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講堂へと続く渡り廊下を行き交う生徒は、皆ギョッとして丸井を見送った。
なんだあの運んでるケーキの量・・・と引き気味の目で見られて居るが、本人はまるっきり何処吹く風である。
紫希が居ない。
その事に皆が気づいた時、丸井だけは居場所に見当がついた。
心配性だし、大方待機場所で早くもスタンバイしているのだろう。
そしてそれがどこなのかを知ってるのは、本人と仁王を除くと丸井だけ。
『私も紫希ぴょんとこ行くー!』
『良いから大人しくしてろ。私達の為にやってくれてんのに、パアになったらどうするのよ。』
『でもー!』
『ごめんなブンブン君w任せるわw』
付いてきたがる紀伊梨や皆に見送られて、丸井は待機場所である社会科準備室に来た。
扉に手をかけると軽い手応え。
やはり開いている。
そっと中を伺うと、隅の方でちんまり体育座りしている探し人が居た。
「よ!」
「!・・・丸井、君・・・」
後ろ手で扉を閉めると、只でさえ静かな空間が尚更静かになった。
身じろぎした時の衣擦れの音だって聞こえる。
持ってきたフォークが皿にほんの少し当たる時の音も。
こっちを向いた紫希の髪が揺れる時の音も。
「ん。」
「・・・?」
「食ってねえだろい?」
「あ・・・」
差し出した皿の上には、そりゃあもう色とりどりのスイーツ、スイーツ。
紫希だって甘い物が好きだ。
だから普段なら喜んで貰う所なのだが。
「・・・有難うございます、お気持ちは嬉しいんですけど・・・」
「要らねえの?」
「・・・今、食べる気にならなくて。」
今回の作戦に於いて、紫希は別に人前で発表とかそういう事をするわけではない。
だから、今感じている緊張はその類とは別種の物だ。
丸井は紫希の隣に腰を下ろした。
「・・・お前さあ。」
「・・・はい。」
「何が怖いんだ?途中でバレる事?」
「いいえ。」
紫希は首を振った。
「後から怒られる事とか?」
「いいえ。」
「・・・もしかして俺が失敗するかも?とか思ってる?」
紫希は大きく頭を振った。
これを言うと怒られるかもしれない。
でも、自分の気持ちは。
今思っている事は。
「・・・丸井君が、失敗すれば良いのに。そう・・・思ってます。」
丸井は目を真ん丸にした。
「・・・お前、まだそんな、」
「分かってます、分かってますけどいざやれって言われると、怖くて堪らないんです・・・!」
2000人が集まる集会。
滞りなく進むプログラム。
その中に一石を投じる作戦。
確かに紫希は言った。
ビードロズの為ならなんでもやると言った。
でもそれは、自分がやるという事だ。
他人に何かさせる羽目になるなんて、そんな事考えていなかった。
確率は低い。
念の為、用心の為。
大丈夫。
何もない可能性の方が高いから。
仁王も丸井もそう言って紫希を宥めるけれど、全然安心には繋がらない。
「・・・・・・」
隣で再び体育座りする紫希の姿。
言葉にしなくても丸井には分かる。
1人にして。
放っておいて。
何もしないで。
お願いだから、矢面に立たせるのなら自分にして。
「・・・これから俺、不謹慎な事言うな!」
「・・・え?」
思わず紫希が顔を上げると、ニッと笑う丸井が居た。
「なあ、あれ知ってる?テニヌ戦隊、テニレンジャー!って奴!そうだな、小学校?上がりたて?位の頃にやってた、特撮もの。」
「・・・聞いた事は。」
話の流れが全然読めない紫希は、目をパチクリさせるばかりである。
丸井は笑顔のまま話を続ける。
「今はもう終わっててさ。別の戦隊物やってるけど、でも俺的にはテニレンジャーがやっぱ一番かっこいいんだよな。」
「・・・私、あまり知らないですけど、悪者を倒したり?ですか?」
「そうそう!弱きを助けて、強きをくじくってやつ。困ってる人を見つけて、悪い奴を改心させて、それで・・・」
言いかけて丸井はちょっと苦笑した。
忘れて、って言ったのに。
覚えとけと言った仁王は、正しかった。
「・・・それで?」
尋ねてくる紫希の目を、丸井は真っ直ぐ捉えた。
「・・・大事な人を守るんだ。」
仁王に話を聞いた時から、ずっと自分がやりたかった。
嫌なら他の人にと言われた時、そんなの怖くて任せちゃおけないと思った。
その代役の誰かさんとやらは、本当に出来るのかと疑ってしまうばかりだった。
目の前の女の子はこんなに強情で。
すごく頑固で、すごく危なっかしくて。
そして吃驚するくらい怖がりで優しい。
「だから、俺は結構楽しみもあってドキドキしてるんだけど。」
「楽しみ・・・?」
「だって、友達の為に生徒会の目を盗んで秘密の作戦とか、なんかワクワクしねえ?」
「ワクワク・・・」
「そ。しかも振られた役が、ヒロインを守るヒーローだっていうんなら、やるっきゃねえだろい。」
「そ・・・」
そういう問題じゃないんじゃないかとか。
ちょっと軽く考え過ぎじゃないかとか、そもそも自分をヒロインに据える所からして間違ってないかとか、とか、とか。
でも、自信たっぷりにウインクしてみせる丸井を見ていると。
「・・・そういう、ものですか・・・?」
「そ!そーいうもの♪ってわけで、ほい。」
「はい・・・?」
「腹が減っては戦は出来ぬ、だろい?」
「・・・はい。」
お皿に乗ったケーキ。
今は食べられそうな気がした。
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