Aroma
「そーだ!」
放課後。
部活中の幸村を除く、4人での音楽室の活動中。
紀伊梨は突如大声を上げた。
まあ、ままある事だけど。
「何よ。」
「今度のお手本の時さー、ブンブン呼んでいーい?」
「ブンブン君?なんで又?」
棗が尋ねると、紀伊梨は成り行きを思い出してぷーっと頬を膨らませた。
「だってさー!今日ブンブンにビードロズの話したら、お前にバンドが出来んのか、みたいな事言うんだよー!?色々覚えられんのかー、的な!酷くない!?」
「「何も酷くねえよ。」」
本当の事である。
「で、でも紀伊梨ちゃんは暗記がそんなに苦手なわけでは無いと思うんですけれど・・・やり方に工夫が必要なだけで。」
「あーん!そんな事言ってくれるの紫希ぴょんだけだよ、紫希ぴょーん!」
「あ、わ!紀伊梨ちゃん、」
「こら、紀伊梨。邪魔しない。」
「えー!?」
「いえ!別に邪魔というわけではなくて、」
「紫希は甘い。」
「あう・・・」
「話戻すけどさー、結局お前は何故にブンブン君を呼びたいの?」
「私は何時もこういう技を使ってます!って教えたい!後、それでちゃんと覚えられるとこを見せたい!」
「はあーあ・・・」
「お前の見栄の為かよw」
棗は思わず笑ってしまうが、千百合は呆れ気味だ。
「・・・駄目?」
「ま、私は別に。邪魔しないなら、誰が何人来ても良いけど。」
「俺も構わないよ?ブンブン君にも会ってみたいし。」
「紫希ぴょんはー?」
「私は・・・」
実は丸井を呼ぶという話にあたって、1番割りを食うのは紫希であった。
だから紫希が嫌というなら考え直さねばならない事を他の3人は知っていた。
「・・・私も構いません。呼んで下さって。」
「本当っ!?」
「ええ。」
「やたーっ!」
「良いの紫希?無理してない?」
「1人くらいなら、ギリギリなんとか。それに・・・紀伊梨ちゃん、確認しますけれど、ブンブン君って丸井君ですよね?ポッキーを下さった。」
「うんっ!そうだよー☆」
「一飯の恩ならぬポッキーの恩か。」
「ポッキーだけに限りませんけれど・・・なんだかお話も良く聞きますし。」
「ま、紀伊梨が世話になってる感は凄くあるけどね。」
「えーっ!?私そんなにブンブンにお世話になってるかなー?」
「「なってると思う」」
紀伊梨と近くに居ると、周りは何故か自然と紀伊梨の世話を焼いてしまう。
時折迷惑をかけても何故か憎めないのは、紀伊梨の愛嬌の賜物だ。
「幸村君も、その日は来ますよね?」
「うん。来れるって。」
「相変わらずユッキーの事ならなんでも知ってますなあ、千百合っち、はああっ!」
「紀伊梨ちゃん!」
千百合の右手は紀伊梨の頭を叩いた。
前言撤回、こういう時は憎らしい。
「大丈夫ですか!?」
「痛いお・・・!」
「紀伊梨が悪い。」
「ププッ。」
「笑うな馬鹿兄貴!」
笑うなと言われても笑わずにはいられない。
常に冷静なこの妹がこんな真っ赤な顔で狼狽えるのは幸村が絡んだ時だけだ。
「ま、兎に角決定だね。」
「えっと・・・全部で5人ですね。予備も入れて・・・」
「紫希、又なんか作ってくる気?」
「ええ。これはポッキーの恩です。何を作りましょうか・・・」
「あ!じゃあじゃあ、紫希ぴょん今日うちに寄ってよ!田舎からレモン、たーっくさん送って来たんだあ!」
「あ、レモンは良いですね!でも、頂いて良いんですか?」
「全然大丈夫だよ!本当にいっぱいだから!寧ろ持て余し気味!」
レモンを大量に消費しろと言われても限界がある。
お菓子作りの得意な人間が居ない五十嵐家では、尚更そうなのだった。
「後は・・・丸井君はレモン平気なんでしょうか?」
「うーん、紫希ぴょんが不安なら聞くけど、ブンブンなんでも食べちゃうよ?」
「すごい誤解を招く言い方な気がする。」
「なんか雑食感溢れてきたぞw」
丸井は黒崎の双子の中で、徐々に「食い物に見境の無い奴」のイメージを組み立てられつつある。
千百合に至っては、相撲取りみたいな奴を連れてこられたらどうしようかなどと要らない心配迄頭を過ぎった。
「では、一応レモンパイが平気か聞いておいて頂けますか?」
「りょーかいであります!忘れない内にメールしとこっかな♪」
「こういう時ばっかり行動早いんだから・・・」
「あはは・・・」
「紀伊梨らしいじゃん?」
その行動の早さを、勉強関係にも活かしてくれないだろうか。
叶う筈も無い願いを千百合は無駄と知りつつ願ったのだった。
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