2.組み分け

ホグワーツ急行はホグワーツの最寄駅、ホグズミード駅に到着した。

急行から降りると、涼しいひんやりとした夕方の風が吹き抜ける。

「あ、じゃあ僕たちはこっちだから。ハグリッドっていう大男について行けばいいよ。じゃあね。」
ジェラルドとイーサンはそう言って、先ほどの双子とともに別方向へ歩いて行った。

「イッチ(一)年生、イッチ年生はこっち!」
大きな声が聞こえ、振り向くと大男がランタンを持って立っていた。あれが、ジェラルドの言っていたハグリッドだろう。

ハグリッドは全員揃ったのを確認して、鬱蒼とした森の小道を歩き始めた。

暗い森を抜けると、湖のほとりに出た。

「「ワァー!」」
「「オオー!!」」
ホグワーツ城が見え、歓声が上がる。

その後、魔法で動く小舟にのり、ホグワーツの船着場へ着いた。

少し歩いて、ハグリッドが大きな樫の木の扉を開けると、厳格そうな魔女が出てきた。

(ミネルバ・マクゴナガル。世界で7人しかいないアニメーガスの1人。)
アザミは尊敬の目でマクゴナガルを見た。話し方も動きもキビキビとしていて、まさに教師、といった感じだ。

「身なりを整えておきなさい。」
新入生を大広間脇の小部屋に案内した後少し演説して、マクゴナガルは部屋から出て行った。

「ネクタイ曲がってない?」
キャシーがキュイキュイとネクタイを締めながら言う。

「リボンほどけてないよね?」
リーズも髪のリボンを気にしている。

「大丈夫、だと思う。私は?」
アザミも2人に確認を取る。

「アザミも大丈夫。って後ろ!」
キャシーが小さく悲鳴をあげた。
リーズも驚いている。

壁からゴーストが出てきたのだ。

「ああ、ゴーストか……。」
アザミからすればそこまで驚くべきものではなく、軽くゴーストに手を振った。

「落ち着いてるね、アザミ。私もジェラルドからゴーストがいるってことは聞いてはいたんだけど、見たのは初めてよ。キャシーは知らなかったの?」
リーズは言った。

「知ってたけど、あんなに一気に出てきたら驚くわよ。……意外とビビリなんだ、私。」
キャシーは言った。

「皆さん、今から大広間に行きますよ。」
帰ってきたマクゴナガル先生が言った。

大広間に行くと、幻想的な光景が広がっていた。
星空のような天井、無数の浮かぶろうそく。

(U校の入学式もこんな感じだったなぁ。天井は星空じゃなくて夕暮れだったけど。時間的な問題かな。)
そんな感想を持ちながら、それでもホグワーツの装飾に圧倒されながら、アザミは大広間を見渡した。

そして、ターゲットを見つける。

(セブルス・スネイプ……。あの無表情の蝙蝠か。)
気づかれない程度に観察し、ダンブルドアの方に目を向ける。
アザミの視線に気がついたらしく、ニッコリと笑った。

(変な気を起こすでないぞ。)
ダンブルドアは顔では笑っているが、目は真剣でアザミにそう訴えかける。

(わかっています。任務に含まれないことをする気はありませんし、まず面倒なので。)
アザミも目で返した。

おそらく、ボスがダンブルドアにスパイが潜入することを伝えたのは、ダンブルドアが国際魔法使い連盟の会員でいずれ情報が回ることや、ダンブルドアの持つ能力の高さでスパイの存在がバレること以上に、アザミが復讐に動くのを防ぐためなのだろう。

(なんか、信頼されてないなぁ……。復讐なんて無益で面倒なことはしないって言ってるのに。)
アザミはこっそりとため息をついた。

組み分け帽子の歌が終わり、組み分けが始まる。

「アボット・ハンナ」
「ハッフルパフ!」
「ボーンス・スーザン」
「ハッフルパフ!」
「ブート・テリー」
「レイブンクロー!」
「ブロックルハーネスト・マンディ」
「レイブンクロー!」
「ブラウン・ラベンダー」
「グリフィンドール!」
「ブルストロード・ミリセント」
「スリザリン!」

そして……。

「クラウン・アザミ」
アザミの名前が呼ばれた。歩きながら視界の端でスネイプを見るが、全く気がついている様子はない。ファミリーネームの綴りが違うから仕方がないし、気づかれたら困るのだが。

「ほう。君が、あの……。」
帽子が言った。
「ええ、そうよ。校長から聞いているのでしょう?」
アザミは言った。
「うむ。わかっておる。もちろん君は……。」
少しためて、帽子は叫んだ。
「スリザリン!」

スリザリンテーブルから歓迎の拍手が溢れる。端の方にアザミは座った。
あとは組み分けが終わるのを待つだけだ。

「フィッツロイ・キャサリン」
キャシーが呼ばれたのを聞いて、アザミは組み分けに目をやる。

帽子は少し悩んで言った。

「スリザリン!」

アザミは驚きつつ、拍手した。が、スリザリンテーブルからの拍手は少数だ。イーサンの従姉妹であることを知っている人なら、キャシーが純血でないことも知っているのだろう。

「キャシー!?同じ寮になれて嬉しいわ!でも、どうして?」
アザミは隣に座ったキャシーに聞いた。

「なんか、慎重な性格がスリザリンに向いてるって。まぁ、確かに私もちゃっかりしてるところがあるから……。でも、不安だなぁ。」
キャシーは言った。

「スリザリン寮、他に誰が来るのかな……。」
キャシーはそう言って食い入るように組み分けを見つめている。

「マルフォイ・ドラコ」
「スリザリン!」
スリザリンに即決された生徒は監督生の近くに座った。どうやら力のある家らしい。

「やっぱマルフォイはくるよねぇ。」
キャシーが小さく呻く。

「嫌なの?」

「うーん。子のことはよく知らないけど、彼の父親が確かホグワーツの理事よ。あんまり家的にいい噂がないの。」
私みたいに純血じゃない人をバカにするわ、キャシーは言った。

「ポッター・ハリー」

ハリー・ポッターが呼ばれた。食い入るように周りは見つめている。

(彼がハリーか。できればパイプを作りたいけど……無理ね。スリザリンは嫌って連呼してる。)
ハリーの唇の動きを読み取って、アザミはため息をついた。

「グリフィンドール!」
帽子はハリー・ポッターの寮を叫んだ。
(脈がないわね……。)
アザミはもう一度ため息をついたのだった。

「ソニエール・リーズ」
マクゴナガルがリーズの名前を呼んだ。

「リーズはどの寮かな。」
「わかんないなぁ。」
キャシーとアザミは心配そうにリーズを見る。

「……スリザリン!」
帽子は叫んだ。

キャシーの時よりもさらに拍手が少ない。熱心に拍手するのはアザミとキャシーくらいだ。

「リーズもスリザリン!?同じ寮で嬉しいわ!」
キャシーが向かいに座ったリーズに微笑みかける。

「うん。私も、2人と一緒になれたのは嬉しいよ。でも……ジェラルドと離れちゃったな。」
ジェラルドがグリフィンドールだから絶対歓迎されてないし、とリーズは悲しそうに言った。

「……同じ部屋になれたらいいね。」
アザミは言った。

「そうだね。そうなればなんとかやっていけそう。」
リーズはやっと少しだけ笑った。

最後の生徒、ザビニ・ブレーズがスリザリンに組み分けされ、組み分けは幕を閉じたのだった。