Escape 1
跡部は、自室でPCを立上げてデータを閲覧していた。

先日、棗に送ったモニターのメールフォーム。
多分、どこぞからモニターとしてのレビューの書き方、みたいなのを読んだのだろう。
棗は勿論、紫希、千百合からもかなりしっかりしたレポートが送られてきて、跡部は大変満足した。
紀伊梨は例外だったが、まあ。紀伊梨にこの手のあれこれは、元より期待してないから。

うんうん、と頷きながら見ていると、突然通知が割って入った。
Skypeである。発信者、Donna。

応答ボタンを押すと、怪しげな、黒魔術か何かに使用されていそうな真っ黒いフード付ローブを身にまとった、誰かの姿が現れた。

『ふっふっふ・・・さて、私は誰でしょう?』

「毎度毎度、良く飽きねえもんだなお前も。」

彼女は、何時もそう。
何がしかの変装をしては、私はだ〜れ?ごっこに余念がない。

ただ、鬱陶しいから止めろとかそういう事は言わない。
これくらいしか、彼女に逃避の方法が無い事を、跡部はよくよく知っているから。

「で?用件は何だ?お前から連絡とは、珍しいじゃねーの。」
『あら、いやですわ。乙女の気分ですわよ、き・ぶ・ん。』
「そうかよ。」

素っ気ない言葉だが、素っ気ない口調ではない。
跡部は、恋とかはしていないけれど彼女の事は気に入っている。
自分達は仲間だ。戦友としては申し分ないパートナーになろう。

恋は。
してない、けれど。

「・・・・・・」
『さて。本題の方ですけれど・・・もし?跡部様?』
「・・・ああ。どうした?」

いけない。
ボーっとしてた。

いや、これは多分可憐の所為だ。
彼奴が、恋って何だとかなんとか聞いて来るからだ。よりにもよってこんな時に。

『実は私、明日少々家出をしようかと存じますの。』
「は?」
『勿論跡部様の事は言いませんわ。ええ、跡部様に苛められるのがどうにも辛くて、耐えかねて耐えかねて、思い余ってとうとう・・・などとは、決して言いませんとも。ええ。』
「お前は俺に何か恨みでもあんのか?アーン?」

いやまあ。
厳密に言うとあるんだろうと思うけど。

・・・あるんだろう、けど。

『ふふふ。冗談はさて置きまして、家出は本当ですわ。人間、偶には息抜きしませんと。』
「息抜きか・・・」
『ええ。つきましては、親から連絡があるかも分かりませんが、知らぬ存ぜぬを通して下さいまし。』
「分かった。」

此処でさらりと了承してくれる跡部を、彼女はとっても気に入っている。
素敵な友達だ。
恨んだりしてないよ、本当だよ。

貴方の事は。

「・・・そうだな。」
『?』
「決めた。俺様も明日は家出をするぜ。」
『へ?』

呆気に取られる彼女に、跡部はおかしそうに笑った。

「おい、何処へ行くかだけ教えておけ。行き先がかち合うとお前も興醒めだろう?アーン?」
『え、ええ・・・それはそうですけれど・・・ええとそうですわね。明日は・・・私は、女性をひっかけられるひっかけ橋で、ナンパでもされるのをのんびり待ちますわ。』
「ひっかけ橋?何処だそれは。そんな名前の所が本当にあるのか?」
『あら、いやだ。所謂俗称ですわよ、正式名称は違いますわ。』
「驚かせやがって・・・そっちを先に言え。それから、ナンパを待ちたいなら好きにすれば良いが、危ない目に遭わないように自衛はしろよ。」
『ええ、勿論ですとも。』

こうして、彼と彼女はプチ家出同時決行作戦を急遽立ち上げたのだった。




1/6


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]

1年1学期編Topへ
1年夏休み編Topへ


-