Overnight party 1

「大丈夫、大丈夫っていうかあの、マジで大丈夫なんで、私が大丈夫って言うのも変なのかもですけど、大丈夫なんで本当に、」

五十嵐邸の2階では、千百合の母、純子が窓際に立って通話していた。
相手は幸村紗知香ーーー幸村の母親である。

「まさか、千百合ちゃんがテニスプレイヤーに暴力振るわれる寸前だったなんて・・・」
「怖いですよね〜。有名税って言っちゃえば簡単ですけど、手が出る事態になったら流石に許容出来ないですよね。親としては。」

はあ、なんて溜息を吐く皐月とても他人事ではない。

「紀伊梨ちゃんもアイドルを目指すんでしょう?そっち方面も、これから色々ありそうだよね・・・」
「そ〜なんですよね〜〜〜。我が子ながら、本当にその辺の事に疎いっていうか、空気読めないんで・・・良い事でもあるんでしょうけど。逆に、紫希ちゃんとか棗君にはいつも申し訳ないと思ってるんです。うちの子トラメカ体質ですし、一方的にいつも巻き込んじゃって・・・」
「ううん。そんなの気にしてないよ。気にしてないって言うと語弊があるけど・・・そういう事があっても友達でいたい、恋人で居たい、って思える存在があるのって、とっても素敵な事だと思うから。だから、あんまり当事者でもないのに偉そうな事は言えないけど・・・もっと、良い部分を忘れないで居て欲しいなって思うよ。こういう事があると、それも難しいのは分かるけど・・・」
「・・・親ですもんね。私達。」

なんて良いながらちらりと目をやる皐月の視線の先で、純子はやっとスマホの通話を切った所であった。

「お帰りなさい。」
「どうだったですかあ?」
「いやもう、めっちゃ謝られた。一瞬だけだったけど、もう言って別れさせますかみたいな話まで出てさ、焦るのなんの。」
「うわ〜!でもまあ、紗知香さんの立場的にはそうですよねー・・・」
「純子ちゃんは、どう返事したの?」
「いやもう、うちはもう。私が何言ってもどうしようもっていうか、最早別れろって言ったところで感が。千百合はもう、その気になれば親の目盗んでなんだって出来る年に近づいてますし、こっちでコントロールとか無理でしょ。」
「確かに、それもそうですよね〜。もう皆中学生ですから、どこまで親の手を入れるかって言うのも考えどころって感じだし。」
「後まあ、千百合はどっちかっていうと誰かに殴られたりする事より、誰かの言うなりになって好きな人と別れる事の方が堪える性格してるんで。親としては怪我して欲しくないのは山々ですけど、本人の幸せって意味ではまあ・・・」
「・・・ふふっ。」
「?」
「あ・・・ごめんね笑っちゃって。でもそういう所、純子ちゃんにそっくりだよね、千百合ちゃん。」
「あ、分かります〜!何かこう、悪い人に対して物おじしないっていうか。来いやあ!おらあ!みたいな所ありますよね。」
「え、だって。あっちが悪いのにこっちが振り回されるとか、癪じゃん。」

こういう所で外弁慶を発揮するのは、母娘でよく似ている所である。

「というか、こういう事を言い出すと、精市君は一生誰とも付き合えないって事になりかねないんで。」
「それもそうですよねー。あー、難しいなあ・・・」
「うん・・・何だかなあ、何年たっても無くならないんだね。こういうのって。」
「あ・・・・」

純子がう、と言ってちょっと俯いた。

「・・・すみません、その節はうちの子が・・・」
「えっ?あ、いやだなそういう意味じゃないよ!あれは寧ろ、うちの子が進んでやったんだから。そうじゃなくて・・・これからも、支えあっていかないとねって思ったの。」
「そうですね〜・・・まあ、ほら!今は、頼もしい友達が沢山増えましたし!きっと大丈夫ですよね!あ!そうそう雪乃さん、丸井君どうでした?丸井君!」

皐月が空気を変えようとしたのが、雪乃にも純子にも分かった。
皐月のこういう所を2人は有難いと思う。

「居たね赤い髪の子。」
「そうそう!どうです?どうです?」
「ううん、でも全然話してもいないし・・・あ、でもうちの子とそれなりにちゃんと付き合ってくれてるんだな、っていうのは分かったかな。」
「え。どの辺でですか。」
「あのね、私丸井君ってこの子かあって思って、ちょっとだけ顔をじっくり見ちゃったんだよね。でも、目を逸らされなかったから。」
「あー!分かります。ちょっとでも何か思うところあると、子供って人の親に向かってはこう、目線がきゅっと。曲がりますよねー。」
「そうそう。でも丸井君はそうしなかったから。」
「へえ。それ出来るの精市君くらいかと思ってた。」
「幸村君は特別ですよう!っていうか、幸村君は基本出来ない事ないじゃないですか。」
「中学1年生とは思えないよね。どうやったらああいう子に育つんだろう・・・」
「私正直、あの子と話すときは割と心構え的に高校生くらいと話すつもりでやってるんですけど。」
「「分かる。」」

盛り上がる母親達の居る部屋では、はらぺこあおむし柄の壁掛け時計が19:30を指そうとしていた。


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