示なんだっけ?その道のプロ達から見ても、私はそんなに厄介ってこと?」

どこか喧嘩腰の返答に頭をあげた白布の男は、よく似てらっしゃると言って嫌味じゃない程度に笑い声をあげた。まあ許してほしい。事あるごとに食ってかかってきた曽祖父が、私は嫌いなのだから。

「真逆そんなことはありませんよ。貴女はこの国に求められて生まれた者、我々になくてはならない存在。それに、先代様の指示でなくとも近々お目にかかるつもりでした」


「我々は本来、貴女の為に作られたのですから」


日付が変わる頃、曽祖父が108歳の大往生を遂げたと連絡が入った。最後のための写真に写る彼の人は、やはり私がよく知る仏頂面だった。