「で、今の話は愚痴なの?それともノロケ話?」
昼休みの教室で、真緒の話を黙って聞いていた沙雪が、辟易したように口を開いた。
「ええっ!どっちでもないんだけど……?」
真緒が心底驚いた顔で沙雪を見る。
「ふーん。まあ、どっちでもいいけど」
「よくない!私が言いたかったのは――」
「チャリ部のイベントで荒北くんが他の女の子と仲良くしちゃイヤ!でも彼はそんなことしないって言ってるから信じる。だって、私たちラブラブだもん、てことでしょ?」
と、真緒の言葉を遮るように、わざとからかうような口調で沙雪がニヤリと笑う。
「もうッ!そんなこと言ってないのに」
「そぉ?私にはそう聞こえたんだけど」
「さっちんの意地悪……」
「冗談よ。あんたがあんまり荒北荒北言うからつい、ね」
機嫌直してよ、と沙雪が真緒のおでこを人差し指で小突く。
「しょーがないなぁ。でも、冗談じゃなくて本気で心配なの」
「荒北なら大丈夫じゃない?」
「だって、荒北くんカッコいいし?本当はすっごく優しいし。ロード教えてもらったら絶対みんな好きになっちゃうよね……」
「……」
どーしよう、と本気で悩む真緒を呆れたような目で見ながら、沙雪は、そんなこと絶対ないから安心しな、という一言を心の中で呟いた。
「それより、写真部の例の企画通ったわよ」
飲み終えた野菜ジュースのパックを畳ながら、沙雪が切り出した。
「写真部の企画って……ミスコンだっけ?」
「そう。内容が内容なだけに先生の許可取るの時間かかっちゃった」
本っ当ギリギリ、と沙雪が苦笑する。
「でも良かったね。無事に通って」
「まぁね。あたし的には“ミスター&ミスハコガク”っていうダサい名前が不本意なんだけど」
シブセンがわかりやすいのにしないとダメだって言うからさぁ、と沙雪が口をとがらせる。
「ミスターってことは男子もあるんだ?」
もしかして荒北くんも選ばれちゃったりするの、と真緒がはっとした顔で沙雪に尋ねる。
「それはないから大丈夫。自薦か他薦でエントリー制だから」
「そうなんだ」
「そうそう、自薦って言えば、東堂がさぁ」
「東堂くんて、自転車部の?」
「昨日いきなり出場辞退するって言ってきてさ。エントリーもしてないのによ?」
「ええっ!なんで?」
東堂君好きそうなのに、と真緒が首を傾げる。
「ファンクラブの子達から嘆願書がきたんだってさ」
「嘆願書……すごいね」
「ま、仮にミスターに選ばれたら、ミス・ハコガクの子とツーショット記念写真だし」
ファンの子が嫌がるのもわかるけどね、と沙雪が苦笑する。
「えっ……それは嫌かも」
仮に荒北がその立場になったことを想像してしまい、真緒が全力で同意する。
「なーんて、それは口実で、案外新開に負けるのがイヤとかね?」
「新開君も出るんだ?」
「あいつは写真部の推薦で勝手にエントリーさせてもらったのよ」
やっぱ目玉がないと盛り上がんないでしょ、と沙雪が口角を上げる。
「そっか。何か一大イベントになりそうだね」
さっちんがんばって、と真緒が楽しそうに笑う。
「あ。言い忘れてたけど、あんたもだからね」
意味深な笑みを浮かべた沙雪が、真緒の鼻先を指さす。
「私?」
ぽかんとした顔で、真緒が反射的に自分を指さす。
「女子部門の写真部推薦エントリー」
「ええッ……!?」
驚愕のあまり、一際大きくなった真緒の声が、教室に響いた。
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