Learn 2

気温と日の長さは関係ない。
日中どんなに日差しがきつかろうと、5月は18時にはもう真っ暗。
20時過ぎの現在なんて言わずもがなだ。

「ごめんね忍足君、いつもいつも・・・」
「ええて。あんまり気にしやんで。」

単に暗いだけなら兎も角、時間がこうも遅いとやっぱり心配になる。
だからついついこうして家まで送ってしまう。

「それより、俺はええけど可憐ちゃんとこは大丈夫なん?」
「え?」
「幾ら部活やから言うても、親とか心配してるんちゃう?」
「うーん・・・そうだね、なるべく早く帰って来なさいとはちょくちょく言われるかなっ。」

でも。

「・・・えへへっ!」
「?」
「あのねっ、最近お母さんもお父さんも、美梨も言ってくれるんだっ!可憐、中学に行ってから素敵になったね、毎日キラキラしてるねって!」

皆言ってくれる。
頑張ってるね、楽しそうだね、夢中なんだね。

そして言われる度に、可憐の中からふつふつと実感が湧いてくるのだ。

ああ。
ああそうだ、私は今楽しいんだ。
毎日やりたい事がいっぱい、新しい挑戦がいっぱい。
しんどい時も悩む時もあるけれど皆が居て、助けてくれて、次のステップを踏む為のエネルギーをくれる。
今日になると明日が楽しみで、明日になると明後日が楽しみ。

皆可憐がそう思ってるのを分かってる。
だから無理するなとか、帰宅はなるべく早くねとかは言うけれど、そんなにキツイ部活なら止めなさいとか、そんな事より勉強しなさいとかは絶対に言わない。

「そうなんや。良かったな。」
「うんっ!私、忍足君と会えて、氷帝テニス部に入れて本当に良かったよ!お母さん達もそう思ってるから、あんまり煩く言って来ないんだと思うなっ。」
「・・・そうなん。」

忍足は笑顔になってしまう。
そう言って貰えるのは嬉しい。掛け値なしに嬉しい。

「あ・・・でも、今回は前のマニュアルの時とかとはちゃうからな。」
「え?」
「前は〆切も決まってたし、精々5日か其処らの間やったけど、今回は長丁場や。茉奈花ちゃんが他校の事纏め終わるまで可憐ちゃんはリーダーせなあかんわけやから、今日みたいな日が暫くずっと続く事になるわ。」
「・・・今日みたいな日が暫くずっと?」
「おん。やから、送る事は送るけど、それにしても親には何や言われるかも分からんで。流石に。」

自分は男子だし、テニスに入れあげているのは今に始まった事じゃないから、多少以上に遅くなっても「連絡だけはちゃんとしなさいね」で終わるが、可憐は女子だし、外から見てる分には「選手なら兎も角マネージャーってそんなに残らなきゃいけないの?」と疑問を抱かれてもしょうがない所がある。

「まあそれもしゃあないけどな。親としては心配やろうし・・・可憐ちゃん?」
「・・・・・」

今日みたいな日が暫く続く。

そう言われて可憐が思ったのは、「此れが毎日か大変だな」
「上手い事乗り切れるかな」
「日を追えば慣れて少しはマシになるかな」
「何か茉奈花ちゃんの事手伝えないかな」
等等、等。

でも一番強く思ったのは、「こんなに一日中忍足と一緒に居る日々が続くのか」という事。

朝練で一緒になり手伝って貰い、昼休みは合流して勉強して、放課後部活でも何くれとなく手を貸して貰って、さらにその後2人で勉強して、極めつけに家まで送って貰う。
もうフルコースだ。一緒に居られる時間は全部一緒に居るのに使ってる、と言って良い勢い。

「可憐ちゃんて。」
「・・・ハッ!えっ?何っ?」
「いや、何いうて、何もないんやけど。どないしたん、急にボーっとして。」
「えっ!いや、あの、あははっ!いやー・・・」
「?」

特定の男子と一日中一緒に居る日々、という響きが恥ずかしいですなんて言えない。

「で、でも毎日送って貰うのはやっぱり悪いかなっ!だから、放課後の居残りは時々で大丈夫だよ!」
「それは構へんて。良い機会なんやし。」
「私が構うよっ!それに、ほら!もうすぐテスト期間だから、どっちかというとその時に時間割いて欲しいなっ。間が空くと忘れそうだし・・・」
「ああ、そやな。部活も無いし、時間取ろか。」
「うんっ!そっちの方が良いかなっ。」

こんな提案が出来るのは、テストがそれ程怖く無い成績だからこそである。

などと言ってる間に、2人は可憐の家の前までついた。

「・・・さて。ほなら、俺帰るわ。」
「うん!有難う!」
「大した事ないて。ほな・・・」

また明日、と続けようとした時、家の中からキャンキャン!と犬の声が聞こえた。

「フッ!シ・・・ショコラ・・・」
「もー・・・笑わないでよっ!」

そう言われても、笑うまいと思えば思う程笑いがこみ上げてくるのである。可憐には申し訳ないが。

「堪忍な?ほなら、又明日。ショコラにもよろしゅう。」
「むー・・・又明日ねっ。」

まだ思い出し笑いが治らない忍足の背中に、可憐は微妙な顔で手を振った。

(あんなに笑わなくても・・・)

ツボに入ったのだろうか。
遠くに見える背中は、未だ肩が揺れてる気がする。

(・・・でも、忍足君があんなに笑うの珍しいかなっ!)

そう思うと、何故か急に気分が良くなるから不思議だ。
微妙な顔が笑顔になって、可憐は玄関のドアを開けた。

「ただいまっ!」



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