- 幻想魔伝 -
14:共同戦線  


四人が乱闘に入っている間にずっと気になっていた。

「何、しているんですか」

「おや、おかしいですねえ。これでも気配は殺していたはずなんですが」

「いくら気配を消した所で、貴方から漂うその死臭までは綺麗には消せてなんかないわ」

街中で会った易者……清一色に対し私は彼らが乱闘している地上から離れた建物の屋上で対していた。

「……別に我は貴女には何の怨みはありませんが……どうせならもっと愉しませてあげた方が宜しいかと思いましてね」

清一色は自らの耳に装着していたピアスを肉ごと千切り取った。
血に濡れたピアスが地面に落ちると、それがただのピアスではなく、妖力制御装置だった事を知る。

「【猪悟能】……貴方に愛を込めて」

その時、下方から一気に妖力が高まるのを肌で感じた。
地響きの様な振動と地鳴りの音にバッとそちらを向けば、その隙に清一色は瞬時に姿を消した。逃げ足ばかりが早い奴だ……。
地鳴りの正体は先程李厘が倒したと思った式神の巨大蟹だった。戦っていた悟空と紅孩児をその鋏で殴り飛ばし再び暴れ始めたのだ。
逃げられた事と言い、再び付け入る隙を与えてしまった事と言い失態だらけだ。

「もう、やってらんないッ」

一人ごちながらも地上で再びあの巨大式神と戦っている彼らに協力しなければいけない事は明白なので普通の人間なら死んでしまうような高さも人間をやめた私(吸血鬼ではない)からすれば重力なんて無視だ。そのうえ隠し持っていた羽衣を広げれば更に重力何処行った。

「紅孩児様!!」

落石から身を庇おうとした女性───確か酒場で出会った女性だ。彼女も紅孩児の刺客だったのかと今更ながら認知した。

「まったく、世話の焼ける敵さんだこと」

落石地点にいる紅孩児を庇おうとする彼女───確か名前は八百鼡さんだったかな───の頭上へ羽衣を広げた。
見た目に反した防御力チートな羽衣は岩などものともせず彼らを落石から守った。

「あ、貴女は───」

「女性に守ってもらう程、貴方はヤワな訳じゃあないでしょう?」

「あ……たり前だ!!
クソッ、悟空、あの式神の動きを止められるか」

「え?」

突然話を振られた悟空はワンテンポ遅れたものの、紅孩児の言わんとしている事を理解しようとしているようだ。

「多少時間さえあれば俺も召喚魔が使える。
アレを倒すには他に手がないだろ。ほんの数秒でいい動きを封じてくれりゃあ一発で決まる。
……ただし巻き込まれるなよ」

「……ん!」

一時休戦の共同戦線を張ることにした彼らは協力してあの式神を倒す事になったらしい。

「私も手伝った方が良いかしら」

「敵同士という自覚がないのかあいつらは」

「おめーもな」

「うるさい死ね」

「オイラも混ざりたーい」

「なら降りろ!!」

李厘はいつの間にやら彼に肩車状態で乗っかっていた。なんだかんだで仲が良さそうだ。
良いから二人に任せておけと言われ、大人しく地上で事の成り行きを見守る。

「……いーからまかせとけよ。お前の兄貴に」

悟空が式神を紅孩児の近くに行かないように離れた場所からその巨体相手に奮戦していた。

「開 六海天屍 輩告我願 此招来」

徐々に高まる妖力に、急激にこのあたりの気温が高くなっているような感覚がした。
その大本とも言えるのは紅孩児が今まさに召喚しようとしている召喚魔の正体なのだろう。
決定打とも言える一撃を、悟空が式神の腹部目がけて如意棒を叩きこんだ。

「……ッ紅孩児!」

「───避けろよ悟空!!
炎獄鬼!!」

現れたのは巨大な炎だった。
炎は式神を消炭にせんとする勢いで燃え上がるが、燃えているのは式神だけで周囲の家は何ともない。炎に包まれ式神は悲鳴を上げもんどり打つが、灼熱の炎がその全てを焼き尽くした。

「すごぉい……」

久々に強大な力の術を見た気がする。

「───やったか?」

「みたいだな」

「!
紅孩児……」

紅孩児は既に撤退準備に入っており、すでに李厘も含めた三人を連れていた。

「今日のところは退かせてもらう。とんだ邪魔が入ったしな」

興が削がれたとでも言うのだろうか。
だが一呼吸の後、紅孩児は再びこちらに視線を向けた。

「……ひとつ詫びておこう。俺は自分の歩んでいる道に疑問を抱いていた。
迷いを持って闘いに挑んだことは貴様らに対して無礼だったと思う。
……だが俺には、善悪で計れない程大事なものがある。
だから次は全てをかけて貴様らを倒す!
自分の為に」

決意を固めたかのような言葉に悟空はニヤリと笑った。

「【倍返し】!まだ足りてないぜぇ?」

「ツケとけよ。すぐ払ってやる」

「さ・ん・ぞーッ!!
今日は楽しかったよー♥
また来るからねー一緒に遊ぼーね♥」

「誰が遊ぶかこのクソガキッ。二度と来んなッ」

「次は土産くらい持って来いよなぁ?」

「そっちこそ茶ァぐらい出せや」

「お怪我の方お大事に」

「はい。皆さんもお元気で。
それと、助けて頂き有難うございました」

八百鼡さんは丁寧にこちらに一礼すると紅孩児らと共に立ち去った。

「【お元気で】───って言われちゃったよ」

「ははっ」

「つくづく、敵らしくない方達でしたねえ」

「だな、やりづらい敵だぜまったく」

「恐らく奴でさえも誰かの駒の一つだろうな。
牛魔王の組成を目論み、この世界に混沌を読んだ【どっかのバカ】は、紅孩児の背後うしろにいる俺達が倒すべき真の敵だ」

それは確かだろう。
もっと自分の為とかだったら自ら迷っていた等言わないだろうし、そもそもこんなまどろっこしい真似をする事自体が面倒なはずだ。
今この場でたらればの事を考えている余裕がないのが事実だが、模試次に会う時は少々ごり押しでも問答をしてみるのもありも知れない。幸い、言葉は通じる相手だし。

「……とにかく、この町を出た方が良いな」

「ああ」

必要物資を手に入れたら出立しようと話がまとまっている間に突如背後の八戒が咳込んだ。

「───ッ、がっかはッ!ゴホ……」

「?
……八戒!!?」

「大丈……夫。
───何でもありませんっ」

明らかに顔色が悪い……そんな状態で言われても信憑性はないのだが、八戒の手に持つ牌が目に止まった瞬間、あの男の姿を思い出した。
清一色───あいつが一体何者なのか……今はまだ解らないが確実に私達にとっての敵と言う事は間違いないだろう。


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