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あれから一ヶ月近く経過して、漸く退院許可が下りた。
十日くらいで大分補助無しでも歩けるようになったが、ポケモンの毒を受けた事で免疫力が落ちている為二次感染的な油断できないと言う事と、途中経過を見るということで十分に安定した事を医者から許可が下りた事で漸く今日退院になったのだ。
きっとこれまでの行いが良かったのだろうと勝手に思う事にした。
それでもまだ暫くは通院生活を続けなくてはいけないらしい。その間の治療費は全額ギアステ負担の為心配はいらないのだが、それでも今までバトルの賞金で生活をしてきた私からすればこの何もしていない一ヶ月超はかなり財布に響いている。
治療費はなかったにしても、それ以外……私用的な物まで負担してもらうわけにはいかないと思いただですら中身の入っていない財布と相談しながらなんとかやってこれたのは奇跡に近い。おかげで退院した頃にはお札は一枚も入っていなかった。本当に、ギリギリセーフだ。

「どうにかして稼がないと……」

一番手っ取り早いのはバトルだが、ここのところずっとバトルをしていないメンバーでトレーナー相手に戦うのは少しばかり気が引けた。
なのでとりあえず手身近な叢で野生のポケモン相手に凝り固まった感覚を戻す事にした。ライモンシティの東にある迷いの森で適当に襲い掛かってきたレパルダスやゴチミル相手にしてみれば、久々の間隔に少しだけ気分が高ぶった。
戦闘狂の気はないつもりだったが、やはり曲がりなりにもトレーナーの端くれになっていたのだと少しだけ自嘲してしまった。

「ちょっと不安だったけどこれなら大丈夫そうだね」

そう言ってスイクンの鼻面を撫でているとふとスイクンが顔を背けた。

『何かいるぞ』

「野生のポケモンじゃなくて?」

ガサ、ガサと音がするから野生のポケモンが飛び出してくるのかと思ったがガサガサと小さな音が響くだけで飛び出してくる様子が見えない。不信に思い、そちらへと向かってみれば、小さな黒い塊が蠢いていた。

『こいつは、モノズだな。
本来こんな場所では生息していないはずだが……相当弱っているな。
大方、トレーナーに捨てられたか、食糧がなくなって移動してきたが力尽きたかのどちらかだろう』

淡々と答えるスイクンに私は【モノズ】と言われた小さなドラゴンの傍にしゃがみ込む。

『見た目に騙されるなよ。そいつは食欲の塊のようなポケモンだ。
下手に手を出せば手を食いちぎられるぞ』

そうは言ってもこんなぐったりしているのに食いちぎる力もなさそうだ。一応用心して後ろから掬い取るように抱え、もと来た道を戻り始める。

『どうするつもりだ』

「ポケセン、連れていくの。
さすがに放置してたら私の夢見が悪くなる」

『……どうなっても知らんぞ』

街が近くなると自らモンスターボールに戻ったスイクンは人目につかないようにするという事は忘れていないが、モノズに対する警戒は解いていないようだ。
私はポケセンに到着すると残りの小銭を全てはたいてモノズをジョーイさんに預けた。
やはり見た目通りかなり衰弱していた様子で、タブンネの診断から一週間以上何も食べていない様子らしい。
モノズという種族自体は結構な大食いらしく、一週間も食料を得られていないというのはかなりの死活問題という事を教えて貰った。
今回はタブンネの癒しの波動と点滴で栄養を与える形で回復を待つことになったが、起きた瞬間に空腹で暴れるかもしれないと注意された。今のところ目を覚ます様子は見えないが、私はジョーイさんにモノズが目を覚ますまで預かって貰えないかと頼むと二つ返事で了承を得た。そしてすぐにポケセンを出ると16番道路から15番道路への道をひた走り続けた。そして片っ端からそこらじゅうにいるトレーナーからバトルという名のカツアゲを行い財布を潤わせる。
モノズの治療費にするんだから有難く思え!とか心の中では叫んでいるがこれも悪用する訳ではなく私からすれば死活問題な財布事情があるのだから非道なんて言わせない。
暴走族やスキンヘッドは正直そこまで金にならないから狙いたいのはR9にいるおぼっちゃまやお嬢様だ。奴らは金を持っている。えげつないとか言うな。
汚い手を使っているわけでもなく、単に売られたバトルを買っただけだ。それが割高というだけで、決してチート技を使っている訳ではないのだから問題ない。
財布が万単位で潤うと、すぐに私はスイクンに頼んで背に乗せてもらいライモンシティのポケセンへと走ってもらう。
これだけあれば大体の事は出来るはずだ。
ポケセンに到着すると私はスイクンをボールへと戻し、中に入ってジョーイさんに声をかける。
まだモノズは目が覚めていないらしい。
私はミックスオレを自動販売機で購入してモノズが寝かされているベッドの傍に椅子を持ってきて座る。
平均的なモノズと比べれば小柄らしいが、濃紺の鬣は最初見た時よりもだいぶ綺麗になっている。
モノズは未だにスヤスヤと眠っている為おとなしいが、目が覚めたら空腹に任せてそこらじゅうを食い荒らす可能性もある。モノズという種族が極端に視力が弱い為、嗅覚と手当たり次第に身近なものを食い荒らす習性を持っているらしく、まずはいつ目が覚めてもいいように食料の準備はしてある。
衰弱したモノズを見ていると、同情、なのだろうか……思うところはある。

「目が覚めたら、どうするか聞いてみようかな」

幸い、スイクンが通訳になってくれる。
身体は小さくても秘めているパワーは大きいものだと何となく直感した。
明日には目が覚めるといいな、と思いながら濃紺の毛並みを一撫でした。
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