迎えた9月1日。
アザミはボスとともにキングスクロス駅、9と3/4番線にやって来た。
「くれぐれも、スパイであることを生徒に気づかれないように。君がスパイだと知っているのは、ダンブルドアだけだからな。」
「もちろんです。ボス。」
拳を突き合わせ、「健闘を祈る」と言った後、ボスは姿を消した。忙しいので、発車まで一緒にいてくれるわけではないのだ。
早速、ホグワーツ急行へと乗り込む。
席はどこでもいいが、前方のコンパートメントを選んだ。
荷物を棚に置いたあと、アザミは窓の外をぼんやりと眺める。家族の微笑み合いや抱き合いを見ると何となく胸が冷えるのはなぜだろうか。
しばらくして、コンパートメントの戸が開いた。
「えーっと、相席してもいいかい?」
茶色い髪に、黄緑色の瞳。快活そうな男子が顔をのぞかせた。
「どうぞ。」
特に断る理由はないので、アザミは承諾する。
「いいってさ。リーズ、座ろう。」
男子はそう言うと、妹と思われる女子と共にコンパートメントに入った。
棚に荷物を置くと、ニッコリと笑って自己紹介を始める。
「はじめまして。僕はジェラルド・ソニエール。グリフィンドール寮の3年生だ。で、妹のリーズ。今年入学なんだ。」
リーズ、と紹介された子はハニカミながら「リーズ・ソニエールです。」と言う。どうやら、人見知りをするらしい。同い年なのに可愛らしく思ってしまうのは、精神が実年齢より老いているからなのだろうか。
「はじめまして、アザミ・クラウン、新入生です。よろしくお願いします。」
アザミも微笑んで言う。
「よかったな、リーズ。同い年だって。あ、堅苦しいから敬語なんて使わなくていいよ。僕のこともジェラルドって呼んで。」
ジェラルドは言った。なるほど、快活で朗らかで、グリフィンドールの赤がよく似合う。
「じゃあ、私のこともアザミって呼んで。」
アザミも言う。アザミがスリザリンに入ることは確定事項だ。今のうちにグリフィンドール寮の人間は取り込んで置くべきである。
「可愛いリボンだね、リーズ。似合ってる。」
アザミはリーズが結んでいるリボンを見て言った。ジェラルドと同じ茶色い髪と黄緑色の瞳に、緑色のリボンが調和している。
「え、あ、ありがとう。私、緑色が好きで、このリボン、今日出したばっかなの。」
ハニカミながら言うリーズは可愛らしい。この子はどの寮になるのだろうか。
しばらく話していると、再びコンパートメントの戸が開いた。
「あ、ジェラルド。ねぇ、ここ相席していい?待ち合わせた友達が見当たらなくてさ。」
「僕たちはいいよ。アザミ、いいかな?」
「うん。」
アザミは頷く。
「じゃあ、お邪魔するよ。キャシーはどうする?」
「一緒に座る。」
快活な声が聞こえたと思ったら、イーサンと呼ばれた男子の後ろから、大きな茶色い目が人目をひく子が顔をのぞかせた。
「僕はイーサン・フィッツロイ。ハッフルパフ寮の3年生なんだ。イーサンって呼んで。」
黒髪に明るい茶色の目をした男子は言った。
「キャサリン・フィッツロイ。キャシーって呼んで。」
薄い茶色の髪に茶色い目をした少女は言った。
「キャシーは僕の従姉妹なんだ。僕の父さんの弟の娘だから、苗字は同じだよ。」
イーサンは言った。
「へぇ。この子、僕の妹のリーズ。」
ジェラルドが言った。
「ああ、今年入学って言ってたね。」
イーサンはよろしくと言って手を差し出す。
「こちらこそ。あ、キャシーも。」
リーズも手を出し、握手をする。
「イーサンとジェラルドは仲がいいんですね。あ、申し遅れました。アザミ・クラウンです。」
「アザミか。よろしく。」
「よろしくね。アザミ。」
アザミもイーサンやキャシーと握手する。
「僕とジェラルドは薬草学の授業でペアになってから仲良くなったんだ。グリフィンドールとハッフルパフは薬草学が合同なんだよ。今年もそうかはわからないけど。」
イーサンが言った。
「私は何寮になるのかな。まぁ、どこでもいいけど堅苦しいのはヤダなぁ……。イーサンがいるから、ハッフルパフには知り合いが多いけど。」
キャシーが言った。
「まぁまぁ。うまく決めてもらえるって。」
イーサンが言う。穏やかで優しげな雰囲気はハッフルパフに相応しい。
話をしている間に汽車は動き出し、すぐに昼食の時間となる。
「イーサン、車内販売何か買う?」
「カエルチョコとか買っておけばいいんじゃない?別にカード集めてないけど。」
「私は、集めてるんだけどなぁ。」
キャシーが言う。
「かぼちゃジュース飲みたいんだけど、いいかなぁ?」
リーズがジェラルドに聞く。
「わかったわかった、買ってやる。アザミは?」
「かぼちゃパイを買おうかなぁと。お昼ご飯は買ってくれって言われて。」
アザミは言った。
その後、皆で昼食をシェアし合う。
「さすが、ジェラルドの家の料理は美味いな。さすがフランス。」
イーサンが言う。聞いてみれば、ソニエール家はフランスから移り住んだ家系らしい。
「そうか?まぁ、確かに家の飯は美味いな。クッキーもあるからおやつに食べよう。」
ジェラルドが言う。
ちょうど昼食を食べ終わった頃、コンパートメントの戸が開いた。
「おー!」
「ジェラルド」
「「ここにいたんだ!」」
息ぴったりでほとんど見分けがつかない赤毛の男子が顔をのぞかせた。
「フレッド!ジョージ!久しぶり。イーサンもいるよ。」
ジェラルドは応じた。
「おー、ほんとだ。ん?一緒に座ってるのは前に言ってた妹?」
「そうそう、リーズ。イーサンの隣に座ってるのはイーサンの従姉妹のキャシー。奥に座ってるのはアザミだよ。」
ジェラルドが紹介する。
「僕はフレッド・ウィーズリー。」
「僕はジョージ・ウィーズリー。」
「「ホグワーツでは有名な双子さ!」」
「自分で言うなよ……。」
赤毛の双子は言った。ジェラルドのツッコミが入る。
「で、ジェラルドたち。いつ着替えるの?妹ちゃんたちと着替えるのは流石にやばくない?」
おそらくジョージと名乗った側の男子が言った。
「あー、それもそうだな。アザミなんて今日会ったばっかだし。」
ジェラルドが言う。
(え、ここで着替える予定だったの……?)
アザミは苦笑いだ。
「僕たち、これから着替えるけど、こっちのコンパートメントに来ない?どうせ荷物は置きっぱにするんだし。」
次はフレッドと名乗った方の男子が言った。
「じゃあ、お邪魔するよ。イーサンも行くよな?」
「もちろんだよ。」
イーサンも頷く。
「あー、そこの妹ちゃんたちも早めに着替えておけよ?着替え損ねたら面倒だから。」
「ネクタイはちゃんと結べよ?曲がってると不恰好だからな?」
そう言って、赤毛の双子はジェラルドとイーサンを連れて、コンパートメントから退出した。
「リーズはあの人たち知ってる?」
着替えながらアザミは聞いた。
「うん。ホグワーツの2代目悪戯仕掛け人って名乗って悪戯する有名な双子だよ。ウィーズリー家自体結構有名だし。たくさん兄弟がいてさ。あの双子の弟も今年入学じゃなかったかな。」
リーズは言った。
「私も聞いたことある。父さんが言うには、1代目悪戯仕掛け人は結構なことをしてたみたい。でも、イーサンが言うにはあの双子は悪質な悪戯はしないみたい。面白い双子だって。」
キャシーも言った。
「ふーん。私はM国から来たから、あんまりイギリスには詳しくないのよね。有名なんだ、ウィーズリー家。」
アザミは言った。
「うん。ホグワーツではね。皆なんか優秀だって言ってた。」
リーズは言った。
「それより今年はハリー・ポッターでしょ。どんな子かなぁ?」
キャシーは言った。
「ああ、生き残った男の子だっけ?」
アザミは相槌を打つ。
「そう。例のあの人を打ち破るなんて、すごいよねぇ。」
とキャシー。
「まぁ、ずっと新聞で取り上げられてたもんね。」
とリーズ。
「ああ、何寮に入るのかな?同じ寮だったら話す機会があるかな?」
とキャシー。
「本当に、組み分けだけが今の心配かなぁ。」
リーズは言った。
「まぁね。あとルームメイトのことも心配しなくちゃ。いい子だったら良いなぁ。」
キャシーは言った。
(この2人は同じ寮になれそうにないわね……。)
その予想が外れるとは、全く知らないアザミなのだった。