Meeting 1
可憐は今、彼氏が居ない。
今居ないだけで彼氏が絶えないのとか、そういうわけでもない。
周りの友達も一緒。
言うなれば、恋愛に対して経験が豊富でないのだ。
じゃあ、一番恋愛経験豊富なのって、だあれ?
と、言われると。
「珍しいねー!お姉ちゃんの方から誘ってくれるなんて!」
「えへへ!そうだね、最近私も忙しかったからっ。」
都内某所のカフェで、可憐は妹の美梨とお茶を飲んでいた。
桐生美梨。
可憐の妹にして、姉と正反対のスペックを持つ小学5年生である。
「でも、どうしたの?相談って、家じゃ駄目なの?」
「あ、うん。お母さんとかに聞こえると、誤解されちゃうからっ。」
「誤解?」
母は自分に似てそそっかしい所がある。
だから会話の漏れ聞こえ部分だけを聞いて、早合点して暴走などと言う事になったらもう、目も当てられない惨事だ。
可憐は深呼吸を一つした。
「実はね、相談なんだけど・・・」
「うんうん!」
「友達の恋を応援するのって、どうやったら良いかなっ?」
もう3日前の事になる。
大事な友人の忍足から、同じく大事な友人である網代を好きだと教えて貰ったのは。
それから暫く、友人同士の恋を応援するべく可憐は色々出来る事を考えていたのだが、何分自分が詳しくない。下手の考え休むに似たりというが、正にその言葉通り。
何をしたら良いのか見当もつかず、じゃあ詳しい人に聞けばいいじゃない、と相成ったのだった。
美梨の目が、途端にキラリと輝き出す。
「わあ!恋バナ?恋バナ?っていうか、それ本当にお友達さんの話?お姉ちゃんの話じゃないの?」
「ちーがーうっ!それは信じてっ!其処信じてくれないと、ちゃんと話が進まないんだからっ!」
「あはっ!オッケー☆う〜〜〜ん、でもそうだねー、友達の恋の応援かあ・・・」
美梨がキャラメルマキアートを飲みながら唸る。
それを受けて、可憐もなんとなく頼んだアイスティーのストローを咥えるが。
「・・・ねえ、確認なんだけど。」
「?」
「その友達さんって、忍足さんか網代さんのどっちか?」
「きゅっ!えほ、えほ、えほ!」
「あは!あったりー☆」
思い切り咽た。
美梨は笑いながらVサインなどしているが、可憐としては動揺して堪ったものじゃない。
「なっ、なんで!」
「えー、だってお姉ちゃんから聞いてる人の中で、恋愛関係何かありそうなのってその2人だしー。」
「う・・・・」
「で?どうなの?どっちが正解?」
「・・・・・」
可憐はサッと辺りに目を走らせた。
大丈夫だな?知り合いは居ないな?
「・・・誰にも言っちゃ駄目だよ?」
「うん、了解!」
「・・・両方。忍足君が、茉奈花ちゃんを好きだ、って・・・」
好きだって。
そう口で言うと、なんだか口がチクッとした気がして、可憐はアイスティーをもう一口飲んだ。
美梨は、ふーん、と言いながら2口目を飲んでいる。
「うーん、でもその2人だったら、放っておいてもその内くっつくんじゃないかなー。」
「・・・そう?かな?」
「うん。美梨的にもその2人ってお似合いだと思うんだよね!美男美女感?うーん、なんて言ったら良いんだろ。美梨、お姉ちゃんみたく成績良くないから、どう言ったら良いのかイマイチなんだけどー。あ!つり合いが取れてるっていうのかなー。レベルが丁度良い感じだよね!」
やっぱり我が妹は頭が良い、と可憐は思う。
自分から聞いた話だけで、的確に此処まで辿りつけるとは流石。
「でも良いの?」
「へ?何が?」
「美梨、お姉ちゃんは忍足さんが好きなのかなーって思ってたよ。違うの?」
それ。
それさあ、それ、思ってても言っちゃう?
というポイントに突っ込んでくるのが、兄弟と言う存在であり。
桐生美梨という存在であり。
「ち・・・違うよっ!忍足君の事は好きだけど、それはあくまで友達としてなのであって、」
「ふーん?」
「だ、大体っ!もしそうだったら、どうするつもりなのっ?今さっき、忍足君と茉奈花ちゃんはお似合いでって、」
「え?忍足さんと網代さんがお似合いな事と、お姉ちゃんが忍足さんの事好きな事って、何にも関係なくない?」
「・・・・・・」
美梨はこういう所がある。
もし可憐も忍足を好きだった場合、今の可憐の話した状況下では、言うなれば姉は恋の敗者なわけだ。
なれば其処に気の毒ね、という意識が芽生えそうなものだが、美梨にはそれがない。それはそれ。これはこれ。
「まあ良いや!兎に角、違うんでしょ?」
「そうっ!違うのっ!」
「ふーん。じゃ、お姉ちゃんは忍足さんと網代さんの、恋のキューピッドになりたいって感じ?」
「うん、そう。それっ。」
「お待たせいたしました。苺ショートのセットと、ショコラショートのセットで御座います。」
目の前に置かれるケーキセット。
ショコラショート。
飼い犬、ショコラの名の元になったケーキ。
忍足にもショコラの事を話した事があるっけ。
「・・・ねえ美梨。」
「うん?」
「やっぱり、忍足君との勉強会って、止めた方が良いのかな?」
「うん!それはもう絶対!」
バッサリ切って捨てる美梨。
いや、分かってたけど。
「網代さんは良い人そうだから、お姉ちゃん達が何でも無いって言ったらそうなの、ってなるかもしれないけど。でも実際普通の勉強だったとしても誤解の元だし、デメリットはあってもメリットは絶対無いよね、って感じ!」
「だよねええ・・・・・!」
分かってる、分かってるんだ。
それはじゅーーーーぶん分かってるんだ。
「ううう、やっぱりこれからは1人で勉強しないとかなあ・・・」
「っていうか、そのおべんきょっていつまでやるの?期間限定だったよね?」
「うん、もう直ぐだと思うんだけど・・・」
元々、である。
元々何故勉強会なんかしてるのかというと、可憐が網代の代わりをし易くする為で。
網代はデータ収集の為に抜けているわけで、詰まる所、網代が戻ればもう無理してテニスの勉強をせずとも良くなると。そういうわけだ。
(・・・そうだよね。わざわざ止めなくても、もう直ぐなんだよ・・・)
もう地区予選も終わった。
データが上がってくれば、全て元通りだ。
勉強会は終わり。
網代が再び皆を指揮するようになって、自分はサブリーダーに戻る。
もう、2人で勉強したり、影に日向に手伝って貰う事も無くなるのだ。
(・・・ううん。良いんだ。それで良いんだよ。今は忍足君が、茉奈花ちゃんと居られる時間をちょっとでも増やすべきなんだから。)
「ところでお姉ちゃん。」
「!え、はいっ!何かなっ!」
「さっきから忍足さんが、って話で進めてるけど、網代さんの方は?忍足さんが好きって事で良いの?」
「あ、其処はまだ確認を取ってなくてというか、忍足君が好きとは聞いてないけど・・・」
「あはっ!ま、そだよね。網代さんも忍足さんが好きなんだったら、告白しなよって勧めてどっちかが動いたらもう解決☆って感じだもん。」
「うん・・・でも、茉奈花ちゃんは好きな人とか今居ないっぽいんだよねっ。出来たら相談に乗るって約束したんだけど、まだ何も言われてないから・・・」
「ダーウトッ。」
「え?」
美梨はショートケーキをつついている。
今、何て言った?ダウト?
「・・・ダウト?」
「うん。網代さんに好きな人居るか居ないかは分かんないけどー、そういう約束があるからって居ないって思うのは違うと思うな。」
美梨は口の端に付いたクリームを指で取りながら言う。
「どうして・・・?」
「んー、美梨的にはなんだけど、美梨って性格的には網代さんに似てるんだよねー。お姉ちゃんより似てると思うよ?似てる似てないで言うと。」
「ああ、まあ・・・うん。それは私もそう思うかなっ。」
勿論より似ているというだけで、美梨のデリカシーの無さとか男性関係の派手さは網代には無い。
美梨も、何から何まで網代と自分がシンクロしてるとは言わないが。
「普段お姉ちゃんの話とか聞いてて、ああ網代さんの気持ち分かるなー。美梨もその場面になったら、同じ事するなーって思う時があるんだけどー。その、相談に乗って、っていうのもそんな時。」
「・・・・・・」
「美梨的には、恋バナ聞いて、って言って本当に言い出す時って、もうほぼカレカノになれてる手応えがある時なんだよね。だから網代さんがもし相談し始めたら、その時にはもう好きな人出来たどころか、告白成功寸前!って感じだと思うよ?」
美梨が居てくれて、可憐は本当に良かったと思った。
擬似的にではあるが、まるで網代本人と話しているかのようだ。
確かに言われてみれば、網代ならばそうする方が自然。
実は好きな人が出来たの・・・と恥ずかしそうに言い出す網代より、実は最近気になってる人が居て、今度告白しちゃおっかな、なんて思ってるの!と言ってはしゃぐ網代の方が、容易に想像出来る。
「・・・凄い。凄いね美梨っ!私、吃驚しちゃったよっ!私だけだったら、ぜーったいそんな考え出てこなかったっ!」
「あははっ!まあ、お姉ちゃんこういうの良く分かってないもんねー。」
「う!」
それを言われるとぐうの音も出ない。
そもそも良く分からないから、こうやって聞いてるのだし。
ちょっと拗ねた気分で可憐はアイスティーを飲んだ。
「ふーんだっ!お姉ちゃんだって、もう直ぐ・・・は、無理だけど、その内彼氏を作るんだもんっ!それで恋愛して、美梨や茉奈花ちゃんみたく、色々分かる女の子に、」
「んー、無理。」
「えええっ!?」
何それ、と思ってケーキを見ていた目線を上げると、美梨は微笑んでいた。
カラカラ笑ってるわけじゃなくて。真剣な目でも無くて。
「無理だよ。お姉ちゃんには分からない。」
「どうしてっ?・・・私、そんなに可愛くないかな?」
「んーん。お姉ちゃんが彼氏出来ない、って言ってるんじゃないよ。もし彼氏出来て、素敵な人といつか結婚する時が来ても、お姉ちゃんは美梨や網代さんの気持ちは分からないと思うな、って言ったの。」
「・・・・・・」
「分からなくて良いんだよ?分かるから良い、分からないから悪いっていう話じゃないし、分からない人は他にもいっぱい居ると思う。えーと、誰だったかな?この前話してくれた、湘南の人達!」
「ええと、紫希ちゃんと紀伊梨ちゃんと千百合ちゃん?」
「そうそう!その、紫希さんとか紀伊梨さんとか、千百合さんも多分「分からない」人達だと思う。お姉ちゃんと気が合うと思うよ。」
「・・・どうして、分からないんだろう?」
「うーん、性格違うから、以外に理由は無いと思うなー。逆に美梨は、お姉ちゃんの考えてる事がよく分かんない所あるし。」
「ふうん?」
なんだか分かったような、分からないような。
「・・・ねえねえ美梨っ?」
「うん?」
「因みになんだけど、美梨から見て忍足君はそうかなっ?」
「忍足さん?」
「うんっ。忍足君は分かる人かなっ?それとも分からない人っ?」
美梨はキロ、と目を回してちょっと考えた。
「・・・美梨的には、だけどー。」
「うん。」
「忍足さんは、分かりたくないのに分かっちゃう人、って感じかな。」
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