Family moments 2:My dream 2
翌日。
セーシェル3日目のこの日が、ターナー一家が帰国する日である。
紀伊梨は今日の夜の便で帰国し、乾一家はもう2日ここに滞在する。
飛行機が飛ぶ昼前の今が、3人揃う最後の時間であった。
「(有難う。有難う、有難う。ああ、なんてお礼を言えば良いのか・・・)」
「(やだ、良いんですよ?そんな大した事していないんですし。)」
「(いや、本当に感謝しているんだ。おかげで、また娘を・・・歌手としての娘を応援することに前向きになれた。)」
「・・・・・・・」
「お父さん、何か喋りなよ。」
「そうよ。英語、わかるんでしょ?」
「・・・分かるが、どうも苦手で。」
「(紀伊梨。)」
「ねえリラちん、歌手止めないんだよね?おとーさんとおかーさんにも言ったよね?言ったっしょ?」
「(歌手は本当に止めないと思って良いんだな、と念押ししているよ。)」
「(・・・ふふっ。しないよ、もうしない。私、イギリスに帰ったらまた頑張るよ。次のオーディションでまた落ちても、もう負けないから。約束する。)」
「もう止めないし、オーディションで不合格になっても同じように迷う事はもうない、だそうだ。」
「本当!?やったー!」
「(・・・紀伊梨が。)」
「え?呼んだ?」
「(紀伊梨が教えてくれたから。歌う楽しさ・・・私が忘れていた事を。)」
「・・・・・・」
「(私、やっぱり歌が好き。捨てられない。そうだよね、こんな事になるまで気づかなかったなんて、我ながら馬鹿みたいだけど。)」
「・・・君が歌う楽しさを思い出させてくれたから、もう大丈夫。意訳だが、まあそういった事を言っている。」
「やたー!ほら、そーっしょそーっしょ?やっぱそーなんですよ!」
「(ご案内します。ロンドン空港行きのお客様は、パスポートをご準備の上・・・)」
「(ああ・・・もう時間だ。)」
「(ほらリラ、お別れを。)」
「(うん。紀伊梨に貞治、本当に有難う。私、2人の事忘れないよ。)」
「またねリラちーん!日本に帰ったら皆に手伝って貰って、リラちんの曲スマホに入れて毎日聞くからねー!」
そう言ってゲートへ消えていくリラは綺麗で、紀伊梨も乾も初めてちゃんと芸能人としてのリラの顔をこの時見た気がした。
「リラちん行っちゃったなー。」
「・・・・」
「でもリラちん、歌手止めなくて良かったー!」
「・・・そうだな。」
「およ?乾っちどったの?」
「いや。俺も今回の事で、少々考えさせられてね。」
「???」
「止められない事があるというのは、もうどうしようもない事だ。それを俺は、やっと理解できた気がするよ。」
思うに。
乾は親友と不本意な別れ方をしたショックを引きずりすぎて、色んな事を混ぜて考えてしまっていた、と思う。
一人でデータを纏めていても、はかどらない事や意見をぶつけられる相手が居ないことが気になって。
逆に、気にしないようにと頑張ったりして。
でも、そうじゃなかった。
乾は今でも柳を友達だと思っているし、またいつか会えたら良いと思っている。
そして同時に、柳が居ようと居まいと、テニスが好きなのだ。
どちらも止められない。
別に辞めなくて良い、と紀伊梨に教えて貰ったのは、リラだけではなくて乾も同じこと。
だから自分は、青学テニス部で頑張ろう。
精一杯自分のテニスをしよう。
そしていつかーーーその時は仲間としてではない可能性が高いけど、どこかで柳にまた会えたら。
そしたら、あの日の続きをしよう。
あそこからもう一度やり直そう。
大丈夫。
柳だって、きっとテニスを続けている筈だ。
今ならそう信じられる。
とても素直で自然な気持ちで。
一時期、もしかしたら柳はテニスさえ止めているかもしれないと思った事もあったけれど、柳だって自分と同じ気持ちの筈だ。
テニスが好きだ。
どんな所に行ったって、決してやめられないくらい好きだから。
親友の自分は、誰よりそれを知っているはずだったのに、そんな事さえ忘れていた。
「日本に戻れば会えなくなるが・・・君なら望むアイドルに、きっとなれると俺は思う。少々無責任に聞こえる事は否めないが、」
「え、なんでー?紀伊梨ちゃん嬉しいよ!紀伊梨ちゃんも、今は解決出来ないけど・・・でもでも、これから一生なれないって決まったわけじゃないもんね!紀伊梨ちゃんも!頑張ります!あ、もしも日本でアイドルになったら、リラちんにも分かるかなー?」
「その為には、先ずイギリスでも名が通るくらいの知名度にならなくてはいけない。」
「ちめーど・・・?」
「有名にならなくてはいけない、という事だ。」
「おー・・・大変だよねー!イギリスってけっこー遠いよね?」
実際の距離感は問題じゃない。という事をわかって無い辺り、紀伊梨は知名度という単語がやっぱりピンと来ていない。
馬鹿だなあ、なんて思うより先に微笑ましく思ってしまう当たり、乾はやっぱり紀伊梨にはアイドルの才能があるんじゃないか?と感じた。
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