Local 3
今日も今日とて暑かった。
暑かったが、流石に日が沈んでくると気温も下がってくる。
特に5月は日差しが強い日は暑いが、気温そのものがガンガン上がっていく暑さではないので、暗くなってくると涼しい位だ。
「・・・以上、これにて今日の練習を終わる!解散!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
練習終了の号令が終わると、部員達は各々後片付けに入る。
今日も疲れた。
でも今日も楽しかった。
「あ”〜、暑かった・・・」
「たるんどるぞ丸井!心頭を滅却すれば、火もまた涼し・・・集中力が足らんのだ!」
「えー、そういう問題かあ?」
「幸村。」
「ん?桑原か。どうしたんだい?」
「いや・・・片付けは俺がやるから、先に着替えに行ったらどうだ?」
「?何故だい、どうして急にそんな・・・ああ。ふふふっ。」
「幸村?」
「有難う、桑原。でもそういうわけにはいかないよ。俺以外にも、同じような状況になる人は居るだろうし。それに、やる事があるのに人に押し付けてきた、なんて言ったら千百合に叱られてしまうから。」
「・・・そうか。」
「うん。気持ちだけ受け取っておくよ。有難う。」
「いや。」
練習の間張りつめ通しだった気を僅かに緩ませて、和やかに会話しながら片づけをする一同。
その傍らで。
「・・・・・・」
あかん。もうしんどい。そんな空気をふんだんに纏って気怠げにボールを拾う仁王。
このイリュージョニストは暑さに弱いのである。
午前中はまだ体温が上がりきって居なかったからそこそこ元気だったし、丸井を飯テロでからかう余裕まであったのに。
(・・・いかん、一旦上がると体温がなかなか下がらん。これは辛い。)
爬虫類かな、と突っ込みを入れられそうな事を考えながら、だらだら動く仁王の背を見つめる女子が1人。
林だ。
(仁王君辛そう・・・・)
そろそろ余りのスポドリを処理しないと、と思っていた所だ。
持って行ってあげたいが、誰かに見つかって「なんだよ仁王だけ」と突っ込まれるのはちょっと。
目がスポドリと仁王の間を、たこやきライスのように行ったり来たり。
その光景をフェンス越しに紀伊梨と千百合は見ていた。
「・・・・・・・」
「ねーねー。あの女の子、ニオニオの事好きなのかなー?」
「多分ね。」
おそらくそうだろうし、マネージャーなのに部員に片思いなんて御法度だろなんて言う気はない。
そうじゃないけど、実際に目の当たりにすると千百合とてもちょっともにょもにょしてしまうのだ。
あんな風に、幸村を思うマネージャーの子も多分これから増えていくんだろうなあ、なんて。
それこそ推しがどうとかいう倉木や林のようなレベルではなくて、大真面目に真剣に片思いするような子が。
全く同じような危機感を、今東京の空の下で棗が抱いている事など千百合は知る由もない。流石双子。
「・・・・・・・」
「何よ、静かになっちゃって。っていうか、紀伊梨が黙ると気持ち悪いんだけど。」
「酷くない!?って、違ーう!そうじゃなくてー!」
「早く言え。」
「・・・不思議だったんだけどさー。さっきの女の子とかもそうだけど、なんで告白しないんだろー?」
「は?」
「好きなら好き!って言った方が良いと思うんだけど、皆出来ないよね?なんで?」
「・・・・んー、」
紫希、紀伊梨、千百合の三人の中で、一番はっきり言いたい事を言うのは千百合。
それはそうなのだが、それはあくまで総合的に判断して、という前提がつく。
一般的に言い難い事、きついとも取られるような事でも容赦なくズバーッと言うのが千百合で、紀伊梨は言う事は言うが言い方はかなり柔らかいし、ギャグっぽくなる。紫希は言わなかったり言えなかったりする事の方が多い。
しかし反面、嬉しい!楽しい!大好き!系の事は紀伊梨の方が良く言う。思った時に、ほぼ脊髄反射的に口から出て来る。
紫希は一応行っても大丈夫か考えた後に口に出し、千百合は考えた後恥ずかしいのを押さえつけながらなんとか言う、という流れ。
だから常日頃好意を隠さない紀伊梨には、友達には好きと言えるのに好きな人に好きと言えない心理、というのがピンと来ていないのだった。
「・・・まあ先ず、単純に恥ずかしいから。」
「友達じゃないからって事ー?」
「そう。私にも原理は良く分かんないけど、独特の恥ずかしさとか緊張みたいなものがあんのよ。」
これは千百合も不思議でならない事の一つだが、言葉の上でどんなに同じ事を言っていても、友達に好きと言うのと好きな人に好きと言うのとは違うのである。
これは初恋がまだの紀伊梨にはピンと来なくても仕方ない部分だから、これを分かれというのも酷と言えば酷だが。
「後、駄目だった時の事考えるとどうしてもね。」
「一度駄目でも次があるかもしれないよ?」
「あんたね、相手の事考えてないでしょ。自分がもう一度やる気になっても、向こうが避けてきたりしたらどうにもならないのよ。」
「・・・そっかー。」
「そ。そんなんなるくらいなら今のままの方が、って思うのは当たり前と言えば当たり前なんじゃない。」
要はどっちが得か、と思うかという話。
友達のままでも良いから一緒の時を過ごすか、上手く行くかもしれないと望みをかけて賭けに出るか。
まあ多くの女子は前者の方を得と捉えて、なかなか何も行動を起こさない人が多いだろうが。
(でもやっぱり、言うならさっさと言っちゃった方が良いと思うんだけどなー)
だって、ほら。
ぼやぼやしていたら、他の誰かにリードされちゃうかもしれないじゃないか。
後になってから、私だって好きだったんだもん!なんて言ったって遅い事くらい、自分でも分かるぞ。
ああでも、タイミングを間違えると結局負けてしまうのか。
そして、一度負けたら再挑戦が許されるかどうかは分からないのか。
でも。
でも、結局いつかは答えが出てしまうのだから、それなら勝負に出るっきゃないっしょ、と思ってしまう自分は、やっぱり良く分かってないんだろうか?
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