For dive 2

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ・・・」
「なあ、おい。これじゃねえのか、探してたのって。」
「あー!本当だ、それそれー!」
「「ゆ」の所探してもないからな。」
「ほえ?なんで?」
「お前「ゆきはな」って読んでるだろ、ったく激ダサだぜ!「雪花」!「せっか」って読むんだよこれは!」
「へー!知らなかったー。」
「はあ・・・」

中古で探したいCDがあると言われると、面倒見のいい宍戸はじゃあ手伝ってやろうかなと言う気になる。
でも思った以上に困難な作業だった。紀伊梨がしょっちゅうこんな風に漢字の読み間違いをし、スペルの読み間違いをするのでいちいち時間がかかって仕方がない。

「いやー、でも見つかって良かったよー!ありがとー、亮ちゃん!」
「・・・良いけどよ、別に。」

こうやって正面からお礼を言われると叱れない。
面倒見の良い人間の短所と言うか、損な所というか。

「つうかお前・・・」
「の?」
「それ全部買うのか?」

紀伊梨の持つ籠には、既にCDが8枚入っている。さっきので9枚目。
幾ら中古と言っても此処は状態の良いのが集まる穴場なので、1枚100円とか200円で投げ売りされているわけではないし。

「買うよ!」
「小遣い足りるのか?」
「うん!おうち帰ったらおかーさんがお金くれるから!」
「前借りか?」
「ううん!あのねーCDとか楽器とかライブハウス代とかー、そーいうのはおかーさんが買ってくれるんだお!」
「ああ、そういう事か。」

テニスに置き換えるとよく分かる。宍戸家だって部費やジャージのクリーニング代や、シューズだのウェアだの各種消耗品だの新しいラケットだの、そういうのを小遣いから全部出せるなんてあるわけないので親の手を借りるのはどうしても避けられない。

それにしてももうちょっと遠慮したら・・・いや、バンドっていうのはこういう出費をケチったらまずいのか。なんて考える宍戸だが、紀伊梨は単に家が裕福なのにあんまり気づかないでバカスカ買っているだけである。

「頑張れよ。桐生から聞いてっけど、フェス?に出るんだろ?」
「うん!超楽しみだよねー!あんまり同い年居ないのが寂しいんだけどー。」
「え?あ、ああ・・・そりゃあそうか。」

バンドを組むと言っても、楽器を買うのにはお金が居るしメンバーだって揃えなくちゃいけない。そうなると多くのバンドが結成され出すのは中学に入ってからぼちぼちというケースが多くなり、春にエントリーを締め切られるレインボーフェスは自然、中学2年生以上が大多数になってしまうのだ。

「お前らって、いつからバンドやってんだ?」
「ん?小学2年せーの時だお!」
「へえ。結構前からだな。兄弟が楽器やってたとか、そんな感じか?」
「んーん!あのねー、小学2年せーの時に千百合っちのおとーさんがライブハウス連れてってくれたんだお!」


「・・・・・・」


「へえ!良いな、かっこいいじゃねーか!普通親って、そういう所に自分は行っても子供はなかなか連れてってくれないもんだぜ!」
「そーなの!?おー!じゃー紀伊梨ちゃん達ラッキーだったんだー!」
「ああ!もしかしてあれか?その黒崎の親父さんって人がバンドしてたりとかって奴か。」
「うーうん!千百合っちのおとーさんはバンドしないお!げーじゅつは爆発だー!っていって連れてってくれただけー。」
「成程な。その親父さんにとって、バンドは芸術なんだな。」


「・・・・・・」


「そいでねー、そこで見たライブがちょーかっこよかったんだよ!そんで紀伊梨ちゃん達もやろーって!」
「なるほどな。でもビビらなかったか?周りはなんていうかテンション上がった年上ばっかりだし、それこそロック系とか雰囲気がアングラ系なのも多い・・・あ。もしかしてガールズバンドか?」
「ううん!こーこーせーのおにーちゃん達だった!3ピースバンドでー、紀伊梨ちゃんぶつかっちゃってーーー」



「やっぱりお前かよ!」




突如放たれた大声に、サッと紀伊梨の前に出る宍戸。
こういう所が彼の長所である。

「お?お?」
「何だよお前いきなり!」
「お前に用はねえんだよ、後ろのガキ!お前!お前、あの時のガキだろ!」
「・・・って言ってっけど知り合いか?」
「んーん、知らなーい。」
「嘘吐け!お前がぶつかってきたんだろうが俺に!」
「???」
「覚えてねえのかよっつうか、今話してただろうが!神奈川!湘南!ライブハウスでぶつかってきただろ!」

指差して大声で威嚇してくるその姿をじっと見て、紀伊梨なりに必死に記憶をたぐってみる。

「・・・あー!もしかして紀伊梨ちゃん達に演奏してくれたおにーちゃん?」
「そうだよ!」

「ど、どうしたんですか?2人共大丈夫ですか?」
「何か壊したの?」
「えらい大声やったで。」

広めの店内と言えど、これだけどやどや騒いで居れば流石に3人も気づく。
紀伊梨と宍戸の元に辿りついた千百合は、序にショップの店員の顔立ちにも気づいた。

「・・・ああ、あの人。」
「誰なん?」
「昔ライブハウスで会った高校生。あ、会った時に高校生だったから今はもう大人か。」
「あああ・・・!ええと、ええと・・・間違ってたら失礼ですけど、ギター&ボーカルの方?でしたよね?」
「そうだよ。お前らはちょっとは記憶力良いらしいな。」

「えー!何それ紀伊梨ちゃんが記憶力悪いみたいじゃーん!」
「いや、良くはねえだろ実際。そこは庇えねえからな。」
「えええ!?亮ちゃんが敵に回った!」

嘗てバンドを組んで紀伊梨達と出会った高校生。現在大学4回生の板谷冬次は、此処で現在バイトをしている。
出会いこそ神奈川だったがあれは遠征。本来彼は東京都民なのである。

「で?」
「で?」
「今回はなんで怒鳴られてたんですか、あの馬鹿。何かしましたか。」
「何もしてないもーん!」
「いや、これは本当だぜ。俺達、話しながらCD見てただけだ。万引きとかもしてねえよ。」
「・・・て、言うてますけど。」
「な、何かお気に障る事でも・・・・」
「・・・俺は話しかけたかっただけだよ。なのにそこの奴が俺の事覚えてねえから!さっきからずっとカウンターの隣で喋ってるくせに声1つかけてきやがらねえし!」
「えー!そんな小っちゃい頃、1回見ただけの顔なんて忘れちゃうよー!」
「つうか、用事があんなら普通に話かけて来いよ!気づかれる努力もしてねえくせして、気づいてくれなかったって怒り出すって・・・激ダサだぜ、その年で!」
「ええい、煩え煩え!」

(・・・何か、変いうか我儘な人やな)
(こんな人でしたっけ・・・?)
(まあ思い出してみれば、あの時から結構俺様な事は言ってたけど)

「って!違う、こんな事話したかったんじゃねえんだよ!おい、チビ!」
「チビじゃないもん!五十嵐紀伊梨ちゃんだもん!なんですか!」
「・・・お前、マジでバンドやってんのか。」

紀伊梨はキョトン顔になった。

「やってるよ?」
「始めたのか。」
「うん!おにーちゃんに会った日の帰りにねー、皆でやろー!って!」
「フェス出るのか。」
「うん!」
「・・・上手いのかよ。」
「勿論!です!ビードロズは、世界で一番のバンドだもん!」

胸を張ってVサインする紀伊梨の瞳には、一点の曇りもない。

「おにーちゃんは?」
「え?」
「まだバンドやってる?フェス出る?」


「ーーーーーーー」


「紀伊梨ちゃん、レインボーフェスは高校生までしか出られませんので・・・」
「え?おにーちゃんこーこーせーでしょ?」
「やっぱ馬鹿だわ。」
「えー!?何が!?何処が!?」
「お前さっき小2の頃って自分で言っただろ!」
「五十嵐さん。自分らが小2の頃高校やった人は、今もう大学生かそれ以上やで。」
「あえ?あ、そっか!」

「・・・やってない。」

「え?」
「もうやってねえよ。解散したんだ、もう大学だしな!俺は受験だし、伊藤先輩も就活があるし。松岡だって、就職か受験か決めねえと。」
「???」
「五十嵐さん、ピンときてる?」
「いや、正直俺もこれはピンとは来ねえけど。」
「まあ、まだ私ら中1だし。進路とか将来とかの話はね。」
「具体的に何時何を始めるとかって、分からない事の方が多いですよね。」

(そうか、此奴らまだ中1なのか・・・)

自分が中1の頃ってどんなだっただろう。
まだ伊藤とも松岡とも知り合いじゃない、バンドやるなんて思いも寄らなかったあの頃。
そして歳月と共に解散が決まって、毎日が緩やかに退屈になっていくのを感じるようになる事もまだ知らなかった。

本当は、そんな日々が何か空しくて。
せめてバンドに縁のある事をバイトにしようと思って雇って貰ったこの店で、何の縁か紀伊梨達にーーーそう、今正にバンドグループである紀伊梨達を見つけて、柄じゃないけどちょっとお説教めいた事を言いたくなったのだ。

頑張れよって。
目の前だけ見て走れる時は何時までもは続かないから、走れる間に精一杯走っておけよって。

でも今、止めた。

多分此処に居るガキどもは、ガキどもガキどもって内心で呼んでいても嘗ての自分よりよっぽど大人でしっかりしてるんだろう。
齢12かそこらにして、やりたい事をその両手に捕まえる事が出来ている奴ばっかりだ。

「お前らはフェスに出るんだろ?」
「出るお!」
「・・・よし、じゃあ見に行ってやるよ!有り難く思えよ!」
「やったー!」
「序に成績良かったらご飯奢ってくれるて。」
「えっ!?マジかやったーーー!紫希ぴょん、千百合っち、頑張ろー!」
「ああ、それ良いね。ちょっとやる気出たわ。」
「い、良いんでしょうか・・・」
「おい!誰もそんな事言ってなーーー」
「そうなん?偉そうやったからそのくらいしてあげるもんやと思うてんけど。」
「ぐ・・・・!」
「忍足、止めてやれよ。貧乏学生で明日食う飯に困ってるかもしれねえじゃねえか。」
「あ、せやった。あかんな、最近跡部の所為で貧乏な俺様を見る機会があらへんから。」
「誰が貧乏な俺様だ!くそ、分かったよ!奢れば良いんだろ奢れば!」
「い、いえ、お気遣いなく・・・」
「うるせえ!黙って奢られてろ!」
「良いじゃん乗っかろーよ。」
「えええ・・・」
「どこが良いかなー!ロイ/ホ最近行ってないなー、あ!あそこ行ってみたい、いき/な/りス/テ/ーキ!」
「ふざけんな、屋台だ!夜は打ち上げだろ!奢るのは昼だからな!」

一応念の為に伊藤と松岡も呼んでおかないと。
と考える板谷は、良い口実が出来たことがちょっと嬉しいのだった。




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