Aroma
「お前、さっき何やってたんだ?」
友人のジャッカル桑原に尋ねられて、丸井はフルーツサンドから顔を上げた。
「さっき?」
「廊下で。」
「ああ、あれか。知らない女子にパウンドケーキ貰ってた。」
「はあっ!?」
「いや、貰う気は無かったんだぜ?美味そうな匂いがしたから、何処で売ってんのか聞きてえなー、って思って、聞いたら手作りだって言うからよ。」
「ああ・・・それじゃ買えないな。」
「だろい?だから諦めようと思ったら、良かったら一切れどうですかって言ってくれたから、ありがた〜く頂いてたわけだ。」
なんだか、えらく何気無い事のように言ってるが。
「お前どれだけ物欲しそうな顔してたんだよ・・・」
「あー!言っておくけどな、俺は別に其処まで欲しいですって顔してたわけじゃねえからな?まあ、多少はしょんぼりしたけどよ。」
「してんじゃねえか。」
可哀想な女の子も居たものだと桑原は思うが、目の前の丸井は違うんだって、と尚も言い募った。
「何が違うんだよ・・・」
「あの子は、俺が可哀想だからとか、そういう理由でくれたんじゃないんだよ。もっとこう・・・純粋?そう、純粋な気持ちで俺にくれたわけだ。分かるか、ジャッカル君?」
「分からん。っていうか、この場合純粋な気持ちってなんだよ。」
「そりゃあーーー」
丸井の脳裏に、今しがた会った彼女の姿が浮かび上がる。
ーーー全然知らない人が、全然知らない私の為に
ーーーとっても嬉しかったんです
ーーーですから、私も
(そうだ、あの子はーーー)
自分に気持ちをくれたのだ。
自分は嬉しい気持ちを貰ったから、今度はそれを丸井にあげたい。
そういう心と共に頂いたから、あのパウンドケーキはきっとあんなに美味しかったんだろう。
「・・・内緒っ。」
「はっ!?」
「まあまあ、その内気が向いたらな?」
「気が向いたらってなんだよ・・・」
「だから、気が向いたらだよ。」
今は気が向かない。
桑原がどうとか、そういうわけじゃなくて。
なんとなく。
なんとなく、誰かに言いたくない。
秘密にしておきたい。
自分と、あの子の。
「・・・というか、お前。」
「ん?」
「あの子って言ってるけど、名前も何も本当に知らないのか?」
「・・・あ!俺自己紹介すんの忘れてる!」
「馬鹿・・・」
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