11
モノズが目を覚ましたのはポケセンへ運び込んで三日目の夜だった。
自然の草木の匂いではなく、人工的な薬品の匂いやかぎ慣れないポケモンのにおいに戸惑ったようだ。
「タブンネ!」
「ッ!」
癒しの波動を当てていたタブンネが話し掛けるが警戒しているようだ。
そりゃあそうだろう。
正式にゲットしていない、未だ野生の状態のポケモンが突然見知らぬポケモンが傍にいれば警戒しない方がおかしい。
「タブンネ、ジョーイさんにモノズが目を覚ましたって伝えてもらいに行ってもいい?」
「タブンネ!」
頷いてぽてぽてと歩いていったタブンネの姿が自動ドアにさえぎられて消えたのを確認するとスイクンの入っているボールを出した。
「スイクン、宜しく」
『ああ』
一番知性的だし説明の上手いスイクンがモノズに伝える。
だがモノズは反論しているようだし、これは人に慣れさせるには難しいかと思っていたがスイクンと一通り言葉を交わし終えるとスイクンが結果を口にする。
『こいつはもともとはチャンピオンロードに生息していたがトレーナーに捕獲されたらしい。
いつまで経っても進化しないという理由で捨てられ、見慣れないうえ土地勘もない場所で食料を求めて動き回っているうちに意識を失ったようだ。
人間は好かんようだが、助けてもらった恩くらいは返すと言っているが、どうする』
「なんとまあ義理堅いね。
まあ、手っ取り早く仲間になって貰えたら凄く助かる。
私のところは今人手……ポケモンの手不足だからね。
それに、私には目標があるの。その為なら、君が強くなって協力してくれるっていうんなら私は助力は惜しまないし、進化するっていうんならビシバシ鍛える。
私は君の力が必要だし、君は野生一匹で過ごすよりも効率良く強くなれる。
良いギブアンドテイクじゃあないか」
長々と説明するとモノズは目の見えない頭をこちらに向けて暫くじっと見つめていた。
それを見てもう大丈夫だと思ったのか、スイクンは早々にボールの中へと戻っていった。
そのタイミング良くジョーイさんとタブンネが戻ってくると、胃が吃驚しないようにときのみジュースを持ってきてくれていた。
それをモノズに飲ませると、ジョーイさんは私に問う。
「エニシさん、モノズはベテランのトレーナーでも手を焼く種族です。
そぼうポケモンと呼ばれる程、扱い辛いですし、特に進化するにつれてそれは顕著に出てきます。
その為、中途半端に手放すトレーナーも多いポケモンとも言えるんです」
「大丈夫。
この子、ちゃんと解ってるみたいですし」
そう言ってモノズの黒い毛を撫でる。
それを黙って受け入れてうりうりと撫でくり回されているモノズの姿を見てジョーイさんは驚いたようだ。てっきり手を噛まれると思ったのだろう。
モノズは鼻面を私の腰に押し当てて探るように潜り込ませると、ストック用の空のモンスターボールを見つけ出し、それに自ら開閉ボタンを押して入っていった。
カタ、カタタ、と三回揺れるとカチリと音が鳴る。
「モノズが自分からゲットされるなんて……」
「ということで、この子の正式なトレーナーになりましたので、今日までお世話になりました」
受付で支払をする時、出費の大きさに涙が出そうになったがなんとか留めてポケセンを出た。
新しい仲間が出来たと迷いの森の奥地でスイクン、キュウコン、ゾロアークと対面させる。
なんだか偏った編成だが仕方ない。
出来ればミロカロスとか欲しいけど水タイプはスイクンがいるし、ジョーイさんにモノズの最終進化形は大型のドラゴンタイプだと教えてもらったので空を飛ぶ要員は暫く後になるだろうが問題はない。たぶんカイリューみたいな感じだろうか。
「おし、強くなるぞー!」
一人意気込むように叫ぶと、それに同調してくれるかのようにキュウコンがクオーン!と鳴いた。
それにつられるようにゾロアーク、モノズも遠吠えよろしく吠える。
スイクンだけ相変わらずは静かだが確かに柄でもないことはしなさそうだ。
強くなる為にはバトルが一番!トレーナー相手なら尚更、計画された戦略を駆使し、そのうえ財布も潤う!
「モノズ、お前が今どれくらい強いか確認しておこうか」
丁度野生のゴチミルがいた。
喧嘩を吹っ掛けるようにバトルへ持ち込むと、まずは小手調べにモノズへは攻撃をさせずに避ける指示を出す。
初めてながらもそれを聞いてゴチミルのおうふくビンタを避けるモノズはもともとトレーナーに育てられていたというのもありいう事を聞いてくれていた。
「きあいだめ!」
「ズゥゥッ!」
ドンドンと地面を踏み鳴らしやる気を溜めるモノズへ再びおうふくビンタを仕掛けてくるゴチミルにモノズは指示を待たずに尻尾を振りかぶり叩きつけた。
そりゃないぜと思ったがこれはある意味判断能力が高いと考えることにした。
「一番強い技、やっちゃって!」
「ガァァッ!」
力強く地面を蹴ると、そのままゴチミルへと空中から真っ逆さまに落ちる。
ドガンッ!とものすごい音がしたが、モノズはケロリとしており、ゴチミルは完全に目を回していた。
『ドラゴンダイブだな』
「え、そんな強い技覚えてたの?」
私との初バトルを終え、見事白星で飾った事でフンスと鼻を鳴らすその仕草がかわいくて仕方なかった。
わしゃわしゃと頭を撫で繰り回すと「どんなもんだい」とでもいうように鼻面を押し付けてきた。
これは思っていた以上に優秀で力強い仲間が出来たと嬉しくなり、歓迎も兼ねて美味しいものでも食べに行こうかと考え始めた。