Solicitation:Epilogue 2

一方、幸村家では幸村も今正に眠ろうとしていた所であった。

手洗いから出てきた息子に就寝の気配を感じ、母、紗知花は息子に声をかける。

「もう寝るの?おやすみなさい。」
「おやすみ、母さ・・・父さんは?こんな時間に、電話かい?」

覗いたリビングの、母の立っている向こうに父、久永が携帯に話しかけているのが聞こえる。

「ええ。なんだかわからないけれど、五十嵐さんとお話し中らしいわ。」
「竣介おじさんと?」

(仕事じゃないんだ。いや、仕事かな?)

自分の父と紀伊梨の父は、友人であると同時に協力業者同士でもあるので、話し込んでいるといまいち話題が判然としない。
まあ、多くは自分はあまり関係ないから、そんなに聞き入る事でもないけれど。

「兎に角、当分終わらないから。」
「そうだね、挨拶は諦めるよ。おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」

妹はもうとっくのとうに夢の中なので、廊下をゆっくり歩いて自室へ入る。
横になると、流石に眠気がこんこんと湧いてきた。

(明日は朝練があって、宿題があるのは古典と数学と、化学と・・・そうだ、明日のミーティングは軽くで終わりそうだから、久しぶりに皆の練習を見に行こうかな?)

立海テニス部は、月曜日はミーティングである。
とはいっても、もう運営側に回っている幸村達三強は他の部員よりは時間を取られるから、それでも多少は時間を取られるけど。
でも何時もみたいに遅くはならない筈。

明日の下校は千百合と帰れるだろうか。

「・・・・・」

閉じていた目を開くと、月明かりに照らされたカーテンがそよいでるのが見える。
参った、眠気がなりを潜めてしまった、と思うと、1人でクスッと笑ってしまった。

今日あんなに一緒に居たのに。
一日中一緒に遊んで、抱き上げたり髪にキスをしたり手を繋いだり。寄りかかられて見た寝顔や、笑顔や不満そうな顔も沢山見たのに。

でも足りない。
全然足りない。
もっと一緒が良い。
明日も明後日も明々後日も、ずっと一緒が良いんだ。
勿論時間は有限で、一日は24時間しか無くて、体は1つだし勉強もしなきゃだし、お互いにテニスもバンドもあるけれど。

でも、好きだ。
こんなにも好きなんだ。

廊下で鉢合わせると、千百合が直ぐ目を逸らしてくれて、実はちょっとホッとしてる。
不意に姿を見ると、それだけで瞬間、心臓が跳ねる事を知られなくて済むから。

少しも顔を見られなかった日はLINEをくれるのが有難い。
嬉しいし、自分は勢い余って電話してしまいそうだから。

この前は、今日は会う時間が出来そう、なんて思っていてさ。
そういう時に限って先生から呼び止められたりした時、柳に割としっかり笑われた事なんて千百合は知らないだろう。
お前がそんなにがっかりした顔を見るのは初めてだ、って言われてふと窓を見ると、自分でも驚くほどブルーな表情で逆におかしかったっけ。

不思議だ。
他の事には、どんな目に遭っても自分の中の冷静な自分が「落ち着け。慌てたって良い事なんか何もない。」と諭してくれて、スッと頭が冷えるのに。
これに関してはテニスでさえも例外ではないのに、千百合の事になるとそれが急に出来なくなる。
落ち着かないとって分かっていても、心のどこかが急いて浮き足立つ。
ちょっとした事だって分かっていても、そのちょっとした事ではしゃぎたくなるし、悲しくなる。

(・・・ふふっ。忙しいなあ。)

体も忙しいけれど、同じだけ心も忙しい。
でも、その多忙ささえも愛しくて。

その中に、不意に千百合のくれる甘い一時が差しこまれるから。
だからこんなに、毎日飽きないんだ。

そう思いながら、幸村は目を閉じた。

おやすみなさい。
願わくば、明日よ。ちょっとだけ、急ぎで。


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