First national convention:Speak out
同じ頃。
紫希も可憐も不在となった部屋で、千百合は人知れず目を覚ました。
いやーーーもっとちゃんと言うと、最初から起きていたのだ。眠れなくて。
「・・・・・・・・」
紫希がノートとペンを持って階下に降りて行ったのは知ってる。
可憐もすぐに戻ってこない事を考えると、2人で何事か話しているのであろう事は想像がつく。
棗は男子なので別室を最初からあてがわれているし。
今此処には、紀伊梨と自分。だけ。
「・・・紀伊梨。」
呼びかけても返事はない。
呼吸すらも乱れない。
熟睡しきっていて、すう・・・すう・・・と気分のよさそうな寝息が聞こえてくるばかり。
「・・・・・・・」
無言で起き上がって、隣で眠っている紀伊梨を見下ろす。
うん。可愛い。
心理的にというより、客観的に見て紀伊梨は美少女なのだやっぱり。
今日可憐の話を聞いて、千百合は我が身を振り返った。
何を隠そう。
千百合はこの五十嵐紀伊梨に、結構長い間嫉妬し続けているからだ。
別にこの可愛らしい容姿とか、抜群のスタイルとか、明るさとか音楽の才能とか、誰からも愛されるオーラとか、そんなものが羨ましいんじゃない。
いや、正確に言うとそれが羨ましいと思う時も一時期はあった。
でも今はそうでもない。紀伊梨は紀伊梨で、自分は自分と思えるようになった。
でも、今でも千百合は紀伊梨が紀伊梨として生まれたことが羨ましいと思っている。
生まれる前から幸村と一緒で、家族以外だと誰より幸村と長い時を過ごしている。
4つの時からの付き合いである真田とても、この点を取ると紀伊梨には敵わない。
紀伊梨しか知らない幸村を見つける度に、嫌な感覚を覚える。
知ってて当たり前、みたいな風にしているその態度が腹が立つし、腹が立つと思う自分に誰より腹が立つ。
幸村が紀伊梨を褒めたりしていると辛い。
そもそも真逆な性格をしている以上、紀伊梨が褒められている点というのは9割方自分には当てはまらないと知っている。
家族ぐるみで遊んだりしているとしんどい。
幸村の家族は、自分みたいなのより紀伊梨が息子の彼女になった方が嬉しいんじゃないかとか、そんな事ばっかり考える。
一度も幸村に聞けた事がない。
紀伊梨の事を好きだと思ったことはないか、って。
昔はこんな事思いもしなかった。
好きだったためしがあって当たり前だと思っていた。
単純に見た目の問題を差し引いたとしてもだ。
自分は不愛想だし。つっけんどんだし。可愛げのある女子からほど遠いし。
それでも概ね普通に振る舞えているのは、幸村が片時も千百合の事を忘れないで居てくれるからである。
気持ちを。時間を。
割けられる限り千百合に割いてくれている事を千百合は感じているし、満足しているを通り越してそこまでしてくれなくて良いよ・・・と思うことの方が多い。
ただ、そうして幸村が千百合に色んなものをくれればくれるほど、幸村にだけはこんな気持ちを悟られてはならないという気持ちが強くなる。
可憐から見た網代が何も悪い人間ではないのと同じに、紀伊梨だって幸村だって別に何も悪いことをしているわけではない。
2人とも、千百合を傷つけようなんて思っちゃいない。寧ろ2人とも、2人なりのやり方で千百合を好きでいてくれる。
だから辛い。
この話において、誰より悪いのは恵まれているくせに不満を持っている自分なのだ。
可憐は良いのだ。
立場上ほぼ失恋が確定したようなものなのだから、相手を羨んでも仕方なかろう。
しかし自分は恋人という立場に収まってるくせに、一体これ以上何を疑って何を要求するつもりなのか。
「・・・・・」
もう一度横になって目を瞑った。
幸村は、自分がキスしようとした相手がこんな事考えてるって分かったら、しなくて良かったと思うだろうか。
そう思ったら、目頭が少し痛くなった。
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