Camp school:Cowardly spirit 2
「さて。じゃあ俺達も歩こうか。」
「あー、イヤ。怠い。」
グループAは町の中心部担当である。
元居た神社から然程離れていない。でも、精霊が居そうかと言われると居そうには見えない。その辺を探索する。
「なんか中途半端よね私ら。」
「思いがけずだけれど、五十嵐も春日も精霊に対して影響があるらしいからね。」
「ま、良いんじゃねえ?割と町のど真ん中に居たりするかもしんねえし。」
「ええ、我々は我々の足を信じるとしましょう。何も可能性が0というわけではありませんし。」
「まあね。可能性0って言ったら紫希のとこの方が可能性ほぼ0っぽいし。」
「・・・ふふっ。」
「何?」
「いや、別に。」
視界の端でガムが膨らみだした。
丸井が何かをぼんやり考えているときの癖である。
まあそれ以外の時もぷうぷうやってるけど。
「気になるかい、丸井?」
「え?」
「丸井はよく春日の面倒を見てくれてるみたいだから。でも、大丈夫だよ。弦一郎も桑原もしっかりしてるから滅多な事にはならないさ。」
「ああ、うん。」
この、ちょっと外した声掛けは勿論わざとである。
「居るかどうかは兎も角、春日さんは悪い”何か”も退けられるようですから安心ですね。事前に分かっていれば、徒に怯えさせることもなかったのですが。」
「何かちらっと言ってたけど、あれ何?仁王に何かされたの?」
「ええ、登山の時に。何か憑いているからそんなに苦労するのではないかと。」
「彼奴、すーぐそういう事言うよな。」
「らしいと言えばらしいけれどね。」
この、隙あらば人を揺さぶる方に持っていこうとする徹底した姿勢は、一周回って最近ちょっと尊敬を集めつつある事を仁王は知らない。褒めたりはしないけど。
「そういや、彼奴は彼奴で賄賂送ってたんだろい?五十嵐と一緒にしてくれって。」
「理由は想像つくけど抜け目ないって感じよね。」
「良いよね、仁王のそういう所。」
「ええ、とても。」
「「良いか?」」
「あはは!良いと思うよ、俺は。味方として、抜け目ない性格が伺えるのは歓迎すべきじゃないかい?」
「私も同意見です。目的が褒められたものではない事が多いのは確かですが、要領が良いに越したことはありません。」
「えー。ちょっと「それはそうかもね」って言いづらいわ。」
「ま、柳生はそうかもな。ダブルスパートナーとしては。」
ん、と千百合の口から思わず声が出た。
「そうなんだ。ちゃんとそういう事になったのね。」
「いえ、予定です。あくまで、予定ですから。丸井君、言葉は正確に使ってください。」
「ははは!はいはい♪」
「ふふふふっ。」
千百合はテニス部ではないので分からないことだが、内部から見ると仁王と柳生のダブルスについてのあれこれは、もうほぼ決着したようなものである。
ただ、はっきりと表明するにはまだ時期尚早。ギリギリまでその気である事は隠して居たいと思うのが、仁王という男に対しての柳生のプライド。
それからもう一つ。
「まあ。実際問題ダブルスを組めるかっていう事と、それが部で通用するかっていうのとは別問題でもあるしね。」
「ええ。重々承知していますとも。」
「?どういう事?部内で条件でもあんの?」
「じゃなくて。単純に勝てるのか、って話。」
「ああ。勝てないの?」
「筋が良い・・・とお褒めの言葉を頂くことはありますが、そもそも土台が初心者なものですから。なかなか思うようには。」
「まあ、そうか。そりゃそうよね。」
筋が良いというのは、あくまで人より多少素質がある、呑み込みが早いという事。
だが残念な事に、立海テニス部の中ではそれは「それだけの事」の域を出ない。柳生は今、テニスの初心者として我武者羅な基礎力の向上が要求されている。
「生徒会も結局辞めてないんでしょ。しんどくね?」
「元々、入部を決めた理由の一つに「張り合いがないから」というのもありましたから。確かに体力的には格段に厳しくなりましたが、毎日充実していますよ?とはいえ、流石にゴルフ部は退部してしまいましたがね。」
「十分見上げたもんよ、私からしてみれば。」
「いや。面と向かって今まで言った事はなかったけれど、実際よくついてきてるものだと思うよ。俺も、弦一郎と柳もね。」
普通にバリバリテニスやる気で4月から入部していても音を上げて脱落していく者が居るというのに、テニスの事とかあんまり知りません、生徒会もやってます、前の部活?ゴルフ部でした。な柳生が一体どうなることかという懸念は、三強のみならず全員が多かれ少なかれ持っていた。
最初部員全員の前で挨拶した時も、あからさまに「ああこりゃダメだ」「なんでここ来たんだろう・・・」な目で無遠慮に見ていた部員はいっぱい居た。
正直、柳生にとってはそれがモチベーションに一役かっている所もある。
あの目が、「此奴結構頑張るな。」「あれ?まだ辞めてなくない?」「・・・というか、何か普通に上手くなってない?」「待って、待って、もしかして俺此奴に抜かされるんじゃない?」という風に段々移ろっていくのとか最高に面白い。
「ふうん。まあ引き込んどいてあれだけど、上手くいってるんなら何よりだわ。」
「今更誰の勧誘であるかなんて気にしていませんよ。」
「仁王もその辺のことは全然気にしていないしね。」
「そうなの?」
「ええ。練習についてこれているかという点につきましては、完全に放置されています。」
「らしいっちゃらしいけどさ。」
「・・・・・・・」
後ろから追いつかれて。
そして追い抜かれるかもしれないという危機感。
それは丸井とても同じである。
柳生の伸び具合に戦々恐々としている部員は沢山居るが、追い抜かれる可能性があるのは全員。例外はほぼない。
丸井だって素質はある方だ。単に素質という点だけを取るなら十分以上。
でも、其の上で努力を重ねたとしても、「立海テニス部レギュラー」の椅子に座れるかと言われると正直厳しい。
はっきり言おう。
丸井は今の柳生が羨ましい。
柳生の意思がほぼ介在していないとはいえ、柳生は図らずももうスタイルが大体固定されてしまっているのである。
基本はダブルスプレイ。ペアは仁王。
そこまで決まっている前提で、後はそれに向かって進んで行くだけ。
丸井は違う。
そもそも今シングルス前提で練習してるけど、シングルスの座を狙うことなんて出来るのか。シングルスを狙うということは三強の誰かを押しのけて自分がその座に座るということだが、実際そんな事出来るのか。
そもそも今シングルスの練習してるのだって、「自分はシングルスで行くんだ」という方向性からじゃなくてただなんとなく。ダブルスそんなにやったことないし、というだけ。
本気でレギュラーを狙うなら、ダブルスプレイに重点を置くのもありか。
でも理由がそれで良いのか。
そもそもダブルスやるとして、ペアは誰にするのか?桑原?良いのか、それで?一度もそんな話振ったことないけど?
どうしたものか。
考えないといけないこと沢山あるのに、考える材料が足りてないというのはここ最近ずっと感じている。
考える軸がない。というか、足がかりが無い。
仁王がレギュラー選抜の時に感じていた、「何か足りない」を丸井は今身に差し迫って感じ始めているのだった。
「・・・・・」
「幸村君?」
「何、どうかしたの。」
「ふふ。何でもないよ。」
おおいに悩めば良い。
幸村は全部員に対して、そう考えている。
もっと悩め。もっと考えろ。
より強い自分になる為に、何が必要でどうしなければならないのか自分の頭で思考を続けろ。
それは上を目指すに当たって必要なプロセスだ。
壁にぶつかった時、もしかしたらそれを越えられないかもしれない。
全員が越えられるとは元より思っていないし、それならそいつはそれまでの者だったという話だ。でも、ちゃんと自分の力で乗り越えられたら。突破口を見つけられたら。
その時は。
「・・・でもまだもう少しかかるかな。」
「だから何がよ。」
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