Large bet 1


講堂へと続く渡り廊下を行き交う生徒は、皆ギョッとして丸井を見送った。
なんだあの運んでるケーキの量・・・と引き気味の目で見られて居るが、本人はまるっきり何処吹く風である。

紫希が居ない。

その事に皆が気づいた時、丸井だけは居場所に見当がついた。
心配性だし、大方待機場所で早くもスタンバイしているのだろう。
そしてそれがどこなのかを知ってるのは、本人と仁王を除くと丸井だけ。

『私も紫希ぴょんとこ行くー!』
『良いから大人しくしてろ。私達の為にやってくれてんのに、パアになったらどうするのよ。』
『でもー!』
『ごめんなブンブン君w任せるわw』

付いてきたがる紀伊梨や皆に見送られて、丸井は待機場所である社会科準備室に来た。

扉に手をかけると軽い手応え。
やはり開いている。

そっと中を伺うと、隅の方でちんまり体育座りしている探し人が居た。

「よ!」
「!・・・丸井、君・・・」

後ろ手で扉を閉めると、只でさえ静かな空間が尚更静かになった。

身じろぎした時の衣擦れの音だって聞こえる。
持ってきたフォークが皿にほんの少し当たる時の音も。

こっちを向いた紫希の髪が揺れる時の音も。

「ん。」
「・・・?」
「食ってねえだろい?」
「あ・・・」

差し出した皿の上には、そりゃあもう色とりどりのスイーツ、スイーツ。

紫希だって甘い物が好きだ。
だから普段なら喜んで貰う所なのだが。

「・・・有難うございます、お気持ちは嬉しいんですけど・・・」
「要らねえの?」
「・・・今、食べる気にならなくて。」

今回の作戦に於いて、紫希は別に人前で発表とかそういう事をするわけではない。
だから、今感じている緊張はその類とは別種の物だ。

丸井は紫希の隣に腰を下ろした。

「・・・お前さあ。」
「・・・はい。」
「何が怖いんだ?途中でバレる事?」
「いいえ。」

紫希は首を振った。

「後から怒られる事とか?」
「いいえ。」

「・・・もしかして俺が失敗するかも?とか思ってる?」

紫希は大きく頭を振った。

これを言うと怒られるかもしれない。
でも、自分の気持ちは。
今思っている事は。

「・・・丸井君が、失敗すれば良いのに。そう・・・思ってます。」

丸井は目を真ん丸にした。

「・・・お前、まだそんな、」
「分かってます、分かってますけどいざやれって言われると、怖くて堪らないんです・・・!」

2000人が集まる集会。
滞りなく進むプログラム。

その中に一石を投じる作戦。

確かに紫希は言った。
ビードロズの為ならなんでもやると言った。

でもそれは、自分がやるという事だ。
他人に何かさせる羽目になるなんて、そんな事考えていなかった。

確率は低い。
念の為、用心の為。
大丈夫。
何もない可能性の方が高いから。

仁王も丸井もそう言って紫希を宥めるけれど、全然安心には繋がらない。

「・・・・・・」

隣で再び体育座りする紫希の姿。

言葉にしなくても丸井には分かる。

1人にして。
放っておいて。
何もしないで。

お願いだから、矢面に立たせるのなら自分にして。

「・・・これから俺、不謹慎な事言うな!」
「・・・え?」

思わず紫希が顔を上げると、ニッと笑う丸井が居た。

「なあ、あれ知ってる?テニヌ戦隊、テニレンジャー!って奴!そうだな、小学校?上がりたて?位の頃にやってた、特撮もの。」
「・・・聞いた事は。」

話の流れが全然読めない紫希は、目をパチクリさせるばかりである。
丸井は笑顔のまま話を続ける。

「今はもう終わっててさ。別の戦隊物やってるけど、でも俺的にはテニレンジャーがやっぱ一番かっこいいんだよな。」
「・・・私、あまり知らないですけど、悪者を倒したり?ですか?」
「そうそう!弱きを助けて、強きをくじくってやつ。困ってる人を見つけて、悪い奴を改心させて、それで・・・」

言いかけて丸井はちょっと苦笑した。

忘れて、って言ったのに。
覚えとけと言った仁王は、正しかった。

「・・・それで?」

尋ねてくる紫希の目を、丸井は真っ直ぐ捉えた。


「・・・大事な人を守るんだ。」


仁王に話を聞いた時から、ずっと自分がやりたかった。
嫌なら他の人にと言われた時、そんなの怖くて任せちゃおけないと思った。
その代役の誰かさんとやらは、本当に出来るのかと疑ってしまうばかりだった。

目の前の女の子はこんなに強情で。
すごく頑固で、すごく危なっかしくて。

そして吃驚するくらい怖がりで優しい。

「だから、俺は結構楽しみもあってドキドキしてるんだけど。」
「楽しみ・・・?」
「だって、友達の為に生徒会の目を盗んで秘密の作戦とか、なんかワクワクしねえ?」
「ワクワク・・・」
「そ。しかも振られた役が、ヒロインを守るヒーローだっていうんなら、やるっきゃねえだろい。」
「そ・・・」

そういう問題じゃないんじゃないかとか。
ちょっと軽く考え過ぎじゃないかとか、そもそも自分をヒロインに据える所からして間違ってないかとか、とか、とか。

でも、自信たっぷりにウインクしてみせる丸井を見ていると。

「・・・そういう、ものですか・・・?」
「そ!そーいうもの♪ってわけで、ほい。」
「はい・・・?」
「腹が減っては戦は出来ぬ、だろい?」
「・・・はい。」

お皿に乗ったケーキ。
今は食べられそうな気がした。
6/6


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]

1年1学期編Topへ
1年夏休み編Topへ


-