Overnight party 1
「・・・と、ノート。よし、荷物はこれで全部だな。」
「行ってくるのかい、蓮二。」
「はい、お祖母様。明日の夕方には戻ってきます。」
「そうかいそうかい、行っておいで。」
「はい。」

そう言うと大きいボストンバッグを持って、振り返る事もなく柳は家を出て行った。
その後ろ姿に祖母がにこにこと手を振って、更にその後ろでは姉が苦笑して弟を見送った。

「せわしないわねえ、今日大会で優勝してきたばっかりだっていうのに。今日のご飯くらい、家で食べたって良いのに。ねえ、お祖母ちゃん?」
「そうだねえ。でも私は、蓮二が神奈川でも楽しそうで良かったよ。」
「・・・ええ、そうね。最近は特に、本当に楽しそう。」

一生懸命何でもない風に振る舞っていたが、東京から神奈川へ引っ越すにあたっての幼馴染との別れが堪えて居たことは、家族皆わかっていた。
かけてやれる言葉もなかった。時間に任せるしかないとも分かっていた。

でも、中学に上がってからは表情が目に見えて変わりだした。
決して多くを語るわけじゃなかったけれど、顔を見ればわかる。家族だから。

柳蓮二は、今をめいいっぱい楽しんでいる。




「さて・・・行くか。」

前日に予め纏めて置いた荷物の最終チェックを済ませたところで、真田の自室の扉が開いた。

「弦一郎。」
「?」
「ほら、これ。あちらのおたくに。」
「ああーーーそうでした。有難うございます。」

そうだ、手土産を忘れてた。
こういう所偶に抜けるのが、辛うじて中学生らしいところというか。

「・・・ふふふっ。」
「・・・何ですか?」
「ううん、お父さん怒ってたなあと思って。こんな日にまで遊びに行くなんて、って。」
「む・・・それは悪いとは思っています。ですがーーー」
「良いのよ、良いの。お母さんは嬉しいわ。偶には家族よりお友達を優先して良いじゃない。だって、それって中学生の特権なんだから。」

母は嬉しくてならないのである。
このお堅い我が子が、こんな風に遊び歩くようになるなんて。

小さい頃は年相応にやんちゃな事もした真田だが、年齢が上がるにつれて段々そういう事も少なくなっていき。
真面目なのは良いことだが、不真面目を楽しむのは学生の間だけ許されている事なのだから、もっとそれを謳歌すればいいのにと思っていたら、中学生に上がってから本当に真田はよく遊ぶようになった。

親としては本当に嬉しい。

「幸村君にもよろしくね。」
「はい!」




「・・・・・・」

桑原は、荷物を前にして無言であった。
後はもう家を出て五十嵐家に向かうだけ。だけだ。

「・・・よ、し。」

ふう、と意を決して息を一つ吐いたら、店のある一階に降りる。
と、丁度食材の新しい段ボールを開けている父が階段の所に居た。

「おう、行ってくるんだな。」
「・・・・・」
「楽しんで・・・どうした?腹でも痛いか?」
「あ、いや・・・その、親父・・・」
「?」
「・・・あの、最近あんまり、ちゃんと手伝い出来てなくて・・・あの!今日が終わったら、明日はちゃんとーーー」
「馬鹿。」

父は微笑んで言った。

「ば、馬鹿ってーーー」
「あのな。今日は優勝したんだろ?合宿に協力してくれた友達に、お礼をするんだろ?そんな日に胸張って遊ばないでどうするつもりだ?」
「・・・・!」
「店の事なんか忘れちまえ。楽しんで来いよ。」
「・・・ああ!」






「じゃあ行ってくるきに。」
「え?こんな時間から何処に?」
「ちょいと散歩にな。」
「そんな大荷物で?」
「大荷物が関係あるんか?」
「まあないけど。」

仁王の会話の相手は姉である。

大荷物と散歩が矛盾しないのは、勿論この姉もイリュージョニストだから。
変装グッズを持ってふらふらすると、そこそこ荷物になる事は知っている。

「親には言うてあるき。」
「ああ、そうなの・・・あ。思い出した、そこの袋。」
「?」
「メモ貼ってあったわよ。用意しておいたから、忘れないであんたに持って行けって。」
「・・・・・・」

流石にこの場合、手土産に悪戯してる。とは、思わないけど。流石に。人間として。親として。

「心配なら、買いなおしたら?建て替えといてあげるわよ。流石にこれに対して悪戯はしないと思うけど。」
「いや、良い。何かあっても死にはせんじゃろ。」
「そう?っていうか、それはそれとして・・・・」
「?」
「・・・いや、良いわ。行ってらっしゃい。」
「おう。」

そう言って出ていく弟を見て、変わったなあ、と姉は思う。

散歩とか言ってたが、友達と遊びに行くのであろう事くらいは荷物とか見ていれば分かる。
問題は、あの手荷物の菓子の量だ。
あれだけあるのなら、多分人数として10人以上居るだろう。

(まさか、雅治が大勢の中に混じるなんてねえ。何だか最近は学校も毎日行ってるみたいだし。)

本人に正面から聞いたらまあそれなりに、程度の事しか言わないだろうが。
それなりどころかかなり楽しんでいる事を察して、姉はくくっと笑った。




「・・・・・・・」

ぶっすーーーーーと書いてあるような顔の妹に、柳生は苦笑した。

「明日の夕方には帰ってくるよ。」
「そういう問題じゃないのよ!もう、テニス部がこんなに忙しいなんて知らないわよ!」

安奈我儘言わないのよ、とキッチンカウンター越しから母親に注意されて、更にぶすくれる妹。
思わずゴルフ部に居れば良かったのに、と零しそうになってしまうが。

でも、ゴルフ部に居る時より兄が断然楽しそうな事も知っている。
だから文句も言いづらい。

でも流石に、もうちょっと家での滞在時間を伸ばしても罰は当たらないじゃない。

と妹が思っていることは知っているし、それもそれで正論なので、柳生はますます苦笑しか出来ないのだが。

「・・・明日は家族で優勝のお祝いするんだからね!」
「ええ。まあとはいっても、私が試合をしたわけではーーー」
「するの!」
「わかったから。」

絶対譲りませんオーラ全開の妹の頭を一撫ですると、柳生はバッグを肩にかけた。





「兄ちゃん!」
「遊んでよー!」
「だーめ。あんた達、甘えるならお父さんにしなさい。」

犬か猫の子でも掴むかのように、ひょいっと弟を抱えてぺいっと夫の方に放り投げる母、直美の姿を見ていると丸井はいつもたくましいなあと思い。母親ながらちょっと怖いとも思い。

「手土産は?」
「ん。」
「充電器と財布も?」
「ある。」
「あんた、人の家で夜に冷蔵庫漁るんじゃないわよ?」
「しねえよ!」

いくら何でも流石にそれはない。もし腹が減ったら、多分家を抜け出してコンビニ行って戻ってくる。

「って、そうだった忘れてた!冷蔵庫の中のやつ。」
「え?何か入れておいたの?しょうがないわねえ、ちょっと待ってなさいよ。」

もう外靴を履いてしまった息子の為に、母は冷蔵庫まで行って間もなく戻ってきてくれた。

「これ?」
「それそれ、サンキュ♪」
「何か今日は控え目ね、お祝いっていう割に。」
「ま、これは全員のお祝い用じゃねえし?全員のケーキは、多分あっちに普通のがあるしな。」
「11人分か・・・誰が買い出しか知らないけど、運ぶのが大変ねえ。」
「運ぶ?」
「え?」
「多分作ってるぜ?」
「11人大の奴を!?どうやって!?」
「さあ?どうやってかは知らねえけど、五十嵐が楽しみにしてる的な事言ってたし。」
「・・・・ご飯も手作りでしょ?」
「って、聞いてる。」
「料理が達者ねえ、皆・・・お金も浮くとはいえ、相当時間かかるでしょうに。」
「別に皆達者なわけじゃねえけどな。達者な奴だけ。」
「猶更よ!あんた、ちゃんとお礼言うのよ?」
「はいはい。行ってきます!」




ちらり。ちらり。
幸村の妹、松は荷造りしてる兄を見ながら、どうしても熱心に時計を気にしてしまう。

「お兄ちゃん・・・20時からだよね?それまでは、絶対大丈夫なんだよね?」
「ふふっ、そうだよ。それに、そんなに長居はしないから。安心していれば良いよ。」
「わ、分かった・・・・」

そんな大した事じゃないよと思う反面、気持ちは分からんでもないなあとも思う。
兎に角、事故防止だけは徹底しなければ。

「少なくとも、俺は最初から最後まで居るから。だから平気だよ。真田も一緒だし。」
「うん・・・」
「・・・ああ、そうだ!」
「?」
「もしなんだったら、俺が携帯を貸すから、時間になるまで部屋に籠って蓮君と電話でもしてれば良いんじゃないかい?あっちも立場は一緒だから、喜ぶと思うけれど。今日は沙綾さんも居ないって言ってたしね。」
「・・・・!も、もうお兄ちゃん!」
「あはははは!どうして?我ながら名案だと思うんだけど。」

ぺし、ぺし、と全然痛くないような力で叩かれて、幸村は笑いが止まらない。

「〜〜〜〜もう良い!お兄ちゃんなんか、千百合お姉ちゃんに言いつけてやるんだから!」

ぴた。
と兄の荷造りの手が止まったのを見て、松はさっと真顔になった。

「・・・お兄ちゃん?」
「・・・いや、大丈夫だよ。何でもないから。」
「・・・喧嘩しちゃ駄目だよ?」
「平気だよ。そういう事じゃないから。心配してくれて有難う。」
「・・・・うん。」

ある意味喧嘩の方が話が早いかもしれないが。


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