Meeting 1
美梨が「やってはいけない事」として可憐に言っていた事の一つに、こんなのがあった。

みだりに友人に相談しない。

忍足と網代は有名人故、ちょっとした噂がさも本当の事であるかのように流布する可能性がある。
好きな人居るらしいよ、という「らしい」の話であっても危ない。
火の無い所にあるのが煙なのか水煙なのか、その判断は他人にはつかないから。だから放っておけばちょっとの手助けでさくっとくっついたものを、変な噂の所為で遠回りルートに入ってしまいかねないという。

そしてそうなると、今度は逆に人の意見を伺いたくなった場合誰にどうやって、という話が出て来る。

『相談するならね?超超近い人か、若しくは逆に、超超遠い人が良いって思うな。』

この、超超遠い人とは誰か。
これはもう、その人が仮に「忍足侑士君は網代茉奈花ちゃんが好きなんでーす!」と全校生徒の前で叫んだとしても、歯牙にもひっかけられない人。
端的に言うと、所属が全く同じではない人だ。

となると、同じ学校なんて論外。クラスメイトでも、学年違いでもアウト。
他所の学校でも、マネジ友達等、テニス部に所属していると言うのも駄目。大会なんかで会うから。

要は、其処から漏れた時如何に信憑性が薄いと思って貰えるかが肝なのだ。







「・・・って、いうわけでっ!皆の力を借りたいんだけど、お願い出来るかなっ!」

「あいあいさー!任されよー!」

可憐の考えていた手。
それは、「ビードロズ達の力を借りる」事であった。

「有難うっ!ごめんね、皆には関係ないのに・・・」
「いや、そんなのw全然良いよw」
「うんうんっ!可憐たんは友達だもん☆」
「はい、何でも言って下さい!学校や部活が違うからこそ、話しやすい事もあると思いますので。」
「関係ない事でも良いよ。別に笑ったりしないし。」

「・・・・有難うっ!」

自分は本当に良い友達を持ったと可憐は思った。
ビードロズに会ったのは本当に全くの偶然からだったけど、会う度に色々何くれとなく助けて貰ってる気がする。

「でも先ず、相談の前に忘れちゃいそうだし、渡す物を渡しておくねっ!さっき話した、跡部君と家出した時に貰った熊さんなんだけど・・・」
「わーい、やったー!」

なんて、紀伊梨は無邪気に喜んでいるが。

「これただの熊じゃないよねw」
「思い出だからね。」
「て、丁重に扱いませんと・・・」

成り行きを聞いた後で、これがその熊だよ!と渡されると、微妙に受け取り辛い。
只のぬいぐるみではないとわかっているからこそ。

「ええとね、あ!これは紀伊梨ちゃんのっ!はいっ!」
「はーい・・・おおお!すごーい!ギター弾いてるー!」
「えへへっ、良いでしょっ?私これ見て、真っ先に紀伊梨ちゃんを思い出したよ!」

紀伊梨の熊は、薄いベージュの熊。
首にバンダナを巻いて、ギターを弾いている。

可憐は見た瞬間、これは紀伊梨用だと思った。
可憐の周りでギターを弾くのは紀伊梨しか居ない。

「やったー!ちゃんとエレキだよー!」
「こういうのってクラシックギターなんじゃないのか普通w」
「年寄って、そういう発想になりそうなもんだけどね。」
「これは、どんな思い出なんですか?」
「これはね、確か息子さんがギターを始めた思い出だったかなっ。」
「ちな、お幾ら?w」
「おい。」
「な、棗君そういうのは聞かない方が・・・」
「あ、でも気になる気持ちも分かるよ・・・これは、94万だったけど。」
「おー!すごーい!100万くらいだー!」

わーいわーいと熊を抱えて喜ぶ紀伊梨。

100万ってお前、それ、ちょっとした中古車なら一括で買える値段だぞそれ。

とか、大人なら思うのかもしれないが、紀伊梨はそんなの知らない。
100万を100万と思わないで無邪気に高い高いしている今の紀伊梨の態度の方が、ベア自身は嬉しいのかもしれなかった。

「次は、はいっ!これは、棗君のだよっ!」
「太鼓だw可愛いな、おいw」

棗が貰ったのは、赤茶色をして太鼓を叩くベアだった。
バンドと言うよりは鼓笛隊寄りで、帽子もかぶっている。

「ごめんねっ!探したんだけど、ドラムは無くって・・・」
「いや、良いよw普通無いと思うしw」
「すごいすごーい!これも可愛いー!」
「お部屋に飾ったら、キュートな雰囲気になりそうですよね。」
「飾られるの此奴の部屋だけどね。可哀想に・・・」
「心底気の毒みたいな目で見るの止めてくれる!?大事にするよちゃんと!」
「あ、あはは・・・あ!この子は、娘さんが幼稚園の劇でお城の楽隊さん役をやった時のなんだってっ!53万だったかなっ。」

戦闘力かな、と棗は内心思ったが、実際このベアの戦闘力は53万ではきくまい。
思い出の化身だもの、大事にしなくちゃ。

「次は千百合ちゃん・・・はいっ!」
「ああ、ありが・・・」

と。
まで言えなかった。
千百合の濃い茶色のベアは、制服を着て手に真っ赤なハートを大事そうに抱えていた。

「・・・・・・」
「可愛いでしょっ?ベースも無かったから、どうしようかと思って・・・千百合ちゃんはお花にも詳しいからそっちにしようかとも思ったんだけど、こっちのが可愛いかと思ってこっちにしちゃったっ!」
「おおおー!うんうん、紀伊梨ちゃんもこっちのが良いと思うよ!」
「か、可愛いですよ!女の子らしくって、とっても素敵です!」
「良いじゃん良いじゃんwお前に足りない物をめっちゃ補ってくれてるじゃんこの熊wグッドチョイスだ桐生ちゃ、んっ!?」
「棗君!?」

腹に肘鉄を食らってのたうつ兄。
いや、兄は良いんだ兄は、それはどうでも良い。

いや。分かっているんだ、ちゃんと分かっているよ。
可憐に悪気なんてない。ただ、「千百合ちゃんはお付き合いしてる人がいたよね!」「恋人と言えば、やっぱりハートだよね!うん、可愛いし、ハートにしよう!」と思ってこれに決めたのだろう。

うん、そうね。
良いと思う。千百合だって、その思考の流れは不自然でもなんでもないし、寧ろ可愛いじゃん、良いじゃん、って思う。

貰うのが自分でさえなければ。
どうしようこれ、恥ずかしくて死にそう。

「・・・ありがと。」
「うんっ!」
「・・・大事にす、る。」
「うんっ!絶対大事にしてあげてっ!これね、お婆さんの初恋の思い出なんだってっ。今の旦那さんじゃないらしいんだけど、とっても大切な思い出なんだって言ってたよっ!186万だったかな。」

(・・・初恋ね・・・)

自分の初恋は、なんだかわけがわからないまま実っているけど、このベアは応援してくれるだろうか。
いや、やっぱり恥ずかしいから応援は良いや。そっと見守っていて欲しい。

「最後が・・・これは紫希ちゃん!はいっ!」
「はい。わあ・・・可愛いです!有難う御座います!」

紫希のベアは、両手に絵本を広げて持っているホワイトのベア。
耳に薄いピンクのリボンがかかっていて、全体的に色素が薄い。

「やっぱり紫希は本かw」
「可愛いー!ピンクと白で、紫希ぴょんぽいですなあ!」
「ね。なんかこの柔らかい感じが、ぽいわ。」
「えへへへっ!良かった、喜んで貰えてっ!これは、80万円で、娘さんがお気に入りの絵本を見つけた時の思い出なんだってっ!素敵だよねっ!」
「ええ、本当に・・・有難う御座います可憐ちゃん。こんなに可愛いのを頂けるなんて、思ってなかったです。」
「・・・そんなに気に入ってくれたっ?」
「ええ。こういう、本を読んでいるお人形やぬいぐるみって、私は好きなんですけれど・・・こう、スマートでかっこいい雰囲気のものが多くて。」

(あ・・・・)

「だから、嬉しいんです。こういうのは、なかなか見かけませんから。」
「分かる分かるw眼鏡かけてるのとか良く見るw」
「ベストとか着てるよねー!鉛筆とか持ってたり!青とか緑とか!」
「あー、そうよね。寒色で纏められるよね。オスのベアっぽいっていうか。」
「かんしょく?」
「寒い色、と書いて寒色というんです。人に寒さや冷たさを感じさせる色、という意味で、」

「・・・・・・」

ビードロズの言ってる事は当たってる。

というか、実はあった。
ドンピシャリ、そういうベアが。
眼鏡をかけて、本と鉛筆を持った、青いベストを着たベア。

あったんだけど。

(・・・あれは、見た時忍足君だ!って思っちゃったんだよね。)

眼鏡で、寒色で纏められてて、スマートな雰囲気が。
紫希にあげたのは「可愛い」ベアだが、「賢そう」という意味ではあのベアの方が賢そうだった。

いや。
なんだか話を聞いている限り、テストの成績的には紫希の方が若干良いように思えるし、単に眼鏡をかけているベアなら他にも居たし、忍足にはテニスと言う一面もあるから、そっちでも良くないかとちょっと思ったのだが。

でも何か、ピンと来てしまうともう、そうとしか考えられなくってさ。
何度も迷って、やっぱりこの賢そうなのを紫希用にするべきか、とも思ったんだけど。

でも、何か。
はい、って渡して、有難う御座います、って喜ぶ紫希の手元にあのベアが納まる光景を思い浮かべたら。

何か。

「可憐たん!」

「・・・・!」

可憐はハッとした。

「ねーねー、可憐たんの熊さんはー?」
「あ、ええと、あるよっ!うんっ!ええとね、こっちに、あう!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「急がなくて良いわよ。」
「落ち着いてw危ないw」
「ううう、ごめんなさい・・・」

いけない、ボーっとしてた。
自分で勝手にマイワールドに入り込んで転んでいたら世話は無い。

「ええと、これっ!これが私の熊さん!」

可憐が自分用に、と選んだのは、オレンジがかった薄茶色をした、両手にポンポンを持ったチアガールベアだった。

「おおお!可愛いー!応援してるー!」
「ええ。可憐ちゃんに、よくお似合いです。」
「そ、そうかなっ?マネージャーの熊さんは流石になかったから、応援繋がりでこれを貰っちゃったんだけどっ!」
「いや、良いと思うよ。近いじゃん。」
「これはどんな逸話です?又娘さんかなw」
「あ、ううんっ!これは、お婆さんのだってっ!チアガールやってたんだってっ!」

憧れの先輩が居たんだ、と言っていた。
格好良かったと。
ある日、勇気を出して告白したら振られてしまったけど、でもそれも大切な思い出なんだよ、と言っていたっけ。

可憐はこのベアを貰った時、ああ、今手にしたこれは大事な青春の一かけらなんだなあ、と思った。

大事にしないと。
可憐はそう思ったし、ビードロズもそう思った。

大事にして、そして。
誰も言わなかったけど、皆心のどこかで、ちょっと思っていた。

もし、お婆さんが仲直りできる日が来たら。
その時はこれを返す。
それまで、大事に。


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