Overnight party 1
幸村が五十嵐家を視認出来る辺りに差し掛かると、門扉の辺りで他の全員が纏まって立っていた。

「皆。どうしたんだい、入らないの?」
「いや、それが・・・・」
「?」

幸村が玄関口を覗くと、玄関扉が開いている。
開きっぱなしで、誰も通る事も閉じる事もない。

そしてそこから更に中を伺うと、壁の角からちら、ちら、と見知った顔が覗いては引っ込み。覗いては引っ込み。

「ああ。」
「あれ、何?」
「千百合のお母さんだよ。」
「え?」
「ふふ。ちょっと、知らない人が苦手なんだ。慣れれば平気だよ。」
「俺達は子供だが。」
「それは関係ないらしいよ。こんにちはおばさん、お邪魔します。」

ブン!ブン!と首を縦に振る千百合の母純子は、やっと知った子が来て安堵の気持ちでいっぱいである。

「良いってさ。」
「この場合良いと言われましても。」
「あんまり許可されとる感じがせんの。」
「ま、良いって言ってんだから良いじゃん?お邪魔しまーす。」

ぞろぞろと連れ立って近づくと、ますますびびっているのが目に見える。
そんなに縮こまらなくても、そっちの側は大の大人なのに、と思わんでもないが、まあ。

(・・・旦那に向かっててめえ、とか言うような母ちゃんに見えねえよな。)
(ああ、千百合のお母さんは内弁慶でもあるから。その辺りは結構、千百合と真逆なんだよ。)
(なかなか極端な人のようだな。)

一応こんにちは、と廊下の向こうに向かって挨拶はするものの、向こうはちょい、ちょい、とお辞儀するのが精一杯のようだった。

そのまま前回もお邪魔したダイニングキッチンに近づくと、扉の向こうで聞き知った声が会話しながらばたばた行き交う音が聞こえる。

「皆、お疲れ様ーーー」


「あー!皆来たーー!」


その瞬間はそれは強烈だった。

外は暑かろうと思って冷やしてくれている空間。
辺り中に広がる料理の香り。
暗くなり始めた外に慣れつつあった視界に眩しい煌々と点いている照明。
その全てが、暴力的に五感に訴えてくる。

ああ。
疲れていたんだ。

その自覚を、テニス部は此処に来てやっと実感した。

「・・・・あんたら、どうしたの?入らないの?」
「いや・・・ごめんね、入るよ。有難う、何でもないんだ。」
「腹減った、すげえ腹減った。」
「分かりますよ、丸井君。」
「確かに、何やら急に空腹を感じるな・・・」
「皆お疲れー!お腹すいたよね、今日はおばさんもちゃんと手伝ったから、もう出来てるよ!さあどうぞどうぞ、食べよう!ほら皆も、エプロン外してーーー」
「あ!待ってください、その前にこれを。家からです。」
「あ!うちもうちも!」
「うちからもこれを。」
「えっ!?ちょっと待ってやーだ、そんなの良いのにー!皆手土産持って来てくれたの、うっそー!良いんだよ良いんだよそんなの、気を使わないでよ〜!」

紀伊梨の母、皐月はそう言うが、実際広いテーブルに所狭しと並べられた手の込みまくった料理の数々を見たら、持ってきて正解であろうと思われた。

そして丁度その時、テニス部一同の後方からも女性の声がした。

「遅くなってごめんね!飲み物買ってきたよ・・・あれ?純子ちゃん、どうしてそんな所に居るの?」
「・・・・!」
「ああ、皆もう来てるんだね?」
「あー、雪乃さんナイスタイミングー!お帰りなさいですー!」

振り返ると、テニス部の後を追う形で家に入ってきた女性が一人。ペットボトルの飲み物を玄関に山のように置いている。

何人かはその柔らかい表情を見て、あ。と内心で呟いた。

「皆はじめまして。紫希の母親の雪乃です。いつも娘がお世話になってます。」

(やっぱり?)

丸井的にはそうだと思った、くらいのものである。
もう見たら分かる。ヘアスタイルとかは違うけど、微笑み方が紫希そっくり。

「おばさん、いっつも紫希が世話してる側だから大丈夫だよ。」
「あ、わかるー!だよねー!」
「されてる方です、されてる方ですから!」
「ふふふふふっ!何だか感動だなあ、いつも話に聞いてる皆が居るなんて。うちの子の事、これからもよろしくね。」
「よろしくされた方が良いかどうかはw人によってはやめた方がw」
「ええ?そんな事ないよ、皆とびきり出来た、良い子だもん。ね?」
「・・・・いや・・・」
「そんな事は・・・・」

こう手放しで褒められると、褒められた方は割とどうして良いか分かりかねる。

大体、紫希が家で自分達の事どう言ってるのかなんて想像がつくのだ。
あの仁王でさえも、褒めるような所しか見つけられないような善人扱いをしている位なんだし。長所サーチスコープで人を見るような目線でつらつら学校での話をしているのだろう。
平然とにこにこしているのは幸村くらいである。

「・・・さて!じゃあおばさん達、もう退散するからね。」
「そうだね。後はじゃあ皆でごゆっくりどうぞ。ほら、純子ちゃん行こう。」

「おしゃー!おばさん飲み物ありがとー!」
「あ、よいこのビールあるw初手は全員これにしようぜwグラスグラスw」
「本当に、人の家なのに自然に食器とか取るんだな・・・」
「まあ、黒崎に取ってはもう見知った家だろう。凡67%の物の位置くらいは知っていてもおかしくはない。」

「よいこのビールだと・・・?」
「ジュースじゃ。本物のアルコールじゃないダニ、安心しんしゃい。」
「でも見た目すげえ似てるよな。まあそういうネタのもんだけど。」
「そうですよね。なんだか大人になった気分ですよね。ノンアルコールカクテルなんかも、それらしいですけど。」
「あー、良いよなカクテル!」
「カクテル?」
「だーからノンアルコールだっての。」
「ジュースのジュース割じゃ。」

「よいこのビールとか甘。」
「ふふ!まあまあ、最初の一杯だけだよ・・・って、この言い方だとますますお酒みたいだね。」
「黒崎さんはお茶になさいますか?」
「いや、良いよ。主役はあんたらなんだし、乾杯くらいは。」
「私を入れられてしまうと、些か肩身が狭いのですが。」
「あ、なら遅ればせながら歓迎会もっていう事にしようか?」
「それこそ肩身が狭いので、結構ですよ。」
「堂々としてりゃ良いのに。」

「よっしゃー!皆グラス持ちましたかっ!」

こう言ってはなんだが、こういう時紀伊梨の声はとても便利である。
ざわついていても、よく通るから。

「えーと?じゃあ乾杯?だっけ?」
「違うでしょ、その前にあるでしょw」
「あ!そーだそーだ、ゆっきーこっち来てこっち!」
「俺?どうして?」
「いや、挨拶は精市がやってよ。」
「今日の・・・というか、夏のMVPですから。」
「あははっ!大げさだなあ。」

笑いながら前へ出る幸村に向かって、大げさだよねなんて同調できる人間はこの場には居やしない。

「ええと、先ずは皆お疲れ様。この夏は色々大変だったけれど、結果的に全国は優勝出来たし、ビードロズも特別賞を取ったし。結果に結びついた夏、って言えるんじゃないかと思う。
また明後日から直ぐに練習が始まるけど、今日くらいは反省とか義務とか、そういう事を抜きにしてのびのび過ごそう。以上、有難う御座いました。」
「・・・おい、それだけか?」
「話そうと思えば出来るけれど、皆お腹空いてるだろう?特にそこの2人。」

紀伊梨と丸井は頻りにブンブン首を振る。
もう限界が近い。目の前に飯があるのに。

「じゃあ皆、グラスは持ってるね?乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」



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